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「リーアの来訪」その3

どうにか神崎先輩のもとまでたどり着き、私達はレンタカーに乗り込んだ。先輩が運転で、私達が後ろ。


後輩が酔い覚ましとか言って歩いて行き、戻ってきたら足を引きずりながら金髪美少女に肩を借りているという状況に、先輩は明らかに嫌そうな顔をしていた。

まぁ、先輩を困らせるのが私の特技みたいなとこありますし。


「それで、このお方がセブンの使者ということか」

「はい、リーアさんです」

「ったく、普通の登場はできんのか…」

『…?』


私達の会話に、リーアは首をかしげる。

ああそっか、私もあっちで調査隊と話すとき英語だったしね。リーアには日本語は聞きなじみのない言葉だ。


『コトハ、この人はどなたでしょうか?』

『ええとね、カンザキさんっていうとても残念な人。性格悪いし、友達いないし、おまけにあの髪型。ちょっとキャラ付けしようと必死じゃないですかねー。ああいや、私は嫌いじゃないけど』

『そ、そうなんですか…』


私の紹介に、リーアは苦笑いを浮かべる。


「おい渡、何か変なこと教えたんじゃないだろうな」

「いえいえそんな滅相もない。私の信頼する良き先輩と伝えただけですよ」

「ぜってぇ嘘だな…弁解出来ないのがさらにタチ悪ぃ…」


明らかに怒っていて、いつもならゲンコツが飛んでくる状況ではあるが、リーアもいるのでそこは堪えている模様。

あれ、これもしや帰りイジリ放題じゃない?流石に可哀想だから程々に済ますけど。


神崎先輩は車のキーを回し、エンジンをかけた。

エンジンの唸る音に、リーアは少し驚く。


『コトハ、乗ったのはいいのですが、これは一体』

『ん?ああこれ?自動車。鳥車のキーイの代わりに、機械で走るの』


キーイというのは、先述の○ーグァの名前である。

見た目は鳥だが胎生で、羽毛のない結構大きい子供を産む。あと人懐っこくて可愛い。


『そんなものがあるのですか…コトハの世界はすごいですね』

『いやいや、隣の芝生は青いってやつだよ。私からすれば、リーアの世界だってこっちにないものがたくさんあって眩しく見えるもん』

『そういうものでしょうか?』

『まぁ、多分ね』


セブンの文明は、私達の世界より進んでるとはいえない。

トイレだって水洗じゃないし、こっちの世界で救えても、セブンじゃ救えなかった命も多い。


しかしセブンには私達が遙か昔から求めてきた、ロマンそのものが存在するのだ。


「お話し中申し訳ないが、渡は熊に襲われたんだろ?それでその、リーアさんが助けたと」

「そうですね、ありゃかなり吹っ飛びましたよ」

「そのお嬢さんは何したんだ?」

「…ああ!そういえば!!」


私がいきなり大声をあげたので、リーアはびくっとなる。


『ど、どうしたのですか、コトハ?』

『リーア!あなた魔法使ったでしょ!どこか身体に違和感とか具合悪かったりしない!?』

『いえ、別に大丈夫ですけど…それが何か』

『はぁ、それなら良かった。前にも言ったけど、この世界に魔力は存在しないの。だから無闇に魔法を使ってしまうと、すぐに魔力切れで倒れちゃうし、治療する魔力すら無いの。ごめんなさい、私なんかのために』

『そうでした…でもあの時は私もコトハを助けようと必死だったのでお互い様です』

『申し訳ない』


セブンには私達の世界にないものが多く存在する。

その一つが「魔法」だ(直訳すると「恩恵」とか「天恵」なのだが、せっかく私が翻訳の基礎を作れるということで意訳させてもらった)。


調査隊の調査から、大気中や彼らの身体に、こっちの世界には無い物質が存在することが判明しているらしい。

伝聞系になっているのは世界間転移の際、こっちの世界の電子機器類がそろって不具合を起こし使い物にならないためである。


故に私達が出来る調査もアナログなものばかりで、精密な調査は同行するファーストの人が担当し、報告を受けるだけに留まっているのが現状だ。


そういえば私達が世界間転移する際に無事に転移ができるのは、ファーストの転移装置が私達の身体をある程度転移先の世界に適応出来るように一度エンコードして再構成しているかららしい。


困ったらなんでもファーストの技術、いつまでブラックボックスで済ます気でいるのだろうか、この組織は。


話がそれた。セブンに存在する魔法は、私達が魔法と言われて考えるものと大部分は一致する。


炎を出したり、風を起こしたり、高度な部類では怪我の治療なんかも可能である。生態系に竜や火を吐く鳥がいるのだ、進化の過程でそういった能力を保有する事は、魔法が可能である土台さえあれば十分考えられることだ。


魔法の技能も個人差があり、リーアは治療なんかの方面はさっぱりだが、風を扱う魔法にはずば抜けた才能があるらしい。

言葉遣いとか普段はいかにもいいとこのお嬢さんなのに、魔法は過激、いわゆるギャップ萌えってやつです(違う)。


話を聞いたところ体内に貯めた魔力を放つ要領らしく、こっちの世界でも使えることは予想していた。

しかし、こっちの世界には魔力を補充する術が無いのだ。考えなしに使っていいものじゃない。それを使わせてしまったのは私の不徳の致すところだ。反省せねばなるまい。


「神崎先輩は聞いてますよね、魔法?」

「ああ、調査隊の報告にあった。…まさか使ったのか?」

「ええ、私の不注意です」

「この世界に無いものをまき散らすとどんな影響があるのか分からん。以後慎むように頼む」

「了解です…」

『あの、彼は何と』

『あんまり無理しちゃ駄目だって』

『分かりました…うぅ…』


すると突如、リーアは顔をしかめ私にもたれかかってきた。


「え、何大丈夫!?」

「おいどうした?」

「リーアちゃんがいきなり具合悪そうに…うっ」


すると私も、なんだか吐き気が込み上げてきた。いつしか道路は、あの曲がりくねった道路へと差し掛かっていた。


『き、気持ち悪いです…』

「先輩、ちょっと車止めてもらって良いでしょうか…?」

「大丈夫か、魔力が関係あるのか?」

「いえ、これは多分、二人とも車酔いです…気持ち悪ぅ」

「紛らわしいことをすんな!このアホ!」

「あははは、すみませう゛えぇ!!」

「おいこら吐くんじゃねぇ!レンタカーだぞこれ!?」

『ん…うっ』

「おいこらこっちも貰いゲロしてんじゃねぇか!?だぁーもう最悪だ!!!」


一度停車し可能な限りの処理をしたが、臭いは中々消えずに、結局帰るまでにもう一度二人で吐いてしまったのだった。



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