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After24 唯花さん、ヤキモチ奏太に分からせ告白する

 前回のあらすじ。

 放課後、俺、唯花(ゆいか)伊織(いおり)(あおい)の四人でウチに帰ってきたんだが。


 なんと海外にいるはずの俺の親父が帰ってきていた。

 どうやら連絡もなしに帰国したらしい。


 んで。

 子供の頃からの気安さで親父が唯花を高い高いしやがったので、俺は怒髪天。


 唯花の肩を抱き寄せ、家中の窓ガラスが揺れるほどの大声で叫んでしまった。



「――こいつは俺の女だあああああああああッ!!!!」



 大声の宣言から一転、三上(みかみ)家のキッチンはシーンと静まり返った。


 伊織は「うーわー……」と頬を引きつらせている。

 葵は「はわわわわっ」と両手で顔を隠しつつ、指の間からしっかり見ている。


 唯花はというと、


「ふえええええっ!?」


 と真っ赤な顔で動揺している。

 一方、俺の親父は完全に呆気に取られていた。


「なん、だと……!?」


 ちなみに親父の格好は開襟シャツにジーンズ。

 ちょい悪オヤジの雰囲気だ。


 ただ今はそこにお袋のヒヨコ柄エプロンをつけているので、だいぶカオスな仕上がりになっている。


 そんな親父は軽くよろけ、愕然とつぶやいた。


「マ、マジかよ……」

「マジだっつーの! 唯花は俺の女だ!」


 大事なことなので二回言ってやった。


 ついでに唯花の肩をさらに力強く抱き寄せる。

 唯花の顔が近づき、耳元で「はわっ!?」と動揺した声がする。


「ちょ、ちょっと奏太(そうた)っ、近い! いくらなんでも近いから!」


「別に近くていいだろ。二人きりの時はだいたいいつもこの距離なんだから」


「そうだけどっ! いやそうじゃなくて! と、とにかくみんなが見てるからぁ!」


 親父や中学生たちの目を気にして、唯花はわたわたする。


 だがしかし、


「俺は一向に構わんッ!!」

「あたしは構うんだけどもー!?」


 唯花が両手をばたばたさせて離れようとするが、完全にホールド。


 逃がさん。

 何があっても逃がさん。


「力強っ!? 奏太の意志が固い!」

「クソ親父に理解させねばならぬ。絶対に、絶対にだ」

「うぅ~、ばかぁ……」


 唯花は真っ赤な顔のまま、すべて諦めた表情でぐてっとなった。


 俺の覚悟を感じ取り、これはテコでも動かないと悟ったようだ。


 一方、親父はそんな俺たちのやり取りを見て後退り、大いにたじろぐ。


「む、息子がよそ様のお嬢さんとイチャついていやがる……」

「いいだろ、別に。俺たち付き合ってんだから」


「息子よ、父親の前でそんなイチャついて恥ずかしくないのか?」

「はっ!?」


「お父さん、ちょっとドン引きだぞ?」

「だ、誰のせいだ、誰の!?」


 というか、親父だって俺の前でお袋とよくイチャついていた。

 どの口が言うんだって話だ。


 親父は「はあ……」とため息をつく。


「オレ、まだ信じられねえよ……」

「いや信じろっての」


「ウチの馬鹿息子が唯花ちゃんとなんて……あと一年ぐらいはぐだぐたやってると思ってたのに」

「おい待て、なんだそのリアルな数字」


 大学進学辺りで付き合うと思ってたのか?


