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「リーアの来訪」その2

異世界って遠いなぁ(文量的な意味で)

『…もう大丈夫です』

『振り向いていい?』

『はい』


振り返ると、裸だった少女は下ろしていた髪をポニーテールにまとめ、ちゃんと服を着ていた。

まぁ、着ていたと言ってもへそやら太ももが丸見えのかなり露出の多い格好であるが。

着物や浴衣をアレンジしたアイドルの衣装から、過度な華やかさを引いたような感じ。


『いやー、本当に死ぬかと思った。というか何でここにいたの?しかも裸で』

『えぇとそれは…こっちに来たら思ったよりも早く着いちゃって。そしたら川があるじゃないですか?何となく近づいて水に触ろうとかがんだら、滑って川に落ちちゃって。着替えもありませんし、濡れたままよりは良いかと思って脱いでから乾かしてたんです。そしたらそこにコトハが来て、さっきのあの魔獣に襲われていたんです』

『魔獣て。こっちにそんな危ないのはいないよ。前に話したと思うけど』

『そういえば、そうでしたね…うっ…』

『どうしたのリーア?』

『うっ、うわ~ん!!コトハ会いたかったです~!』

『え、ちょ、いきなり!?』


いきなり涙に頬を濡らされ、思いっきり抱きつかれる。

さっきの打撲が痛いとは言える雰囲気ではなかったし、私も嬉しかったので、彼女の背中に手を回した。



私に抱きついて泣くこの少女の名はリーア・アリュクス・ニグルヘンド。カタカナ表記だとこれが一番近い発音だと思う。

今ドキの学校じゃリンカーンもリンカンと教えられているらしい。グローバリズム怖い。


リーアは目映い程の艶やかな金色の髪に、翡翠のような美しい瞳が印象深い子だ。歳は多分18歳くらい。多分というのは、彼女がこの世界の人間ではないからだ。


彼女が住む世界の事を私達は「セブン」と呼んでいる。

深い意味は無い。ただ彼女の住む世界の存在が確認されたのが、「他に存在する世界」の中で7番目に見つかったからである。



「異世界が存在する」ということが人類に知られることになったのは、今から50年程前、「ファースト」の使者が現れた事に由来する。


物語でよく語られるエルフに似た姿をした彼らは、人類に世界間移動や人智を越えた数多くの技術をもたらした。


しかしこれらの技術は現在に至るまで世界中に広く普及される事はされず、国際的に結成された秘密組織「エンカウンターズ」によって秘匿・管理されている。


異世界という新たな可能性は、人類が地球の次に住むための候補先にもなったりと、その未来は無限大なのだが、それこそ無限ということは悪用も出来るわけで、対策も万全でない以上秘匿するべきだとなったりしたらしく、現状に落ち着いている。


そして私はワケあって、その組織の端くれとして働いているのである。


私の担当する世界は「セブン」。彼女、リーアの世界だ。


その存在が発見されたのは何と私が大学に通いながら雑用ばかりの見習い期間を終えた直後、今から一年半前の事である。


どのような世界なのか、危険か安全か、知的生命体がいた場合それは友好的か敵対的か。


そのような事が全く分からない未知の世界の存在に、私は興奮せずにはいられなかった。自分が死ぬかもしれないなんてことも考えず、私は調査に参加する事を志願した。


各国から選抜された少数のメンバーの中に自分の名前があったときは嬉しさのあまり、隣でそんなバカなと口を開けていた神崎先輩のボディに一発決めてしまった。


そして私は初めて世界を渡り、セブンの大地を踏んだのだった。


そこは実に地球の環境と似ていた。山があり海があり、生き物達が生態系を育んでいた。



ただ違っていたのは、その生物のほとんどがとてつもなくファンタジーだったのである。


空を飛ぶ竜、火を吐く鳥、山のように巨大な昆虫らしき生き物など、そりゃあもう驚きと生命の危機の連続だった。

調査隊にファーストの使者が同行していなければ、私は今頃セブンの生態系に取り込まれていただろう。


私達の世界とセブンを往復しながらの調査の結果、人によく似た生き物が集団を作り、国家のようなものを形成していることが分かってきた。その大発見に、調査隊は歓喜の祝杯を挙げずにはいられなかった。


