第119話 引きこもり美少女とお家デート⑥
ここまでのあらすじ!
俺たちは頬っぺたにチュウ写真を撮ろうとしていた。
しかし不慮の事故で唇ギリギリ、下手したら本気チュウに見えかねない写真が爆誕してしまった。
さすがにこれはいかんと思った……が!
速報っ、唯花から本気チュウ写真を消さなくていいとのお達しが出ました!
「……よっし!」
俺は心のなかでガッツポーズし、光速で保存。
光の速度で写真をスマホ内の唯花フォルダに収納した。
そして先ほどの発言、『……あたしも本当はずっと奏太に本気チュウしたかったし』に言及しようと思ったのだが、その前に唯花が「えいっ」と俺の腕にもたれかかるようにしてスマホを覗き込んできた。
「ちゃんとあたしにも送ってよー」
「――っ!?」
俺の脳内に電流が走る。
スマホを覗き込まれるのは別にいい。唯花フォルダには例の谷間写真も入っているが、それは唯花も了解済みだから問題ない。
電流が走った理由は別にある。
萌え袖だ。
指先の見えない萌え袖がちょこんと、俺の腕に寄りかかっている。
それも右と左で二つの萌え袖。
なにこれ可愛い!
さらには制服が中学のものだから、いつもより唯花が幼く見える。
それがかわゆい度をこれでもかと倍増させていた。
「……? どったの、奏太? まるで雷に打たれたかのように震えてますけれど?」
「唯花さんや、頼みがあるのだが」
「なんじゃらほい?」
「写真は送る。間違いなく貴殿に送りますので言い方を少し変えて頂きたい。『お兄ちゃん、ゆいかにも送ってよー』とやや甘えた感じで頂きたい」
「よく分からないけど、また業の深いお願いを……」
「お叱りは百も承知! しかしどうか武士の情けと思って……っ」
「……仕方ないにゃー」
困り顔で言い、唯花はくるんっと表情を変えた。
そして俺の方を見つめて言う。
小首を傾げ、黒髪をさらっと揺らして。
萌え袖で俺の腕をゆさゆさしながら。
砂糖をまぶしたクリスマスケーキのように甘い、甘えん坊の声で。
「お兄ちゃん、ゆいかにも送ってよー。じゃないと……ゆいか、泣いちゃうよぉ?」
その瞬間、俺の脳内に過電流が走った。
脳内がショートし、心のなかがライトアップされてちょっと早いメリークリスマスになった。
「がはーっ! 我が人生に一片の悔いなし……」
がくんっと首が倒れ、しかし妹ゆいかを泣かせたくはないので、指先はしっかりと写真を送信しておく。
オーダー以上のセリフを言ってくれるなんて、さすがは我が幼馴染よ。
……いや本当、危うく天に召されるかと思ったぜ。
普段、ちょいちょいお姉ちゃんモードになる唯花だが、妹モードの唯花もアリだな。大いにアリだな。なんか新たな扉が開きそうだ……。
「満足した?」
「おかげさまで大変満足いたしました……」
「まったく、あたしは本来、お姉ちゃん属性なのですぞ? なのに妹扱いしたいだなんて変態さん極まれりなのです」
「まあ、なんだ、そんな日もあるということで……」
うん、前回の変態さん扱いは大ダメージだったが、今回は痛くも痒くもないぜ。
唯花が乗ってくれたからだな。
あと伊織に対してはともかく、俺の前にいる時の唯花はお姉ちゃん属性よりどちらかと言えば妹属性に近い気がするのだが……この議論を始めると幼馴染会議が勃発するのでやめておこう。
それよりも今は重要な案件がある。
「あー、唯花。それで……この写真、どうする?」
「んみゅ? どうするって?」
「いや、だから……」
軽く視線をさ迷わせつつ、続ける。
「……送ってみるか? 伊織と葵に」
「あ……」
俺の腕に寄りかかったまま、唯花は今気づいたという顔になった。
そう、そもそもこの写真は京都の中学生たちに送る前提で撮ったものなのである。
しかし当初の予定は頬っぺにチュウ程度。
それがなんやかんやで角度によっては本気チュウに見えてしまう写真が爆誕してしまった。
これを伊織と葵に送るのは是非が問われるところである。
「さ、さすがに……中学生には刺激的過ぎるんじゃない?」
「まあ、そうかもしれんが……」
なんとなく探り合うような空気。
お互いに視線が相手の目とスマホの写真をチラチラ行き来する。
「……でも別にいいんじゃないか? ほら、あいつら自身だって16回もキスしてるわけだし、今さら俺たちの写真ぐらい刺激にはならんかもだぞ?」
「むむ、そっか、16回問題的にはこれくらいなんでもないのかな。でもやっぱり恥ずかしいっていうか……」
萌え袖で顔を隠す、唯花さん。
かわゆい。仕草が大変かわゆい。
「恥ずかしいってお前、今さらだろう?」
「えー、今さらってどういうこと?」
「そりゃほら、伊織には……見せてるわけだし」
さすがに照れくさくて、目を逸らす。
鼻の頭をかきながら一言。
「この写真どころじゃない、俺とお前のがっつり本気チュウを」
「にゃ……!?」
一瞬で真っ赤になった。
