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苦手な方はご注意ください。

コンクリートに愛を

作者: 厨二 太郎

――2013年12月25日 午後9時

 俗にいうクリスマスという日です。

 キリスト教をいまいち把握していない私からすれば、カップルのための行事で、私は地元の友人とあって食事をする程度のものでした。

 しかし転機とは訪れるもので、どういった経緯だったかはよく覚えてはいませんが、高校で知り合った日向陽介と二人で遊園地に行きました。

 遊園地とは言ったものの、田舎の山奥にあるものですから、都心に比べると混んではいなかったため穏やかな一日を過ごすことができました。


 それは、閉園間際のこと。夜も深まってきて、そろそろ帰ろうかという時でした。

 唐突に彼は立ち止まり、私のほうへ向きなおりました。

 それから、ごそごそとコートのポケットからリボンのかかった箱を取り出しました。

 その箱を私の手にポンと置いて、そっぽを向いてしまったのです。

「日向君?これは…?」

 視線を合わせてくれないことに不安を覚えた私は彼に呼びかけました。

 すると何か、意を決したように深く息を吸って、いいました。

「俺と付き合ってくれ」

 真摯に私を見つめる彼に、目を離すことを憚られました。

 目の前の日向陽介に、視界を奪われてしまいました。

 脳内いっぱいにエラーをまき散らして、正常な判断が下せなかったながらも私は、

「はい。…私で良いのでしたら」

 そう答えていたのでした。



 それからは、幸せでした。

 彼が好きなものを知ったらそれを調べ上げ、会話についていけるようにしました。彼が好きな料理を作り、彼が嫌いなものは私も蔑み、彼を悪くいう者には、男女問わず精神的肉体的苦痛を与え自主退学に追い込みました。

 彼から東京の大学を受けると聞いたときは驚きましたが、地元の大学の推薦を蹴って同じ大学を受験しました。

 次第に、私の友人達は私から離れていき上京することもあってか連絡さえも取らなくなっていきました。

大学に入ったからも彼との生活に変わりはなく、毎日のように大学で会い、当然同じサークルに入りました。

 これからも、ずっと幸せな生活を送れると思っていたのに。

 そんな日常を壊したのは、皮肉にも彼の言葉でした。いつも通り一緒に帰っていた時に3年前、私に告白してくれた時のように、突然彼が歩を止めました。

「日向君?」

 彼は答えません。

 重たい沈黙が二人を包みました。

 それから、頭を冷やしていくかのようにして、深く息を吐いて、言いました。

「俺たち、別れようか」

 耳を疑いました。

 なぜ、そんなこと言うのか、と問い詰めようと思いました。

 しかし、やさしい彼のことですから、何か考えがあるのだろうと思い、私は、

「はい。あなたがそれを望むのなら」

 と答えました。

 彼は、そう肩の荷を下ろしたかのように笑いました。

 今までに見たことのない柔らかな顔で笑う彼を見て、私は確信したのでした。



――2016年12月24日 午後8時45分

 車を走らせること数時間。私は大きなキャリーケースを持って車を降りました。

 今年は暖冬といえど、都心に比べ山間部は肌寒くコートとマフラーがあってもしのぎ切れません。

「久しぶりだね」

 白い息を吐きながらつぶやきました。

 そうして、私は彼と初めて来た場所。思い出の詰まった遊園地に来ました。

 私たちが来てからすぐに閉園してしまったらしく、ここ3年間はまともに手入れのされていなかった遊園地は、かつての明るく穏やかな雰囲気は微塵もなく、まるで廃墟のようでした。

 ぼうっと立っていても仕方がないので、私はキャリーケースを開いて、彼を地面に寝かせました。

「まるで白雪姫ね」

 そして、目が覚めることなどないと、わかりきっているキスをしました。

 ファーストキスは仄かなアーモンド臭がしました。

「ごめんなさい。あなたが入るくらい大きな箱を用意できなかったから…」

 そう誤って、キャリーケースのポケットから糸鋸を出して彼を11個に分けました。

 先ほどまであんなにも冷えていた体は汗がにじむくらいには温まっており、かすかな疲労感の中、車のトランクに積んでいたセメントとドラム缶を下ろして彼の近くに持っていきました。

 ここからは火葬場の遺骨を骨壺に入れるような丁寧さで11個の彼の体とセメントをドラム缶に詰めていきました。

ドラム缶いっぱいまでセメントを詰めると、3年前に彼から初めて貰った、使い込まれて銀メッキが所々剥げてしまっている時計を取り出しました。

「この時計をくれた後、あなたは言ったものね。『これから二人の時を刻めるように初めのプレゼントは時計にしたんだ』って。でも、もう二人の時は進まない。なら、あの時と同じ時間を永遠に刻ませてください」

 祈るような願いとともに固まり始めているドラム缶の中に9時をさしたまま進むことのない時計をそっと落としました。


 もう二度と、あなたに会うことができなくとも。

 私のこの狂おしいほどの愛があなたに届かなくとも。

 私の信じる日向陽介は、まだ私の中で生きているから。


 あなたはここで眠ってください。


 私の活動している団体で書いた3題話です。

〈時計〉〈コンクリート〉〈遊園地〉を入れるのは、思いのほか大変でもう一つ考えた話も結局バットエンドを迎えてしまうという、なんとも辛くなってしまうお題でした。

 私は基本ライトで明るいお話が好きなので、こういった話は珍しいかな?と思ってはいたのですが案外楽しかったと思います(作文)

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