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五、代役と悪役令嬢のオープニング

 ゲームでの主人公ステラは十六歳。夢と希望に溢れた瞳は空色の宝石。可憐で可愛いくて、でもちょっとお転婆な女の子――はゲームの舞台から消えました。ここからは私アニカが代役でお送りします。


 まずは少しでも主人公に近づくために髪型から真似してみました。


 私は所詮背景だからかな? ファンタジー世界に転生しておきながら、私の日本人ぽい見た目は変わらなかった。茶色い髪に、色素の薄い瞳。けどステラみたいに髪を伸ばして、ハーフアップでリボンを結んだ。

 これ、可愛い印象の主人公にはぴったりの髪型だったけど、私がすると……なんだかちょっと違う気がする。


 それから、ステラには類い希なる魔法の才能があった。私は、どうかな……見た目より、もっと自信がないかも。でも人間努力すればだいたいのことはなんとかなるって、昔主人公が言っていた。主人公だって努力して魔法の才能を開花させたものね!


 十六歳になった私はかつての主人公と同じコートを羽織り、同じトランクを手に王都行きの船に乗る。船に揺られている間はこれから起こるイベントのイメージトレーニングを入念に繰り返した。

 長い船旅を終えると、いよいよゲームの舞台となる魔法学園の建つ王都の地だ。港には同じく学園の制服を着た新入生が大勢集まっている。


 さすが魔法教育の最高峰ね!


 私はトランクを手に船から下りると例の場所へ向かった。ゲームでは学園に向かうまでに一騒動が待っている。

 広場では生徒たちが揉め事を起こし、トラブルで魔法が暴発してしまう。連鎖するように被害は大きくなり、大惨事になるかと思いきや、偶然居合わせた主人公と攻略対象たちが協力して騒動を治める。それを切っ掛けに学園でも親しくなるという出会いイベントだ。

 私こと主人公の役割は光の魔法で魔法生物の目を眩ませること。基本の小さな魔法だけど、私は今日まで特訓に特訓を重ね、スチルと寸分違わない発光力の魔法をとっさに発現させる力を身につけているわ。

 地味な特訓だって言わないで!

 そして最後には攻略対象の一人、ユアンが言うの。


 君の名前は?


 ユアンに問いかけられた主人公はこう答える。


 私はステラ。ステラです!


 ステラの声を合図にゲームのオープニング主題歌が流れ始めるのよ。私は今からこれを完璧に再現してみせる。

 ほら、私の目の前では物事が予定通りに進んで行くわ。一人一人が魔法を使う場面がそれぞれ最初の登場シーンだ。


 みんな素敵!


 ゲームの通り!


 いよいよ私が目くらましを発動させる番ね。


「危ない!」


 どうかしら? シナリオ通りの台詞と一緒に完璧に決めたのよ。

 魔法慣れしていない威力だけど、そこが勇敢さはあっても実力が足りていない主人公の姿をよく表していると思う。我ながら完璧。ほら、成功したからこそ、ユアンも台本を読むみたいに訊ねてくれる。


「君の名前は?」


 今よ私!


「私はアニカ。アニカです!」


 みんないい仕事をしてくれたわね。あとは私に任せて! 実際に映像は流せないけど、私の脳内伴奏も脳内コーラスも準備万端よ。


 ふんふんふーん♪


 そうして最初のフレーズを脳内で歌い出そうとした時、事件は起きた。


「お待ちなさい!」


「は?」


 思わず素で低い声が飛び出した。

 振り返ると、同じ新入生? きつい眼差しの美人が怒りに燃える瞳で私を睨み付けていた。金髪にウエーブの掛かった髪は私と同じ制服なのに気品がある着こなしで、良家のご令嬢といった雰囲気がある。


 そう、たとえるのなら、まるで悪役令嬢のような……


「この偽物! ステラは!? 主人公をどこへ隠しましたの!?」


 ステラ。主人公。そのワードから彼女も転生者だと推測する。

 この人もゲームをプレイしたことがあるのかな?

 だとしたら代役の登場に混乱しているのもわかるけど……


 ステラのことは話せない。


 この人がステラに危害を加えないという保障はないから。ステラは約束された未来を捨ててまで女優になる夢を追いかけたのよ。誰にも邪魔をさせたりはしない!


