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1話 夢?

「おい賢吾、報告書まだ出てないのか!?」


「すいません、明日までには提出しますんで・・・」


「おいおい、なんでそんなに時間かかってんだぁ

仕事なめんなよ!!

おまえの遅れた分は誰が埋め合わせするかわかってんのか!?」


「すいません班長、すぐ仕上げます!!」


職場に班長の怒声が響き渡る。

これがこの職場ではいつものことだ。

俺は積み上がった書類から報告書を見つけ、書類の一番上に置く。

仕事の優先順位をつける為に急ぎの書類は目につく所に置くように心がけてる。


報告書か、現地の報告だけじゃなく適性者の選定に必要な項目を考えるだけで気が重くなる・・・

今やりかけの書類はすぐに終わるはずだからこっちが終わってからすぐにやろう。


「賢吾君大丈夫? 」


山積みの書類で隣の席に座ってる人はこっちから見えない。

少し書類をずらして隣の人物を確認する。


綺麗な黒髪が見える。

横顔を見る形になるので正面の顔は見えない。

けど顔の輪郭だけで十分美女と分かる。

こんな美女と一緒に働けるだけで幸せな職場だと思う。


「賢吾君まだ仕事始めたばかりなんだから無理しないで下さいね。」


「大丈夫です。自分から望んだ仕事ですんで泣き言は言えませんよ。」


「そうですよ、これぐらいで根を上げてたらこの仕事は続けられませんよ、あんまり甘やかしても賢吾の為になりませんよ」


向かいの机から声を掛けてきた先輩の方に視線を向ける。

先輩はこちらに声をかけつつも手は仕事を続けている。

仕事優先の姿勢は尊敬しなければ。


そうだ、俺達の仕事は…





ーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は水野賢吾。

ごく普通のサラリーンだ。


大学を卒業して一般企業に就職した。

就職氷河期を乗り越えたのが人生で一番の達成感を感じた時だった。


けど、それ以降の事は特筆すべきことは何もなかった。


大学に進学したのもやりたい事が特に無いから進学しただけだった。

就職もそこに行きたいと強く思ってた訳ではない、ここが良いと勧められたからだ。


特別不遇だとも思わないけど、何事もなく過ごしてきた。

仕事も特別嫌では無いし、給料も十分貰っている。

ただ・・・



「さーて、これで今週の仕事も片付いたかな」

「おー水野、終わったか?」

「はい、これで週末はゆっくりできそうです。」


仕事が終わったタイミングで部長が声を掛けてきた。

たしか年齢は一回り上で部下の面倒見が良いと評判の上司だ。

だが、残念なのはお腹が弛み始めてることだろう。

スーツの上からでも分かってしまう。


「休みはどうするんだ?今週は連休だぞ。」

「特に予定は無いのでゆっくりしようと思っています。部長は何をするんですか?」

「俺は今週からジムで運動だよ、うちの奥さんからその腹しっかりしないと娘に嫌われるって言われてな。」

「それは家族の為に頑張らないと!ですね」

「まぁやるだけやってみるさ、じゃあお疲れさん。」


部長は家族想いって社内でも有名だからな、大事な奥さんに言われたならきっと頑張るんだろうな。

さて、俺も帰ろう。


俺ものんびりと帰り支度を始める。

特に急ぐことはない、特別予定はない。

なら急ぐこともないんだ。


20代後半になってから周りの友達も落ち着き始め、今では家族優先で動くやつが多くなってきた。

なので休みに誘うのもなかなか気軽にはできなくなってる。

もうすぐ30なんだし、20代最後に良い思い出でも作りたいってのが本音なんだが・・・

まぁ期待薄かな。


ブルルル、ブルルル


ん?珍しくメールか?

知らないアドレスだな、迷惑メールか?

タイトルは無題か、本文は


「久しぶりに遊びましょう。暇だったら○○の前コンビニで!」


誰だ?こんな文章を送ってくる知り合いに心当たりは無いが・・・

いや、アドレスなんて学生時代から変えてないか、それにその場所はちょうど帰り道だ、知ってる顔がいないか見てみるか。

間違いや悪戯ならそこに行っても何も無いだろう。

俺は特に深く考えずに歩き始める。


目的地には数分で着いた。


ブルルル、ブルルル


コンビニの前でちょうどメールが届く。

ん?タイミングが良すぎるな、見張られてる?


「横の小道を見て」


小道?

