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2話 調査班

アルクさんの案内で俺は管理局の責任者という人が居る部屋に入った。


「賢吾様、ようこそ異世界管理局へ、私はここの責任者のミトラと言います。この度はこちらの不手際でご迷惑をおかけして申し訳ありません。」


ミトラと名乗る綺麗な女性は謝罪と同時に深々と頭を下げた。

彼女は先程会った女神様と比べても更に綺麗な女性だった。

綺麗な金髪、パッチリとした大きな目、整った顔立ち、そして何故か神々しいオーラを感じる。

先程の女神様より高位の神様という感じだ。


そして、俺は狼狽えてしまった。

俺はこんな謝罪をされるのに慣れていない。何故なら小心者だからだ。

先日行ったラーメン屋でスープの中にビニールが入っていた。

透明だから気が付かなかったのだ。

普通ならクレームの一つでも言うかもしれないが、小心者の俺は特に何も言わずに帰ってきた。

そんな俺だ、こういう大袈裟な対応は苦手だ。


「頭を上げてください、俺は今なんで謝罪されてるのかもよく分かってませんので、まず状況を説明して頂きたいんですけど。」


俺はミトラさんに頭を上げてもらいまずは状況説明をお願いする。

夢と考えていてもやはり訳の分からない状況は面白くない。

まずは何がどうなってるのか把握したい。


「そうでしたね、まず今の現状を説明します。アルク、お願いできるかしら?」


アルクさんは頷いてこちらに向く。

片手には資料と思われるプリントを持っている。


「では、私から説明させていただきます。

ここはあらゆる異世界に通じる場所、異世界管理局です。

賢吾様がいた世界とは別に数多くの異世界が時空を隔てて存在しています。」


うん、いきなりゲームみたいな話だな。

まぁここまで見てきた流れでなんとなく想像はできる。

ファンタジーものではよくある話と言った印象だ。


「先日<ヴェルランド>という世界より勇者を探して欲しいという依頼を受け、その候補者が水谷という名前でして。」


ほほう、これは人間違いのパターンだな。

さすがにこれくらいは予想できる。


「転移を担当する者が、あの付近で名字に<水>の付く人物は他にいないと思い込んでしまい、水野様にもメールが届いてしまったという次第です。」


おい!なんか間違い方雑じゃね?

もう少しまともな間違いないのか?

それに名字の一文字で検索ってどんなけてきとうな仕事だよ。


それだけで勝手にメール送れるっていうのは凄いんだがな。


「はぁ、そんなに簡単にメール送れるんですか?」


アルクさんの説明ではアドレスを取得してメールを送るというよりも対象者に用件を伝える魔法を使うと今の時代なら携帯に届くらしい。

また、対象者の検索条件が緩ければそれだけ魔力の消費も少なくなるらしい。


要するに手抜きだ。


一昔前はポケベルに文字が送信される事もあったようだ。

じゃあそれより昔は手紙か?

便利な魔法だな。


ふと思い出すが、これどっから夢なんだろ?

メールの話が出てきて少し疑問に思うが、それより気になる事がある。


「俺が間違いでここに連れてこられたのは理解しました、それで俺は帰れるんですか?」


率直に聞いてみた。

ゲームならここで帰れなくて結局勇者になったりって流れなんだろうけど、帰れないのは困る。

しかし俺の夢なら予想通り帰れないって言われそうな気がするな。


今度はミトラさんが答えてくれた。


「結論から言わせてもらえると、帰れます」


ー帰れるのかよ!

これは予想外だったな。


「ただすぐには無理です。数日後にもとの世界に送れると思われます。」


おっと、一筋縄ではいかないのか?

準備に時間がかかるとかかな?