「信じたくねえ……っ。賭けはオレの負けだっていうのか……?」

「は? 賭け?」


 親父はやおら頭を抱えた。


「ハニーと誠司(せいじ)となっちゃんに大金取られちまう……!」

「おいまさか俺たちがいつ付き合うか、両親ズで賭けてたんじゃないだろうな!?」


 ちなみにハニーというのは俺の母親のことだ。

 結婚して十数年経つのに親父はそんな呼び方をして日々、お袋とイチャコラしている。


「ちょっとタイムだ、馬鹿息子」

「あん? どういうことだってばよ、クソ親父」


 親父はジェスチャーをしながらタイムを宣言した。

 そしてジーンズのポケットからスマホを取り出す。


 素早く操作すると、どこかへ電話をかけ始めた。


「――もしもし誠司か?」


 どうやら唯花の父親の誠司さんに掛けたらしい。


「なんかウチの愚息がさ、お宅のお嬢さん掴まえて『俺の女だ』とかのたまってんだけど、これ嘘だよな? 親として叱った方がいいよな? どうする? 処す? 処す?」


 コラコラ、処すってなんだ。

 一人息子を処刑する気か、クソ親父。


「は? 冤罪? 処さなくていい? いやだってお前……え、付き合ってる!? じゃあ、なんでお前、オレに言わねえんだよ! どういうことだってばさ!?」


 なんか誠司さんが説明してくれているらしい。

 仕事中だろうに申し訳ないな。


「帰国した時のサプライズだあ? いるかそんなもん! だって賭け、オレの負けじゃん! あ~、ちくしょう……っ」


 親父が俺の方を見て、歯をギリギリしている。

 いや知るか。こっち見んな。


「ったく、こうなったら飲むぞ! 今から如月(きさらぎ)家いくから、お前も仕事終わらせて帰ってこいよ。なっちゃんと三人で宴会だ。愚息と唯花ちゃんの話を肴に飲むぞ」


 一方的に言って、親父は通話を切った。

 肩を落としてエプロンを外すと、キッチンから出ていこうとする。


「んじゃ、いってくるわ。今日はメシ、あっちで食うから。お前も夜になったら唯花ちゃん送りがてら来いよ」

「いやいや来いよじゃねえから!」


 親父が普通に出ていこうとするので、さすがに目を剥いた。


「誠司さん、仕事中だろ? 勝手に帰らせんなよ!」

「いいんだよ、あいつ放っとくと働き過ぎるから。たまにサボらせるぐらいでちょうどいいんだ」


「なんだ、その理屈……」

「本当だぞ? 誠司の奴、生真面目すぎて普通なら過労死するレベルで働くからな。昔からオレやなっちゃんが適当に言って休ませることにしてるんだ」


 本当かどうかもわからんことを言い、親父はフライパンの方を指差す。


「ソーセージは勝手に食っていいぞ。学校帰りで腹減ってんだろ」


 そう言ったところで、中学生たちが廊下から顔を出していることに気づいたらしい。


 親父は足を止め、瞬きをする。


「お? まさか伊織くんか?」

「久しぶり、太一(たいち)おじさん」


「おー、でっかくなったなぁ! 男前になったじゃないか」


 親父は喜色満面でわしゃわしゃと伊織の頭を撫でた。

 多感な中学生に対して、だいぶ距離感がバグっている。


 が、いつものことなので伊織は「あーもー」と言うだけで慣れたものだった。


「太一おじさん、奏絵(かなえ)おば……じゃなかった、奏絵さんは一緒じゃないの?」


「気をつけろ、伊織くん。おばさん扱いすると、ハニーにヘッドロック掛けられるぞ?」


「……だよね。いま思い出した。言い直したから内緒にしてて」


「オーケー、男の約束だ。ハニーは仕事でな、オレだけ休みが取れたからちょっと顔見にきたんだ」


「じゃあ、またすぐ外国いっちゃうんだ?」

「デキる男の辛いところだなぁ。……と、こちらのお嬢さんは?」


 伊織の背後で隠れ気味の葵に気づいたようだ。

 親父が視線を向けると、葵はぺこりとお辞儀をした。


「えと、こんちには。お邪魔しています」

「紹介するね。こちらは星川葵ちゃん。僕と同じ中学三年生だよ」


「こりゃどうも。そこにいる奏太の父です。いらっしゃい」


 一応、大人っぽい対応で笑みを見せる、親父。

 唯花や伊織のような身内にはともかく、よそ様にはちゃんと外面は良かったりする。


 ちゃんと対応されたことが意外だったのか、葵は軽く身じろぎした。


「あ、その……奏太兄ちゃんさんにはいつもお世話になってます」


「そっかそっか。だったらいいけど、迷惑かけてないかい? 誰に似たんだか、あいつデリカシーないからなぁ」


 失礼だな、おい。


「あー、デリカシー……」


 なんで遠い目をするんだ、義妹(いもうと)よ。


 そんな会話をしていると、親父は一歩踏み込んでみることにしたらしい。


 からかうようにニヤニヤし、伊織へと視線を向ける。