見てみると小道の奥が光っている


「なんだ?」


俺はそこに一歩踏み出してみた。

その瞬間に光が大きくなっていく。

そして俺の視界が光でいっぱいになり・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ここはどこだ?


気がついたら俺は平原の上に立ってた。


んー何と言うべきか、状況に頭がついてこない。

「・・・夢か?」


一面綺麗な草原だ。

風も心地良い。

都会じゃ考えれれないくらい清々しい空気がきれいだ。

空も快晴で気持ちが良い。

そういえば昨日北海道特集のテレビがあったな、ということは夢だな。

自分の願望を夢で見てるのか。


よし、夢と分かれば気が楽だ、この状況を満喫してみるか。

「そうと決まれば!」


俺はその場に寝っ転がった。

草原と言えばこれだろう!

俺は仰向けになって空を見上げる。

草の臭いがする。

こんなことするのは小学生以来かな、童心に返った気分だ。


よし、次は・・・


起き上がろうと思った瞬間、空に何かが見えた。

なんだろう?


それはかなり高い位置に浮いてるようだ。

鳥?いや、夢ならUFOとかもアリか?


それはゆっくりと降りてきた。

そして目の前にスッと降り立った。

ここまで近づいて来る途中でその姿は見えてた。

見えてたけど理解できなかった。


「ようこそ勇者ダイスケ、ここは異世界<ヴェルランド>です。この世界の平和を取り戻す為にどうか力を貸してください」


降り立ったのはアニメに出てくるであろう存在<女神様>だった。

意味が分からん。

純白の服装に白い羽、綺麗な金髪に青い瞳。

まさに女神だ。


しかし、現実世界で充たされない想いがあったのは認めるが、こんな夢を見るとは、自分でも分からないくらいストレスがあったんだな。

これは連休はほんとに休まないといけないな。

帰郷してもいいかもしれない。


「勇者ダイスケよ、あなたはこれからこの世界を旅して力を蓄えて魔王を倒して頂きたいのです。」


地元の友達の連絡先が変わってないといいな。

旧友を深めて精神的な疲れを癒さないと、これはまずいな。


「私は貴方の旅に同行出来ませんが、常に見守っています。旅に必要な最低限の物は用意しておきました、遠慮なく使ってください。」


帰るならお土産も用意しなくちゃな。

親父には酒でも買っていけばいいだろう、お袋はまた結婚がどうとか言うんだろうな、なんとかお土産でその話題から逃げられないものか・・・


「って勇者ダイスケ!聞いてますか?大事な話ですからしっかり聞いてください」


女神様が顔を近づけて語気を強めた。

夢と決めつけてあまり話を聞いてなかったがさっきから何か言ってるようだ。


「あぁ、すいません、なんの話でしたっけ?」

「まったく、急なことで混乱するのは分かりますけど、しっかり話を聞かないと後で後悔しますよ。」

「すいませんでした。」


俺はてきとうに返事をしておく。

どうせ夢だ。


「ではもう一回説明しますよ、まずこの世界は・・・」


女神様が話始めた次の瞬間だった。


「ちょっと待ったー!!!」


草原の向こうから走ってくる人影が見える。

まさか夢の中でちょっと待ったコールが聞けるとは思わなかった。

これは某テレビ番組を見ていたらよく聞く台詞だ。

しかし実際言われると結構ビックリするんだね!


「あら、あの服は管理局の方かしら?」


女神様が走ってくる人影を見て呟いた。

ちょっと待て、管理局って聞こえたぞ?

なんて異世界に似合わない言葉だよ。

さすが俺の夢、世界観が無茶苦茶だな。

しかしあの人足早いな、500メートル以上は離れてたと思ったのにもうすぐこっちに着きそうだ。

女神様も人影を見て話しかけて来ない、とりあえずあの人が来てから話を再開した方がいいだろうって判断だろう。


「お待たせしてすみません、お二人に大事なお話があります。」


走って来たのは男性で流石に肩で息をしてるが余程急ぎだったんだろう、すぐにこちらに話しかけてきた。

しかし服装がまさにサラリーマンって感じでまさにファンタジーを否定している。

目の前の女神様とのギャップはシュールだな。


「単刀直入にお伝えします、この方は<ヴェルランド>から依頼されていた勇者とは別人の方です。勇者ダイスケ様は30分後に此処より北2キロメートルの地点に転送されます。女神様は改めて準備をお願いします。」