「この世界と貴方のいた世界、分かりやすく言うと現世では時間の流れが違うのです。

無理矢理転移を行うと事故が起こるかもしれないので時の波長の合うタイミングまで待って頂きたいのです。」


「待つだけでいいんですか?」


「はい、それとこちらでの数日は現実世界では一瞬ですのでご安心ください。ただし記憶は残りませんのでご了承くださいね。」


なるほど、戻った後の心配も無いと考えていいようだ、まぁ心配してくれる友達も近くにはいないけどな。


さて、少し頭がスッキリしてきた。

現状を確認しよう。

この世界が夢の場合→問題無し。

この世界が夢じゃない場合→数日待つだけで問題無し。


あとは数日待つとしたら何して過ごすかってとこか・・・


「ミトラさんにお願いがあるんですが、数日後に帰れるのならその間ここを見学させてもらえませんか?」


何もしないのも暇だしね。

それならこの施設を見て回るのも楽しそうだ。


「勿論構いません。ご理解いただきありがとうございます。では今後の事はアルクに任せます、帰れる日時が分かれば追って連絡しますね。アルク、お願いしますね。」


「畏まりました。では賢吾様、こちらにどうぞ。」


俺はアルクさんに付いて部屋を出た。


「賢吾様、さっそく施設内を見学されますか? それともお疲れでしたら部屋を用意してますが。」


「そうですね、少し休憩してからがいいですが大丈夫ですか?、あと様付けは慣れないので・・・」


「分かりました、口調を改めますね。 隣の建物が社宅となっていてそこに空き部屋があります。ここに滞在する間そちらでお休みください。」


俺はアルクさんに案内されて社宅へ向かう。

その後ろからの視線には気付かずに。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あー疲れたー」


デスクで山積みに書類から目を逸らして席を立つ獣人。

彼は蜥蜴人の坂本。

貴重な昼休み、彼は昼食は食堂で食べる事にしていた。

昼休みは混むので彼は足早に食堂を目指す。


いつもの道を歩くとそこには見慣れない人族が歩いていた。


誰だ?


隣に居るのはアルクさんだ。

そのまま階段を上がって行く。

これは何かあったのか?


これは坂本の直感だ。

彼は気付かれないように後を付ける。

そして聞き耳をたてて賢吾の状況をなんとなくだが把握する。


「これはチャンスか?どっちにしても楽しめそうだな」


彼はそのまま屋上へ向かう。

彼の上司へと相談する為に。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


鬼人族の大神は屋上で弁当を食べていた。

昼休みは愛妻弁当を屋上で食べるのが日課だからだ。

その間も仕事の事を考えている。

先日彼のチームで問題があった。


「どうしたもんか・・・」


彼は現地調査が任務である。

異世界に転移してもらう現実世界の人はランダムで選ばれる訳ではない。


まず問題が起きた異世界から依頼が来る。

もしくは管理者であるミトラさんが危機を発見する。

次に情報処理班がどのような世界なのか、どのような危機なのかを調べる。


そして情報が整理されると異世界転移に適切な人の選出をしなければならない。

しかし実際の異世界に行くといろいろな問題が起こる。

より適切な人材を派遣する為に現地調査班がいる。


例えば、ある魔王が出現したとする。

そこへただ力の強い人を送り出すとする。

それで単純に勝てるわけでは無いのだ。

レベル制の世界の場合元の腕力が全てではない。

勿論あるに越したことは無いが、レベル1のオリンピック金メダリストよりレベル10の普通の高校生の方が強いケースの方が多いだろう。


ならば必要なのはその世界に対する適正だったりするのだ。

そしてその調査をするのが大神率いる《調査班》なのだ。

短期間だが現地へ行き実際の戦闘をしたり、生活環境を確認したりするのが主な目的だ。

その結果から必要と思われる要素を報告して現世から転移者が選ばれる。


先日起こった問題はこの選ばれた転移者が世界を救う事を諦めてしまったのだ。

転移者が冒険を続ける気力を失いという事は管理局の責任とされ、再調査が決まったのだが。


「何を見落としていたんだか検討がつかん。このまま行ったところでなぁ・・・」


そうして彼は再び考え始めるが、解決策が出てこない。

そこに屋上のドアを開けて坂本が静かに近づいてきた。


「班長、やっぱりここですか、実は相談があって来たんですが。」


「おまえが相談なんて珍しいな。どうした?」


可愛い部下の相談だ、大神は今まで考えていた事を一旦保留して坂本に向かい合い集中する。


「実は今ここに現世から事故で召喚された人がいるらしいんですよ。そこで相談なんですけど、今回行く調査の事でその現世の人から意見を貰うのはどうです?仮に現世に帰るとしても記憶は残らないでしょうから良い機会にできないかと思ったんですけど。」


「なるほどな。」


坂本が大神に伝えた事は半分本音だ。

現世の人間にしか分からない事や価値観もあるだろうし、今回の調査をどうすべきか困っていた調査班のは有益な提案だった。


しかし坂本のもうひとつの本音は面白そうだからだ。

同じ仕事の繰り返しに変化を加えたかった。

仮に現世の人間が良い意見をくれれば自分の仕事も楽になる可能性すらある。

それになにか面白くなりそうな直感があった。

だから大神に動いてもらえるように部下として意見を伝えにきた。


「断られて当然かもしれないですけど聞くだけでもどうですか?」


大神は黙って考え込んでいる。

坂本の提案は興味深い。

しかしその現世の人間がどんな者かも分からない。どうすべきか。


ぐぅ~~


坂本のお腹の音だ。

彼は恥ずかしそうに顔を下げている。


貴重な昼休みに彼は昼食も食べずに仕事の事を考えていてくれたのだ。

なのに大神の手にはもうすぐ食べ終わるであろう弁当箱がある。


「分かった。俺が話をしてこよう。お前は少し昼を長めに取ってから戻ってこい。」


「あ、ありがとうございます!」


坂本は笑顔で屋上を後にした。

その手には再生中と表示されているボイスレコーダーと思われる機械が握られていた。


「これでいつもより楽しめるかもしれないな、ゆっくり昼でも食いに行くか。」


坂本は思う。

やっぱりうちの班長は単純だな。

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