「葵ちゃんって、もしかして……伊織くんのカノジョか?」

「うん」


「ん?」

「うん」


 伊織は普通に頷いた。

 親父は目が点になった。


 ふっ、からかうつもりだったようだが、俺の弟分を甘くみてもらっては困るな。


 俺と唯花のことがあったから、伊織は次に自分たちの方に話がくると読んでいたのだろう。見事に冷静な対応だった。


「言っちゃっていいよね、葵ちゃん?」

「あ、うん……伊織くんがいいなら」


 頷きつつ、葵の頬が朱色に染まる。

 照れくさそうだが表情はめちゃくちゃ嬉しそうだ。


 伊織にカノジョ扱いされると、葵はことさら喜ぶからな。


 ごほん、と咳払いし、伊織は親父の方を向いた。


「あのね、太一おじさん、僕たちはお付き合いしています。葵ちゃんは僕のカノジョです」

「なん、だと……!?」


 親父の目がまん丸に見開かれる。

 そして大げさに天を振り仰いだ。


「しまった。伊織くんの賭けはしてなかったなぁ……っ」


「いや賭けられても困るから。ウチのお父さんとお母さんもそうだけど、その賭け事は本当どうかと思うよ?」


「だってなあ、ウチの愚息と伊織くんのお姉ちゃん、生まれた時からベッタリだろ? いつくっつくのか、って話題にはなるじゃないか」


「まあ、確かに僕も長年同じこと思ってたけど」

「しかしそうか、唯花ちゃんだけじゃなく、伊織くんもかぁ。オレも年を取るわけだなあ」


 親父は腕を組み、何やら感慨深げに頷く。

 そして無駄にキリッとした表情で葵へ話しかける。


「葵ちゃん、伊織くんのこと、よろしく頼みます」

「あっ、は、はい! わたし、精一杯、伊織くんを支えますので!」


「僕、今、中学校で生徒会長をしてるんだ。葵ちゃんは副会長をしてくれてるんだよ」


「生徒会長? おいおい、立派になったな、伊織くん」


 いやあんたの息子も高校で会長してるんだがな。

 まあ、そういや言ってなかった気もするが。


「葵ちゃんみたいな子が伊織くんのそばにいてくれたら安心だな。こんな聡明そうなお嬢さんが――ん? いや待てよ? お嬢さんというか……」


 ふいに親父の動きが止まった。

 何かに気づいたようにあご先に手を当てる。


「太一おじさん?」


 伊織が呼びかけるが返事はない。

 親父はやたらと難しい顔で何やら考え込んでいる。


「これはまさか……うん、そうだよな……」


 親父は葵のことをじっと見て、それからすぐに伊織の方へと視線を向けた。


「ここが彼氏と彼女で……」


 そのまま視線は伊織から唯花へ。


「ここが姉と弟で……」


 さらに唯花から俺へ。


「で、ここが彼氏と彼女……」


 そして俺から親父自身へ。

 

「最後にここが親と子……ってことはだ」


 親父は無駄に大きく頷いた。

 そして今度は視線が戻っていく。


 親父はまず俺を見る。


「オレの息子」


 そのまま視線は唯花へ。


「息子の彼女だからオレの義理の娘」


 今度は伊織。


「義理の娘の弟だから、オレの義理の息子」


 そして葵へ。


「オレの義理の息子の彼女だから――」


 一瞬の静寂。

 直後、親父の両目がカッと見開かれた。

 家中の窓ガラスが揺れるほど、無駄に大きな声が鳴り響く。


「――葵ちゃんはオレの義娘(むすめ)だな!」

「デジャブ!? その義娘認定、なんかすごいデジャブを感じるんですが!?」


「あー、ごめんね。この人、奏太兄ちゃんのお父さんだから……」

「DNAが濃すぎませんか!?」


 はっはっはっ、と親父は大笑いする。


「葵ちゃん、オレのことは親しみを込めて『太一おじさま』って呼んでいいぞ!」

「またデジャブ!? その呼び方指定、なんかすごく覚えがあるんですが!?」


「あー、ごめんね。この人、お姉ちゃんが生まれた時から近くにいるから」

「影響がエグすぎませんか!?」


 目を白黒させる、葵。

 心底申し訳なさそうな伊織。


 そして親父は伊織にしたのと同じように、葵の髪をわしゃわしゃ撫でる。


「ウチを自分の家だと思っていいからな。いつでも好きに使ってくれよ、葵ちゃん」


 義娘判定した途端、一気に身内扱いだった。


「は、はぁ……ありがとうございます、太一おじさまさん」


「苦しゅうない、苦しゅうない。なんせオレの義娘だからな! 困ったことがあればいつでも言ってくれ。地球の裏側からだって助けにいくぞ」


「なんか……本当にそんな遠くからでも来てくれそうで怖いんですが。だって奏太兄ちゃんさんのお父さんですし」


「うん、来るよ。この人は本当に来て、色々解決してくれちゃうよ。だって奏太兄ちゃんのお父さんだし」


 いやお前ら俺をなんだと思ってるんだってばよ?

