侵入者
六月も終わりに差し掛かり、じとつく梅雨の時期が明けるのも、もうすぐである。
「平和だな」
「うむ、これも我々が日々職務を全うしている結果だ」
巡回中のパトカー内で、二人の警察官が会話をしている。
「しかしこうも平和だと、たまにはあっという事件でも起こらないかと思ってしまう」
「馬鹿な事を言ってはいけない。平和が一番であり、この平和を長く維持させる事こそが我々の使命であり仕事なのだ」
「それもそうだな。いや、すまなかった」
そんな二人の会話をまるで聞いていたかのようなタイミングで、本部から事件発生を伝える一本の無線連絡が入った。
「緊急事件発生。何者かが被害者宅に侵入したとの通報が入った。至急、現場に急行されたし。現場は…」
本部からの要請を受け、二人の顔を緊張感が支配する。
「おい、聞いたか。侵入者だそうだ。泥棒目的の侵入だろうか」
「わからんが、ここから近いな。さっそく向かおう」
サイレンを鳴らし、赤色灯を回転させたパトカーは緊急走行で現場に急行した。
現場付近では、通報した家の家主であろう中年の男性が、パトカーに向かい両手を振って、何かを叫んでおり、パトカーが到着するやいなや、男性は二人の警察官を急かした。
「やっと来てくれましたか!! 遅いですよ!! さあ、早く早く!!」
「そんな慌てないで。我々が来たからにはもう安心ですよ。自宅に侵入した憎き犯人をすぐに捕まえますからね」
警察官の言葉に、男性はいくらか安堵の表情になり、言った。
「本当ですか!? ああ良かった…。もう一生我が家には戻れないのかと思った」
「そんな大袈裟な…、犯人はまだ自宅にいるのですね?」
「はい、あそこに」
中年男性の視線の先には、人間の家を住み処とした新種の巨大カタツムリが、ニュルリと顔を覗かせていた。