数千の世界にその活動を広げているというファーストの情報だと、知的生命体の確認される世界はごく僅かで、しかもそのほとんどがヒト型の姿をしているのだという。


単に私達が知的生命体と認識出来るのがそうなっているのか、はたまた何かによって導かれし全世界共通のことわりなのか。これに関しては私の管轄外なのでよく分からんし、理解もできんと思うのであまり考えていない。


そして私達はセブンの人類と接触することにした。文化もはっきり分からなかったが、出来るだけ友好的である事を伝えたかった。


しかしここでまず問題なのは、言語の壁である。


言葉というものはイギリスに留学した当初の頃に実感したように、上手く表現出来ないともどかしいものである。

ましてや前例がゼロなのだ。教科書はおろか、話せる人自体が存在しない。


ここで私は、ふと思ったのだ。


「もし翻訳できたら、私が地球人類初のセブン語マスターなのでは?」


そこからの決断は早かった。


町外れの道を進む鳥車(馬車の要領で、シルエットはダチョウに似た感じの鳥、ぶっちゃけて言えばモン○ンのガー○ァに似てる鳥に引かせている)を止め、ジェスチャーを駆使し、働くから一緒に暮らさせてくれと要求を通した(後で聞いてみれば、行くところのない可哀想な人だと思われていたらしく、同情の了承であった)。


調査隊のメンバーにも頭を下げ、セブンに常駐する事を許可してもらった。


そして私は家の雑用や街への買い物を手伝いながら、会話から単語を覚えた。

『これは何?』が言えるようになった時、もう私は神なんじゃないのかと思った。


ここでも幸運だったのは、私が居候させてもらった家がこの国家、ラグニシア王国でも中々の名家であるニグルヘンド家だったということ、そして私が言葉を覚えようと躍起になっているのを理解し、その家の娘が付き添って教えてくれたことだ。


言葉を教えてくれたその娘こそ、このリーアである。


彼女も(割と)歳の近い女性が周りに少なかったらしく、接しているときは楽しそうにしてくれた。


彼女の協力あってか、半年後にはある程度の会話が成り立つように、一年経つ頃にはペラペラで文字まで読めちゃうようになっていた。


この言語はラクセイル語と呼ばれ、文字は私達のものだとアルファベットが近いかなと思った。書きやすいと広まるんすねやっぱ。


そして私は一年間の成果を報告書としてまとめ、組織へと提出するために、一度元の世界へ帰る事になった。


泣いて離そうとしなかったリーアも、また戻ってくることを約束すると渋々了承してくれた。


調査隊とは英語、普段はラクセイル語だったため、戻って神崎先輩に初めて会った時、日本語がパッと出てこなかったのはびっくりした。


事は順調に運び、ニグルヘンド家の協力によって王家との交渉にこじつけ、エンカウンターズとラグニシア王国間での人間、技術の交流が行われる事になった。


私もその交渉に通訳として参加し、えらく緊張した。そして私以外にもラクセイル語が話せる人が増えてきたので、私がセブンにいる期間も最近は減っていた。


そしてここ一ヶ月ほどは、一年働きっぱなしとその功績が認められ、こっちの世界で休暇を取っていたのである。


そして今回は逆に、セブンからこちらの世界に人を招く事となり、異世界という存在を認識しており、私との交流もあり適任であることから、ニグルヘンド家の人間が来る事になっていた。


そしてそのセブンで初めて世界を渡った人こそ、恐らくこのリーア・アリュクス・ニグルヘンドなのだ。


約一ヶ月ぶりの再会。彼女が私に会いたいと思っていた頃、私は家のソファで寝そべってテレビ見てたんだなぁと考えると、それなりに罪悪感というものは湧いてきた。


そしてずばり、今回の私達の仕事は「セブンからの使者の保護と輸送」である。

聞こえこそヤバそうな任務であるが、レンタカーで来てる時点で察して欲しい。




くっついていたリーアをはがし、よっこいしょと立ち上がる。足首はまだ痛いが、車まで戻ることは出来そうだ。


『さて、行こっか』

『はい、行きましょう!』


結局下りてきた斜面で足首に激痛が走り、リーアの肩を借りて神崎先輩の所まで戻ったのだった。

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