 

 言っとくが義妹や義弟が困ってたら親父の出る幕なんてないからな?


 そんなん速攻で俺が助ける。

 ……などと思っていたら、突然、頬をつねられた。


 唯花だ。

 親父たちの注意が逸れたからか、俺の頬をつねってジト目を向けてくる。


「んん? どうした?」

「どうした、じゃないのー!」


 器用に小声で文句を言い、可愛らしく頬っぺたを膨らませる。


「みんなの前であんな恥ずかしい宣言しちゃって! 普通に言えばいいでしょー? お付き合いしています、って」


「いやだって……」

「シャラップ! だってじゃありませんっ」

「ぬう……」


 それっぽい発音でビシッと言われ、俺は首をすくめた。


 いやまあ、落ち着いて考えてみると、確かにごもっともではある。

 あんなに大声で宣言する必要はなかった。


 親父が葵を大声で義娘宣言しているのを見ていたら、人のフリ見てなんとやらな気持ちになってきた。


 だが、だがしかし。

 どうしても頷くことはできない。


「……しょうがないんだ」

「むむ? 今日の奏太は聞き分けない子なの?」


 腰に手を当て、生徒を叱る教師のように顔を覗き込んでくる。


「言ってごらんなさい。何がしょうがないのかね?」

「……」


 俺は頭をかいた。

 先生モードの唯花にここまで問い詰められては素直に白状するしかない。


 気恥ずかしくて明後日の方を向きつつ、俺はぼそぼそと言う。


「親父にも誰にも取られたくないんだよ、唯花のこと……」

「ほえ?」

 

「……好きだから」

「――っ!」


 唯花の頬が一瞬で木苺のように染まった。

 そのままあたふたと視線をさ迷わせる。


「と、取られたりするわけないでしょー? 何を不安になってるのよ、変な奏太っ」


「や、だってよ」

「太一おじさんにヤキモチ妬いちゃったの?」

「……」


 違うとも言い切れず、俺はもごもごと口ごもる。


 すると唯花はすべて察したように肩をすくめた。


「そっかそっかー。奏太もヤキモチとか妬いちゃうんだ。なんか新鮮」

「ぐぬう……」


 なんか本気で恥ずい。

 居たたまれないことこの上ない。

 穴があったらマントルの奥深くまで入りたいくらいだ。


「いい、奏太くん?」


 まだ先生モードのまま、唯花が語り掛けてくる。


「君は不安になる必要なんてありません。だって……」


 きっぱり言い、直後に唯花はなぜかもじもじと廊下の方を窺う。


 そうしてまだ親父たちが話し込んでいることを確認すると、少しだけ背伸びをして俺に寄りかかってきた。


 桜色の唇がこっそりと耳元で囁いてくる。


「だって、あたし……奏太のことが世界で一番大好きなんだから」

「――っ!?」


「あたしがこんなこと言うの、世界中で奏太だけなんだからね?」


 宝石のようなきれいな瞳が見つめてくる。

 そして指先で頬をツンと押された。


「分かりましたか?」

「……わ、分かりました」


 なんかめっちゃ分からされてしまった。


 心が浄化されていくのを感じる。

 制服ムーンやプリティキュアの悪役モンスターが必殺技で浄化されるのもこんな感じなんだろうか。


 しかし、なんだ。

 その……親や弟妹がそばにいるのに好きだなんだと言い合うのは……。


「……めっちゃ恥ずいな」

「だからそう言ってるでしょー!」


 唯花の渾身の叫びが木霊した。

 今日ばかりは俺も反省するしかなさそうだ。

※3月4月に更新できなかったので、明日明後日も16時ぐらいに更新します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「……好きだから」のとこの奏太君、非常によきです。何と言うか、恥ずかしがってるというよりはどうしようもない感情が零れ落ちた、みたいな??(※個人の解釈です)そりゃ奏太君の愛の言葉はいっつも…
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