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幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)  作者: 永菜葉一
4章「幼馴染決戦!」

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第137話 部屋とあたしと奏太にゃん③

「よしよーし、奏太(そうた)にゃんはいい子だね~」

「にゃー……」


 唯花(ゆいか)がご機嫌で撫でてくる。

 一方、俺はまんまネコのような声を上げてしまう。


 自慢の理性さんが活動を休止しようとしていた。

 音速の打撃を受けるでもなく、ロケットで打ち上げられて星になるでもなく、ただただ眠りに就こうとしていた。


 過去、幾度となくひどい目に遭ってきた理性さん。

 無数の修羅場をくぐってきた理性さんがこれほど穏やかに止まってしまうことなど、初めてのことだった。


「……信じられぬ。この我と理性さんのタッグが敗北する日が来ようとは……」


 体から力が抜けていった。

 唯花に抱き締められている俺はぐんにょりとずり下がっていく。


「……だが忘れるな、唯花にゃん。否、如月(きさらぎ)唯花よ……。たとえ今、我と理性さんを倒そうとも、必ずや第二、第三の我と理性さんが現れ――」

「んー? 今度は膝枕でゴロゴロしてほしいの? いいよー」

「――あ、現れ……」


「はーい、ゴロゴロー♪」

「あらわれ……」


「ゴロゴロしながらぎゅー♡」

「あらわれ…………ないにゃー」


 世界は平和になった。

 魔王とその分身は完全に封じられた。


 膝枕で唯花にぎゅーっとされながら、俺は柔らかい敗北に沈む。

 もう頭がまわらなくなってきた。


「唯花……」

「なあに?」


「なんか楽しいな……」

「ふふ、そうでしょう?」


 ふわっとしたキレイな笑顔。

 まるで女神のようだ。


 ずっと見ていたいと思ってしまう。

 永遠にこのままでいい気がしてきた。


 細い指先が伸びきてきて、俺の前髪を優しく梳く。


「奏太にゃんはね、いつもすっごく頑張ってるから、たまにはこうして甘えていいんだよ」

「……俺、頑張ってるかな」

「頑張ってるよ。あたしのためにいつも頑張ってくれてる。だから今はあたしからのお返しの時間なの」


 つんつん、と指先が俺のネコミミをつつく。


「奏太にゃんの弱いところ、あたしに見せていいんだよ?」

「ああ……」


 ……そういえば言ってたな、そんなこと。


 ――奏太にだって、本当は自分の弱いところを見せられる相手が必要なんだよ。


 なるほど、俺を奏太にゃんにしたり、『好きな人がいるの』と言って混乱させりしたのは、すべてここに持ってくるための策だったのか。完全にしてやられてしまったな。


 唯花は成長し、かつての力を取り戻し始め、俺を気遣ってくれるまでになった。

 その結果がこの時間だ。


 でもなぁ、俺にわざわざ吐露したい弱いところなんて…………あ。


「あったかもしれぬ」

「なになに?」

(あおい)が……」


 口に出した途端、哀しみが胸に押し寄せた。


「いまだに俺のことを変態さんだと思ってるっぽいんだ……っ」

「そんな……っ」


 唯花も驚愕に目を見開く。


 俺の思い違いだと思いたいが……たぶん事実だと思う。

 葵は今も俺を変態さんだと思っている。


「葵ちゃんのなかのゲージが上がるようなこと、何かしちゃったの?」

「いいや、ほとんど身に覚えがない……」


 あるとすれば、伊織(いおり)とのマシンガンキスの回数を数えていたり、夜這い伝説を防ぐために中学生たちの前で義妹認定した程度だ。しかしまさかそんなことで変態さんゲージが上がるとも思えない。


「たぶん難しい年頃なんだろうな……。京都の一件でかなりお兄ちゃんとしての信頼を勝ち取れたと思うんだが、同時に『それはそれとして変態さんですよね』という雰囲気も常に感じる。俺はそれがとても哀しい……」


「そっか……葵ちゃんはまだ中学生だものね。すごく繊細なんだと思う。……大丈夫、いつかきっと分かってくれる日がくるよ」

「本当にそうだろうか……」


「うん、唯花ちゃんが保証してあげる!」

「ゆいかぁ……っ」


 笑顔で励まされて、ほろりときた。

 うん、たまには弱音を吐くのもいいかもしれない。


「じゃあ、ちゃんと言えた奏太にゃんにはご褒美をあげます」


 唯花はベッドのサイドボードに手を伸ばした。

 そこには洒落たガラスの皿があり、この部屋にとっては珍しいものが置かれていた。


 ハート型のチョコレートだ。


 500円玉より多少大きいくらい。

 俺も唯花もあまり間食をしないので、お(うち)デートでもない限り、この部屋にお菓子があるのは珍しい。


「奏太にゃんのオヤツ用に用意しといたの」

「別に構わんけど……ネコにチョコレートって有害らしいぞ?」

「あ、そうだっけ? だったら……」


 包装紙を剥き、ふわりと笑う。


「今だけ人間の奏太に戻っていいよ? ――はい、召し上がれ♡」


 度肝を抜かれた。

 唯花が自分の唇にチョコレートをくわえ、膝枕中の俺へ顔を近づけてきたからだ。


「え、いや、唯花っ! 今の俺は人間だぞ!?」

「んー……」


 チョコをくわえてるから喋れない。

 問答無用だよ、とばかりに可愛くてキレイな顔が近づいてきて――。


「おい、マジか!? いいのか!? なあ、なんとか言ってくれよ!? ああもう……っ!」


 食べた。

 唇には触れられなかった。


 変に力んでしまい、くわえた瞬間にチョコが割れたからだ。

 しかしそのやり取りだけで心がやられた。


 俺はシュ~ッと頭から湯気を出し、がっくりと横を向く。

 一方、唯花は「えへへー」と満面の笑顔。


「どう? あまあま?」

「ああ…………すっげえ、あまあま」


 もぐもぐしながら、どうにかそれだけ答えた。


 やばい。

 もう唯花に負けっ放しでもいい。

 なんかこの部屋に永住したくなってきた……。


次回更新:2/17(月)予定


【お知らせ】

長らくお待たせしました!

書籍化1巻が『3月1日(日)』に発売になりまーす!


詳しくは活動報告をご覧下さいませ。

活動報告のなかで表紙も公開してます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 朝ちゃんセンセが去勢とか言うから、このままじゃ奏太くんが唯花ちゃんに駄目にされちゃう、みたいな 非常事態のように受け止めてしまいがちだけど 奏太くんが、唯花ちゃんのこと、恐れることなんて…
[良い点] 奏太くんが完全に幻覚系の技をくらって「りそうのせかい」に閉じ込められたっぽい感じになってる笑 >「いまだに俺のことを変態さんだと思ってるっぽいんだ……っ」 「そんな……っ」 …
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