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第5話:『珍花』





ソロ〜

ペペ「…ただいま〜……」ボソッ



早朝。霊夢を起こさないように、慎重に歩を進める。安眠を妨げれば、多分また災厄を体験する羽目になるだろう。



霊夢「あら、おかえり。」



起きているとは思わなかったので、少し驚く。



ペペ(こんな時間に起きている?)


ペペ(まさか俺が帰って来ないのを心配して夜通し起きて⁉︎)



ペペ「昨日は帰って来れずすみませんでした‼︎」


霊夢「ん?いや、気にしなくていいわよ。」


ペペ「しかし、心配をかけてしまいました!」


霊夢「別にいいって。どうせ帰って来ないと思ったし。」


ペペ「今後はこのような事がないように……」








ペペ「ん?」



ペペ「霊夢さん?今何と?」


霊夢「どうせ帰って来ない、って言った。」


ペペ「……何故そう思いました?」


霊夢「勘。」


ペペ「……いつ思いました?」


霊夢「昨日の夕方頃。」


ペペ「……その時俺が助けを求めているのは?」


霊夢「何となくわかった。」






ペペ「助けに来いよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎」









〜何故か俺が幻想入り〜

第5話:『珍花』



ーーーーーー


時間は少し戻る。

マスタースパークを受けた後、目を覚ますと、ソファに寝かされていた。すぐに、ここが幽香の家だと気づいた。介抱するために連れて来たのだろう。


ぼんやりとしていると、「ようやく目覚めたわね」と声をかけられる。



ペペ「ええ、おかげさまで……」


ペペ「⁉︎」



声のした方を向くと、風呂上がりだろうか、髪をタオルで拭きながらの、ネグリジェ姿の幽香がいた。


落ち着いたピンクは、可愛らしさよりも、扇情的な印象を受ける。


また、あのいたずらなボディが、薄い布に浮き彫りになっている。目をこらせば、胸部のあたりに、ぷくっとした小さな膨らみも見てとれる。


それだけでは無い。濡れた髪特有の艶。先程までとは違う美しさが醸し出されている。そして、タオルを動かす度に、花の香りが周囲を飛び、やがて身体全体を染め上げる。


視覚的にも、嗅覚的にも、強烈な刺激を受けたペペは、下腹部から熱が込み上げてきている事に気づく。



ペペ(ウオォォォォ……ヤバイ!反応すんな‼︎いや、正しい反応だけど!今は反応するなァッ‼︎)



ペペ(ドジに加えて、ケダモノのレッテルを貼られるのはマズイ!うぉぉぉ抑えろォォォォオ‼︎)



ペペ(あああああああああああ、こんな時性欲無くなればなァァァァァァァァ‼︎自由自在にコントロールできればなあァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎)



















ペペ「いや、出来るじゃん、俺。」


幽香「?」




ーーーーーー


幽香の好意で、風呂を借りることができた。風呂場も何から何まで、花の香りがした。よほどこだわっているみたいだ。


身体を洗う段階で、気づいたが、幽香との弾幕ごっこでできたはずの傷や打撲がほとんど消えていた。腰の痛みも同様に。何処で付いたのか知らない顎の大きな擦り傷以外は。



ザブッ

ペペ(【M-mode】は自然治癒もあるのか?確かにMの方々は頑丈だけど。)


ペペ(まぁ、デメリット無いのが救いだな。)



ペペ(さて、そろそろ出るかな。能力のおかげで、暴走しなくて良かった…。)



余りにも脆い理性を完璧に保ち、風呂場を後にする。


泥や汗のついた服を着る気にもなれず、かといって幽香が男性用の服を持っているなどあり得ないので、能力でカバーする。それでも特殊な服しか具現化出来ないのがネックだが。



ペペ(……何で執事服を着ているんだ…。ジャージは特殊ではないのか……。男子の体操服には需要がないのか、いや普通あるだろう。)