「なんのことですか?」


「しらばっくれないで偽物!」


 偽物って……


「わたくしこの世界に生まれてから今日という日を楽しみにしていましたのよ! 楽しみすぎて夜は眠れませんでしたし、朝は日の出よりも早く目が覚めてしまいましたわ。ですから早起きして港で船の到着を待っていたのです。ピンクの髪に揺れるリボン、ステラが通るのをね!」


 つまり、ステラのファン?


「それなのに、いつまで経ってもステラが現れることはありませんでした。もしかして遅刻!? やだ可愛い! なんて思っていましたけれど、広場ではイベントが始まっていると知って驚きましたわ。至急駆けつけたのですけれど、わたくし自分の目を疑いましたわ」


 あ。この人の言いたいこと、なんとなく察したかも……


「中心にいるのがこんなっ、見たこともない地味な女ですって!? 耐えられるはずがありませんわ! わたくしは貴女なんて認めなくってよ! ステラをどうしたの! ステラをお出しなさい!」


「だから、知りませんてば!」


 私が反論すると彼女の両脇には同じ年頃の少女が並んだ。まるで彼女を引き立てるかのような立ち位置だ。


「貴女、アニカとか言いましたわね。この方をローザ・レイフィーユ様と知っての無礼ですの? ローザ様はこの国一番の魔法具を扱う、あのレイフィーユ商会オーナーのご令嬢ですのよ!」


「そうですわそうですわ! 謝るのなら今のうちですわよ!」


 え、何、この人たち……取り巻き!?

 仕上げとばかりにローザは得意げに髪をなびかせた。


「わたくしを怒らせるとどうなるか、もうわかりましたわね。庶民さん? 大人しく本物の主人公の居場所を教えた方が賢明ですわよ!」


 私を認めない?

 言ってくれるわね。

 上等よ!

 私にだって代役としての意地があるわ。私の評価はステラの評価。私のせいでステラの価値を貶めるわけにはいかないんだから!

 私はローザのみたいに迫力のある顔じゃないけど、それでも精一杯の睨みを効かせた。

 

「主人公、ステラ? 何を言っているのか私にはわかりません」


「あくまでもしらをきると言うのですね?」


 私は微笑みを浮かべ、無言でローザの視線を受け止める。睨み合う私たちの間には激しい火花が散り、先に動いたのはローザだった。


「ふんっ! 庶民が上手く主人公の皮を被っているようですけれど、わたくしは騙されませんわよ!」


 ステラ、私と同じ町の出身だからね。私とステラ、ご近所さんだからね。私が庶民ならステラも庶民よ!

 ローザはわざとらしく頬に手を当てる。芝居がかった動きだ。


「ああ嫌だ……こんなのまるで、わたくしが悪役令嬢のようですわ。けれどわたくしはあまんじて役目を受け入れましょう。これもすべてはステラのためですわ!」


 そう……。私だってステラのためには引き下がれないわ。

 ローザの眼差しを真っ向から受け止めることで挑む。


「いいでしょう。わたくしが貴女の化けの皮を剥いでさしあげます。偽りを暴き、脇役には脇役に相応しい場に立たせて差し上げますわ。今に見ていらっしゃい。貴女の学園生活に平穏はなくってよ!」


 えぇー……

 入学式も終わっていないのに私の代役生活は波乱の予感だ。


「ふん! 行きますわよ!」


 ローザはスカートを翻し、取り巻きを引き連れ去っていく。その後ろ姿はまさに悪役令嬢のようで。


 だからこのゲーム悪役令嬢いないんだってば! どうして勝手に悪役令嬢始めてるの!?


 魔法騒ぎの混乱は収まっていたけれど、広場は私たちのせいで別の騒ぎにすり変わっているし。どうしてこうなったのかな……

 その場に残された私たちに入学式があると促してくれたのは攻略対象のユアンで、彼のおかげで騒ぎも収束していたと思う。さすがはユアン様、この国の王子様だ。一目見ただけで清く正しくゲーム通りに成長されていることがわかった。これでこの国の未来は安泰。


 でも私の学園生活は違うわ!


 騒ぎの目撃者には学園生徒もたくさんいたから、きっと今頃は学園にも伝わっているはず。ゲームでもそうだったものね……


 輝かしい学園生活の始まり。代役の初仕事。それは私とローザとの長きにわたる闘いの始まりでもあった。


 ステラ、ごめんね。主人公の大切なオープニングイベントだったのに……

 学園デビュー、失敗しちゃった……

ここまでがだいたい前半パート、一区切りとなります。後半部分も頑張ってまいりますので、よろしければ続きもお読みいただけまさたら幸いです。

閲覧ありがとうございます!

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