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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
アフターストーリーズ

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After12 甘えたいモードの唯花さん


 はてさて。

 放課後になり、今日も今日とて俺の部屋である。


 ちゃぶ台代わりの小テーブルを挟んで、唯花(ゆいか)は宿題をやっている。


 もちろん俺も教科書とノートを広げ、数学の宿題と格闘中。


 宿題を進めるペースはいつもだいたい同じぐらいだ。

 しかし今日は唯花の方が若干早かったらしい。


「できたー! えへへ、唯花ちゃんの勝ちー!」


 両手を広げて勝利宣言。

 おおう、何やら負けてしまったぞ。


奏太(そうた)はー? まだ終わんないのー?」

「もうちょいだ。あと1ページ」

「むー……なのです」


 何やらリスのごとく頬を膨らませる唯花さん。


「早く終わらせてほしーなー」


 唯花はテーブルに頬杖をつくと、花のように開いた両手にあごを乗せ、じぃーっと見つめてくる。


 黒髪が白い頬を伝い、大きな瞳は宝石のように美しい。

 油断すると思わず見惚れてしまいそうなほどだった。


 しかし……妙に瞳が潤んでいる。

 なんかすげえ美少女ビームを撃たれてる気分だぞ?


「唯花さんや」

「なんじゃらほい、奏太さんや?」

「見られてると宿題しづらいんだが……」

「あー」


 なるほど、と大きな頷き。

 唯花は「しゅたっ!」とわざわざ声に出して立ち上がると、そばにやってきて隣に座った。


 それはいいんだが……なんか近くないか?


 肩が触れ合うどころか、ほとんど俺に寄りかかっている。

 制服越しの柔らかさとかリンスの匂いが教育に悪いことこの上なし。


 そんなこっちの気も知らず、唯花は俺のノートを覗き込む。

 

「どこが解けてないの? 答え教えてあげよっか?」

「何を言っているのかね、チミは」


 思わず唯花がたまにやる教頭口調になってしまった。


「宿題は自分でやらなきゃ意味ないだろ。もうちょいだから良い子で待っててくれ」


「えー。もうちょいってあと何分? 地球が何回まわったら?」


「いや一回まわってもアウトだからな? これ明日提出の宿題だぞ」


「じゃあ1分だけ待ってあげる」

「いやいきなりハードル上がり過ぎだろ!? さっきは地球一周分の24時間だったのに!」


「だいじょーぶ! 光は1秒で地球を7周半できるって漫画で言ってた!」


「光速に追いつけと!?」

「奏太なら光の速度だって超えられる! 唯花ちゃんは信じてる!」


 なんてこった。

 こやつめ、俺を黄金聖闘士(ゴールド・セイント)にでもするつもりか……っ。


 どでかい『ゆいか箱』にクロスを入れて背負い、小宇宙に目覚めるべく修行している自分を想像して軽く眩暈がした。


 するとその間に唯花は俺の左腕を「よいしょ」と持ち上げ、ジェットコースターのバーのようにセット。


 気づけば右手で宿題をし、左手で唯花を抱くような体勢になっていた。


「いやいや、どういう状況なんだ、これは?」

「お気になさらず」

「気になるってばよ」


「いいからー。早く宿題終わらせてよー。そして唯花ちゃんを思うさま可愛がりなさい」


 腕のなかから見上げてきて、唯花はまた頬っぺたを膨らませる。

 それでようやく俺はハッと気づいた。


 まさか……今日は『甘えたいモード』か!?


 説明しよう。

 唯花の気分は日々様々に変わりゆく。

 

 なかでも最も多いのが問題の『甘えたいモード』である。


 このモードの唯花はとにかく甘えたがる。

 ありとあらゆる手段を使って、可愛がってと仕向けてくる。


 うん、つまりいつもの唯花だな。

 まったくもって通常運転の唯花だ。


 しかし、いつも通りと侮るなかれ。


 宿題をやっている時の『甘えたいモード』は非常に困るのだ。

 なぜならまったく集中できない。


 だから『甘えたいモード』の日は唯花よりも早く宿題を終わらせる必要がある。


 これが『遊びたいモード』の時ならいい。


 唯花の方が早く終わっても、俺の背中を背もたれにして、勝手にスマホの周回作業をしててくれる。


 だから正直、油断していた。


 確か直近でイベントのアップデートがあったはずだ。よって今日は絶対に『遊びたいモード』だと思っていた。だがこの様子だと何か手違いがあったようだ。


「まさか……っ」

「ふっ、気づいたようね」


 スチャッと唯花のスマホがかざされる。


「緊急メンテでアプデが延長されてるのです!」

「運営、仕事しろーっ!」


 俺の嘆きが木霊した。

 だが良く訓練されたマスターは勝手な嘆きを許さない。


「こらー、失礼なこと言わない! 運営はお仕事してるの! より良きイベにするために今も頑張ってくれるの! 詫び石もくれるし!」


「おのれ、お前は俺と運営のどっちの味方なんだ!?」

「ふっ、決まっているのです。どっちがどうのではなく、奏太があたしの味方なのだーっ!」


「圧倒的な説得力……っ」


 有無を言わさず思いっきり納得させられてしまった。

 

