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「転移ビジネス、始動...?」その2

まだだ、まだエタりたくない…!!

「うーむ、元気よく返事をしたのはいいけど、一体どうしたものか…」


それからすぐに、応接間に向かいリーアに事の概容を伝えた。いきなりの事に驚かれないだろうかと心配していたが、リーアの反応はいたって落ち着いていた。

確かに私達からすれば大きな変化だが、セブン、もといリーアの住むラグニシア王国の方からすれば交流の規模が拡大するだけで、元から国家単位での交渉だったのだ。こっちの世界ほど内容に変化があるわけでない分、慌てる要素は少なくてすみそうだ。

だからといってリーアの独断で話を進められるものではないので、こちらの方針が決まったら一度セブンに戻って協議する必要があるだろう。それについては支部長ら幹部が物事を決めて、私は通訳として参加するだけだ。考え込む事は何もない。

もし日本が魔法に溢れかえったところで、セブンでの生活に慣れた私には大した影響もない(自己中)。


それより今私の目の前に立ちはだかる壁は、一般人のデータ収集の件である。

自由に出来るのは良いことなのだが、調子に乗って流石に自由を手に入れすぎた。自由度の高過ぎるゲームほど、逆に攻略に戸惑うものだと何度父に教わったことか。あとオープンワールド系の落下ダメージも比例して大きくなる気がする。


「自業自得だ。頼まれたものをこなすだけの方が楽だというのに、これだから若いのは」

「そうですね、年寄りの言葉は身に染みます」

「だれが年寄りだ。とっとと仕事しろ…というか、何故ここに来た?」


仮眠室で休息を取っていたところにお邪魔して叩き起こしたところ、神崎先輩は普通に話を聞いてくれた。顔色を見る限り体調の方は大丈夫そうだが、寝起きのせいかご機嫌は斜めである。


「あのですね、メンバーもある程度融通が利くらしくて」

「__嫌な予感しかしないんだが」

「そりゃもちろん、先輩にも手伝ってもらいます。私が上司ですよ、上司。敬ってください」

「殺すぞテメェ」

「あと、もう一人追加させてもらいました。ちょっと待っててください、今連れてきますから」

「おい、話聞いてんのかコラ」



  *  *  *  *  *



「で、連れてきたのか」

「はい、こちらが今回の調査を手伝ってもらうことにした柳ちゃんです」


私が連れてきたのは、さっきの会議でお茶を運んでいた事務員風の人である。

いかにもOLといったスーツ姿に、落ち着いた色合いに染めた茶髪のショートカットなどは比較的真面目にみえるが、赤いフレームの眼鏡が堅苦しい印象を和らげていた。

会議の最後、支部長に人員の融通も利かせようと言われたので、名前も分からなかったがとりあえず「えっと、じゃあ神崎先輩とこの人もお願いします」とその場で指名した。事務員さんとお偉いさん方の半分が驚き、半分が呆れているように見えた。まあ大して気にしてない。


エンカウンターズ日本支部は支部長のような古株の割合が高く、年齢層も全体で言えば高めで若い人員は少ない。ほっといたらおっさんに囲まれるやもしれん。

それならその前にメンバーに年の近い人を置いといた方が接しやすいし、無茶ぶりもしやすいというものだ。柳ちゃんは普段はエンカウンターズの表向きの業務をこなしており、まだまだ下っ端なので先ほどのような会議の際は手伝いに回されるのだとか。そして私達のことは知っていたらしく、私と先輩が仲良しである事も知っているようだ。


「あの、ですから私は___」

「まぁまぁ良いじゃないですか。お茶汲みよりは気分も晴れるし、私も年の近い人置いときたいから。というか驚きましたよ、まだ18歳の高卒だったとは…スーツ補正なんですかね」

「ですからその、私には「シー&スカイ」の仕事がありますので」

「大丈夫大丈夫。そっちはどうにかするって支部長も言ってたでしょ」

「そういう事じゃなくてですね...」

「諦めな、柳さん。こいつはもうこうなるとどう転がっても話はめんどくさくなる一方だ」

「そんな、神崎さんまで!?」

「まぁ、なんだ」


達観した表情で、神崎先輩はベッドから立ち上がり柳ちゃんに近寄る。


(この時、神崎星治の脳内では、この女が加われば自分が詞葉によって受ける精神的過労が分割されるという結論が下されていた。ならばここは同調してメンバーに加入させるべき、と考えたからである。)


「たまには、異世界に足を運んで知見を深めるのもいい事だ。そういった世界を見てみることで、改めて日本の素晴らしさが伝えられるのではないですか?」

「あれ、何だか先輩が穏やかだ。言葉より拳が先にでる先輩がどうして」

「それはお前にだけだ」

「え、つまりそれは私が特別な存在だという___」


私が言い終わるのを待たずして、拳が頬を掠め、風を切る音が風圧とともに伝わる。格闘経験は無いというのが疑わしい神速の右ストレートに、冷や汗を浮かべずにはいられなかった。


「イエローカードだ、次は無い」

「おぅ、レッドは避けたいですね...」


どうせ明日になればペナルティはリセットされているだろうし、今日はもう先輩弄りは控えるか...


「すまん柳さん、コレはこういうやつなんでね。経験上、下手に断った方がややこしい結果に繋がります」

「は、はぁ...」


身内ノリを目にして困惑する柳ちゃん。なんか先輩もノリノリだし、最後の押しでもしますか。


「そうですね…先輩の話とは少し被りますが、ビッグな仕事、してみませんか?」

「ビッグ、ですか?」

「はい。今ここでおとなしく首を縦に振ったなら、柳ちゃんがセブンの素晴らしさをこの世界、いや数多く存在する異世界の住民達に広める事が出来るのですよ?日本の魅力を世界に伝えるか、一つの世界の魅力を数多の世界に伝えるのか。やる事は同じです。それならいっそ、より大きな事に挑戦してみてはいかがでしょうか?」

「挑戦…」


少しうつむき、考え込む柳ちゃん。この娘、案外チョロいの。


「__ほんとに、私なんかで良いのでしょうか?そういった知識や経験があるわけでも無いですし、足手まといになるだけなのでは…」

「いえ、別に誰__こほんっ、柳ちゃんしか出来ない仕事です」

「今何か言いかけませんでしたか…?」

「いやー全然何も?誰もが柳ちゃんで納得するよなーって、うん」


実際、言葉は通じない、私達の常識が常識でないのは当たり前なので、さしずめ知識や経験は必要だと思っていない。そしたら何で人を選ぶかっていったらね、そりゃ見た目だよね。


「お願い出来るかな?」

「…分かりました。ご迷惑をかけるかと思いますが、よろしくお願いします」


社会人らしい綺麗なお辞儀で深々と頭を下げ、柳ちゃんがメンバーに加わった!


「よしそれじゃあ作戦会議しましょう!じゃんじゃん意見を出してください、そして決定権はわた__」


どすっ、という低い音と共に、内臓が潰れるような衝撃が訪れた。それが神崎先輩の伝家の宝刀たるボディブローというレッドカードであった事に私が気が付いたのは、仮眠室のベッドの上で昼過ぎに目を覚ました時であった。



「ったく、少しは休ませろ」

「ええぇ…」



そんな目の前の光景に、柳天音やなぎ あまねはこの先の事が心配でたまらなくなったのだった。




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