そう、伊織を京都へ送り返した時、俺と唯花はこの部屋の外で思いっきり本気のキスを見せている。それも全力全開のこれ見よがしに、だ。
体感的にはなぜか一か月半ぐらい前のことに思えるが、実際にはつい昨日のことである。つまり大変ホットな話題だ。
「も、もう~っ! それははっきり言うことじゃないでしょっ。恥ずかしいな~!」
「あ、あはは。いやわりぃわりぃ」
ぽかぽかされた。
しかも萌え袖で。
やばい、かわゆい。脳内の電流が過電流になって、そろそろ荷電粒子砲になりそうだ……っ。
唯花は萌え袖を俺の胸に当て、「む~」と怒った顔で見上げてくる。
いかん、可愛すぎて本当に荷電粒子砲が地球を粉々にしてしまうぞ……っ。
「どうしても伊織と葵ちゃんにこの写真送りたいの?」
「いや別にどうしてもってわけじゃないけどな……」
嘘である。
本当はどうしても送りたい。
なぜなら伊織には女装メイド写真を見られてしまったからな。
違うぞ、伊織! お前の兄貴分はこうだぞ! と男っぽいところを見せたいのだ。是が非でも見せたいのだ。
唯花はネコのようにじーっとこっちを見上げている。
俺は『やましいことは何もない!』と強い気持ちで見つめ返す。
……が、考えてることが見抜かれてるのが分かる。すげえ分かる。これたぶんもう筒抜けだろうな。
観念し、「く……っ」と苦悶の表情で白状。
「……すみません、どうしても伊織に送って、兄貴分っぽいところを見せたいです」
「素直でよろしい」
うみゅ、と厳かに頷く、唯花さん。
そこに慈悲の雰囲気を感じ、俺はぱーっと表情が明るくなる。
「では……!」
「正直、恥ずかしいけど……まあ良いでしょう」
「やったぜ! さすがはお姉ちゃん属性の唯花さんだ! いずれこの部屋にお前の銅像を建てると俺は誓う!」
「いや、いらないいらない。銅像より新しい課金カードがほしいのです」
「買う買う、明日買ってくる! じゃあ早速、伊織と葵に写真送るぞ」
「はいはい、お好きにどーぞ」
俺はスマホを素早く操作。唯花は再び萌え袖で腕にくっついてくる。
そうして2人でドキドキしながら画面を見つめる。
「でも伊織はともかく葵ちゃん、びっくりしちゃわないかな?」
「そりゃびっくりするだろ。なんせ初めて見た唯花の顔がキス写真だぞ?」
「キ、キス写真とか言わないでよ。恥ずかしいじゃんっ。チュウ写真って言って、チュウ写真って」
「どっちも変わらんだろ、それ」
「変ーわーるーのー」
「へいへい、しょうがねえなー」
萌え袖に腕をゆさゆさされながら、さらにスマホを操作。
以前ファミレスにいった時に作った、俺、伊織、葵のアプリ内グループへ『進呈、唯花のチュウ写真』と書いて投下した。
「ちょっとぉ!? なんであたしのチュウ写真ってタイトルなの!?」
「ふはは、ささやかなイタズラ心である」
「自分だって映ってるんだから同じなのに、もう」
「それより写真に既読がついたぞ」
「え、どこどこっ。何か返事くるかな?」
「いやぁ、すぐには来ないんじゃないか。あいつらが動揺してる顔が目に浮かぶぞ」
……ふっ、考えてみると、少し大人げないことをしてしまったかもしれないな。
年上の兄貴分からこんな大人びた写真を送られたら、中学生たちは戦慄してしまうだろう。
返事を待つよりもむしろこっちから冗談めかした一言二言をフォローとして入れてやった方がいいかもしれん。それが年上の余裕というものだろう。
と思っていたら、ピコン! ピコン! とあっちから連投がきた。
おお……と思い、唯花と一緒にスマホを覗き込む。
伊織と葵、それぞれからのメッセージだった。
まず伊織。
「『メイドさんに女装したと思ったら、今度はお姉ちゃんとキスしてるし! なんなの!? 奏太兄ちゃんは僕の気持ちをどうしたいの!? もうワケ分かんないから、とりあえず食らえーっ!』」
次に葵。
「『わたしも怒ってますよ!? せっかく奏太兄ちゃんさんのメイドさん姿で夢いっぱい妄想いっぱいだったのに、こんなにストレートな現実で新刊のネタを打ち砕くなんて!? でもお姉さんの写真はありがとうございました! どうかよろしくお伝え下さい! とはいえ、食らえーっ!』」
次の瞬間、写真が投下されてきた。
それは――
大号泣の伊織と。
お怒り&照れで真っ赤な葵の。
――本気チュウ写真 in 金閣寺前。
「――っ!」
「……っ!?」
絶句。
俺たちのギリギリ頬っぺたと違って、中学生たちの写真はもろに唇。
本気も本気、ガチの本気チュウ写真、待ったなしである!
「じゅ……っ」
「じゅ……っ」
くらっと倒れながら叫んだ。
「「17回目だ――っ!!」
しかも屋外。
金閣寺のまわりには他の生徒たちや朝ちゃん先生も写っている。
俺たちのささやかなお家デートなど可愛いものだった。
真に恐ろしいのは、付き合いたてのカップルの後先考えない勢いだった……合掌。
次回更新:12/25(水)予定