「えぇ!!違う人なんですか?管理局は何やってるんです?この世界は今滅びるかもしれないって瀬戸際なんですよ!」


どうやら管理局ってとこのミスみたいだな。

女神様がご立腹だ。

そりゃそうだろうな、丁寧に挨拶して別人なら俺も嫌な気持ちになる。


「申し訳ございません。改めて勇者様へのご挨拶をお願いします。また、今回の件に関してはミトラ様が後日謝罪の挨拶に来ることになると思われますので、今は落ち着いて頂けると助かります。」


「んー、分かりました。まず私は自分の仕事をしてきます。この件は落ち着いたら改めて話をしましょう。

あとそこの人はそちらに任せていいんですよね?」


「もちろんです。こちらで責任を持って対処させて頂きます。」


「分かりました。では。」


女神様は慌ただしく上空に消えていった。

なんか最初は異世界とか口にしてたけど思いっきり日本の現実にしか見えないな。

飛んでくる女神様は幻想的だったのに、少し勿体ない気持ちになる。

そして目の前にはスーツ姿の男性、俺はもちろん仕事帰りの服装のままだ。

ここに異世界要素が無くなったのだ。


「申し訳ありませんでした。」


目の前の男性が謝罪して頭を下げてきた。

その時男性の頭を見ると小さいが獣耳らしきものが見える。

上手く髪で隠していたようだ。

異世界要素を見つけたんだが、耳を隠したら聞こえにくくなるじゃないのか?

と疑問を持ってしまうのが若さが無い証拠か。

とりあえず彼の話を聞こう。


「頭を上げてください、まず話を聞かせてもらえませんか?」


男性はゆっくりと顔を上げて喋り始めた。


「もちろんこちらの事情も全て説明いたしますが、この場所ではまずいので場所を変えさせてください。」


「えぇ構いませんよ。」


「ありがとうございます、では失礼します。」


男性はポケットから携帯のような物を取り出した。

というか完全にスマホだ。

まぁ夢だしな。

男性がスマホを操作すると目の前に扉が現れた。

某秘密道具を思い出すな。

男性は扉を開けて、こちらへどうぞと誘導している。

俺は言われるがままにその扉の先へと進んで行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


扉の先は石畳の大きな部屋だった。

部屋の大きさはバスケットボールが出来そうな程だ。

扉はその部屋の中央にあり、扉以外には特に何もない。


「改めて申し訳ありませんでした。これから責任者の所にご案内したいのですがよろしいですか?」


「分かりました。」


確かにこの部屋には椅子も無いようだ。

落ち着いた場所に移るのだろう。


部屋の出口には何重かの分厚い扉扉がある。

ずいぶん厳重だ。

俺が不思議そうな顔をしているのを見たのか男性が説明をしてくれた。


「ここは転移を行う部屋になっています。万が一凶悪なモンスターが転移してしまった時の為に万全のセキュリティーになっています。」


なるほど、危機管理はしっかり考えられているようだ。

よく見たら監視カメラのような物もある。

他にも何かあるのかもしれないが、とりあえずこの部屋から出よう。

早くこの状況を説明してほしいからね。


部屋を出ると渡り廊下のようになり、先には小さなオフィスビルのような建物がある。

完全に現実世界にありそうな光景だ。

廊下はそんなに長くないのですぐにオフィスビルに着いた。

こちらの入り口は扉一枚の普通の物だ。


中に入ると何人かここで働いているであろう人達がいる。

服装はスーツや作業服だが・・・


皆、尻尾や獣耳がある。


ゲームに出てきそうな人達がこの服装というのはシュールだ。

夢と分かっていても呆気に取られてしまう。


「こちらです。」


立ち尽くしていた俺だったが、男性の言葉で動き始める。

・・・俺こんな夢見るくらい疲れてたんだな。



責任者の部屋は4階にあった。

4階建ての建物の一番上だ。

歩きながら男性は簡単に自己紹介をしてくれた。

名前はアルク、犬人族と名乗っていた。

ここで責任者の人の秘書みたいな仕事をしているらしい。

今回のようなクレーム処理みたいな仕事が主なら大変な仕事だろう。

俺の会社でも一番精神的に酷な部署だ。



アルクさんが一際大きな扉の前で立ち止まる。

ノックをして責任者に俺を案内してきた旨を伝える。


「どうぞお入りください。」


女性の声だ、アルクさんが扉を開け、俺は中に入っていく。

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