八、私の代役エンディング
感謝祭は夜になると盛大な花火が打ち上げられる。正確に言えばこの世界に打ち上げ花火は存在しないから、魔法の花火とでも言うのかな? ようするに魔法でなら上げ放題ということだ。
例年花火を打ち上げるのは生徒代表の役目となっている。光栄なことに、今年は私がそのお役目をいただいた。これでもステラの代役だからね。努力の勝利よ!
夜空に大輪の花が咲くと、賑やかだった一日も終わりに向かい始める。
役目を終えた私はひっそりと校舎に戻った。今日は知り合いと顔を合わせるたびに質問責めだったから、少し一人になりたかったのかな。
あのピンクの髪の子は誰?
急に仲直りして、ローザと何があったの?
今日のライブは本当に凄かった!
気になるのは当然のことだから仕方がないとして、さすがに私も疲れてしまったみたいだ。
私は静かな場所を求めてこっそり生徒会室に向かっていたんだけど、待ち伏せていたローザによって捕まった。いつもならここで嫌みの一つでも言われるはずが、私たちの関係は今日、劇的に変化した。
「アニカ、いよいよですわね!」
私の姿を見つけて笑顔で駆け寄るローザは可愛いかった。ローザは何がとは言わなかったけど、多分これから告白イベントが起こると信じている。
「生徒会室までの道のりはわたくしが死守してみせますわ!」
「私のことはいいから……」
「いいえ。わたくしの名にかけて、誰にも邪魔させませんわ。貴女は部屋でのんびりとあの方の到着を待っていればいいのです!」
ちょっとローザ、そんなに気合い入れて廊下の真ん中に立ってたらみんなが怖がっちゃうからね!?
いつも取り巻きを引き連れていたローザは他の級友からすると近寄りがたい雰囲気があるみたいで……ほら、何事だって、みんな怖がってるから!
せっかくの後夜祭だもの、ローザも友達と楽しんでよ?
私は本当にここはいいからと念を押して一人生徒会室に向かう。
いつもは生徒会メンバーがいて賑やかだけど、今日ばかりは静かに落ち着いている。私は窓から学園の様子を眺めた。
でも不意に、窓に映る自分の姿が気になる。
ほら、やっぱり似合わない……
私は思い切りリボンを引き抜いていた。それと同時に部屋の扉が開く。
「あれ、君一人?」
私の姿を見つけて呟くユアンも一人だ。まだステラがいると思ったのかもしれない。
「ステラならもう帰ったわ。ユアンこそ一人なの?」
「君を探していたんだ。ああ、でも途中でローザに会ったよ。なんだかいつもにまして挙動不審だったけど。早く行けって急かされたし、なんだったのかな?」
「あまり深く気にしなくていいと思うわ。多分ローザも明日になったら忘れてほしいはずよ」
正直には言えず、私は曖昧に笑ってはぐらかした。
「気にするといえば……リボンをどうかしたの?」
ユアンの視線を追いかけて手の中にある物を見つめた。これは正直に答えることが出来る。
「あの髪型、私に似合ってなかったでしょ? 本当は好きじゃなかったの」
「そうなの? 僕は可愛いと思うけど」
「あ、ありがとう……」
物事をストレートに告げるユアンには、時々どう反応すればいいのか困ることもある。
「私には憧れている人がいて、その人みたいにならなきゃいけないと思ってた。だから見た目だけでも近づきたくて、真似していたの。けどそれも今日までかな。もう止めることにしたわ」
最終イベントを終えた現在、攻略対象たちはそれぞれの道を歩み始めている。そう考えると少し寂しくもあるけど、私の代役期間は無事……とは言い難いけど、なんとか終えることが出来た。
「それじゃあ今度、君の髪を飾るものを贈っても? こだわりがあるのかと思って今まで遠慮していたんだ」
「そ、そうなの? 私は、その、もちろん嬉しいけど……」
「よかった。それにしても今日は大変だったね。やっと君とゆっくり話せた気がするよ。結局あの子、ステラは何をしに来たんだい?」
ユアンたちにしてみれば本当に謎の存在よね。親友だとは説明したけど、多分今もまだよくわかっていないと思う。
「私のことを心配してきてくれたみたい。私がこの学園で上手くやっているか、心配だったんですって。ほら、今日なら一般の人も学園に入れるから」
「ああ、なるほどね。おかげで僕らのステージも盛り上がったし、今度僕たちからもお礼をしないといけないって、みんなで話していたんだ」
「あの子は女優よ。劇場へ足を運ぶことが何よりのお礼になると思うわ。だからその、今度ユアンさえ良ければ一緒に行かない?」
出来るだけ普通に話したつもりだけど、緊張していてぎこちない誘いだったと反省している。だってデートの誘いなんて初めてなの! しかもユアンてばなんだか考え込んでいるし……やっぱり嫌!?
「二人で?」
「ふ、二人で」
「それはデートの誘いだと思っても?」
「好きに、解釈して」
「うん。解釈した。喜んで、僕の大切な人」
本当に私がその言葉をもらってもいいの?
そんな不安もある。でもユアンは私の目を見て言ってくれたから……信じてもいいの?
「私、ユアンも知っていると思うけど自分に自信がないの」
「うん、知っているよ。本当はアニカが卑屈で、無理して笑ってるってこと。成績優秀で誰からも慕われているくせに、実は自分に自信がなくて臆病なところも。全部知ってる」
「私そこまで言ってないから!」
「でも残念、僕は知ってるんだ。ははっ、そんなに拗ねないで。全部知ってる僕の前でなら無理をする必要はないだろ? 僕の隣って気が楽だよ。おすすめ」
「おすすめって……」
ユアンの隣に居続けたのなら、行き着く先は王太子妃だ。そんなに簡単におすすめされていい場所じゃない。
「僕の大切なアニカ。好きだよ」
ユアンがくれる言葉はどれもゲームでは聞いたことのないものばかりで、どう反応したらいいのかわからない。
けど、私はもう代役じゃないから……
ユアンが自分の言葉で想いを告げてくれるのなら、私も自分の言葉で伝えないといけない。
今よ、私!
「私も、ユアンが好き」
「ありがとう」
ユアンは嬉しそうに笑ってくれた。ゲームの二人は告白の後、手を繋いで花火を見上げていたけど、私たちはどうだろう。ユアンは告白の後だっていうのに落ち着いて見える。私は心臓がうるさいくらいなのに、ちょっと恨めしい。
でも自分が生み出した花火だし、少しくらいは堪能しないとね。
私はゲームで見た一枚絵のように窓辺に向かって歩き出そうとする。その計画はユアンに腕を捕まれて失敗に終わったけど。
あれ、手じゃなくて?
不思議に思っていると腕を引かれ、背中に回されたユアンの手によって囲われる。退路を絶たれた私は驚いているうちに彼とキスをしていた。
主人公は生徒会室で、二人で見た花火が綺麗だっと語っていたけど、私はもう花火のことなんて考えられない。思考はユアンのことで埋め尽くされていたから。
これは主人公たちとは違った形なのに、とても幸せで……
私の代役という舞台はここに幕を下ろした。
閲覧ありがとうございました!
これにて完結!
もう一つ書いております乙女ゲーム転生がゲームの運命に抗う系なので、ゲームシナリオ通りに進めたい主人公のお話が唐突に書きたくなったのです。その結果です。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
お気に入りに評価を下さいました皆様ありがとうございます!