「というわけでゲームをお預けされてる唯花ちゃんの哀しみを受け止める義務が奏太にはあーる!」

「すげえ早口でまくし立ててきおる……っ」


 しかし状況は理解できた。

 本来、『遊びたいモード』だったはずなのにアプデが終わらず、今の唯花は『スーパー甘えたいモード』になってしまっているのだ。


 こうなっては運営と戦っている暇はない。

 唯花の味方として、俺が倒すべきは目の前の宿題である。


「じゃあ手早く終わらせるから、ちょっとどいててくれ。集中できぬ」

「ん~、かしこまった!」


 素直に頷き、ジェットコースターのバーがガッチャン。

 唯花は俺の腕から離れて、背中の方に移動する。


 いつもならスマホで周回作業をするポジションだ。


 しかし英霊のゲームはアプデ中。

 艦隊ゲームの方もノートパソコンが唯花の部屋なのでプレイできない。


 おかげで何が起きるかと言うと、


「まだかにゃ~。まだかにゃ~」


 唯花は俺の左肩からひょっこりと顔を出し、宿題を覗き込む。

 かと思えば、


「まだかにゃ~。まだかにゃ~」


 今度は右肩からひょっこりと顔を出し、同様に覗き込む。

 ちなみに両手は俺の肩に置かれていて、ぴったりと寄り添っている。


 ひょっこりする度に柔らかい胸が当たりそうになったり、当たらなかったり、いや今ちょっと当たったぞ!?


「~~~~っ」


 俺はノートに突っ伏した。

 できぬ。

 集中できぬ。


「まだかにゃ~。まだかにゃ~」


 集中力を爆散させていることにも気づかず、唯花は右に左に顔を出し、謎の『まだかにゃダンス』を踊っている。


 声が可愛い。

 仕草が可愛い。

 あと胸が当たったり、当たらなかったり。


 ダメだ。

 この『まだかにゃダンス』は俺をダメにする……!


「唯花、ステイ」

「はにゃ?」


「ダンスは勉強の妨げになるのでおやめなさい。教室ではお静かに」


「む~。ここは教室ではないけれど、学生が勉学に勤しんでいれば、それはどこでも教室なのだ、ということなのね?」


「左様にござる」

「ならば是非も無し」


 唯花は舞いをやめ、俺の背後で女の子座り。


 よし、大人しくなったな。

 さあ今のうちに早く宿題を……と思っていたら。


「……?」


 今度は背中に指先が触れるのを感じた。

 線を引くように動いている。

 字を書いてるのか?


「問題。なんて書いてるでしょーかっ」


 いや数学の問題を解いてる時にクイズの問題を出すんじゃない。

 と思うも、ついつい意識は背中の方へ向いてしまう。


 これは………………『す』か?


 で、次は……………『き』?


「ヒントはねー、今あたしが思ってること!」

「~~~~っ」


 こやつ……可愛さの女神か!?

 本当に黄金聖闘士になって永遠に守ってやろうか、こんちくしょう!


 いかん。

 いかんぞ、俺。


 落ち着け。

 クールになれ。


 ここで正解したら間違いなく宿題どころじゃなくなる。


「はい、答えはー?」

「わ、わからぬ」

「えー。奏太の鈍感主人公めー」


 違うっつの!

 むしろ鈍感じゃない主人公だから答えられないんだっての!





 結局、この日は唯花の猛攻を凌ぎながら宿題と格闘する羽目になった。

 『スーパー甘えたいモード』の恐ろしさを心から知った俺でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] か、か、かわぇぇぇぇぇ〜〜〜 もうひたすらに可愛い。可愛すぎる。それしか言えん。 一挙手一投足が即死級の可愛さを帯びている… 甘さだけなら過去トップクラスの一話だった。とにかくあまっあまに…
[一言] 更新お疲れ様です✨ 久しぶりのおさほう…はわわわわなのです! ゆいか……めちゃかわいい……… 学校でニマニマしておりますぞ!w 次回も楽しみにしてます!頑張ってください!
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