カチャ

ペペ「お風呂貸していただきありがとうございます。」


幽香「それは良いけど。その服装は…。」


ペペ「気にしないでください。」


幽香「そ、そう……。」



絶対に変な人としか見てもらえてない。幽香には“ドジで間抜けで変な液体を出す、服装のおかしい奴”としか情報が与えられていない。仕方がないとはいえ、悪い印象を払拭せねば。



ペペ「幽香さんには、お話ししたい事があります。」


幽香「……私も聞きたいことがあるし、お願いするわ。」





ペペ(…東方Projectの存在には触れない方が良いかな……)







ーーーペペ説明中……








幽香「……なるほど。何故私の名前を知っているのかが、不可解だったけど、理解できたわ。」



幽香「それにしても、本当に変な能力を持っているわね。」


ペペ「それほどでも。」


幽香「褒められた能力ではないのが、理解できていないようね。」


幽香「…まさかとは思うけど、風呂場で何もしてないでしょうね?」


ペペ「説明聞いてました?【色欲を縛る鎖(Lust Chain)】使っているんで、変な気は起こしませんよ。」


幽香「その能力が無ければ、変な事をしたということね?」



あの時見せた微笑みを浮かべている。返答を間違えてしまった。俺はあと何回ドジをすれば、気が済むのか。



ペペ「いえ、そういう意味ではなくて! 能力が無くても絶対しません‼︎」


幽香「…ふーん、一応信じておくわ。」



信じたと言っているのに、薄目でこちらを見ている。俺の信用低すぎ…?



ペペ(と、取り敢えず話題を変えよう‼︎)



ペペ「そ、それにしても、お風呂場良い匂いでしたよ!」


幽香「あら、唐突ね。」


ペペ(場の空気に耐えられないからね‼︎)


ペペ「いや〜、意外と女子力高くて素敵ですよ!」



幽香「へぇ〜、“意外”ねぇ……。」



即効で地雷を踏み抜く。

もう俺、死亡フラグ建築士の資格取得するよ。


顔から、背中から冷や汗が流れ落ち、せっかく温まった身体を冷やしていく。今鏡を見れば、真っ青な顔をしているだろう。


一方の幽香の顔には、“オモチャ”を見つけたという喜びが、はっきりと浮かぶ。顔だけ見れば美しいが、内心は虐めたくて仕方がないというドス黒さが確実に溢れている。


何も言わずに、幽香は鼻先がぶつかる寸前まで笑顔を近づける。傍から見れば、羨ましいシチュエーションなのに、どうしてだろう。全く嬉しくない。

これから何をされるのかドキドキ(恐怖)、しか無い。



……むしろ、俺からラブコメ展開に持っていけばいいのか?一先ずキスでも……。駄目だ、確実に殺される。


幽香は、俺の心情などお構いなしに優しく囁く。


幽香「ねえ…」



ビクッ

ペペ「は、はい!」


幽香「フフ。初めて会った時もそんな感じでビクビクしていたわね。」


幽香「何故かしら?」



ここで正直に話せば、確実にBAD END一直線だ。何としても回避だ。



ペペ「いきなり美人に話しかけられれば、男ならば動揺しますよォ…。」


ペペ(嘘は言ってない!流石にこれなら見破れまい…)



しかし、俺の作戦は甘かった。幽香はカッと目を見開き、見つめてくる。心の奥底にある本当の思いを知っていると言わんばかりに。


蛇に睨まれたケロケロのように硬直する。未だ幽香は無言のまま、見つめている。早く真実を言わなくては。若干腕に力を込めているのは脅しなのか?次答えなければ首をもぐぞ的な?



意を決して。

ペペ「ゆ…」



















ペペ「幽香さんがUltimate Sadistic Creatureだからァァァァァァァァァア‼︎」


幽香「表に出なさい。本気のマスタースパークをお見舞いするわ。」


ペペ「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」



逃げようとしたところを、腕を掴まれる。力込めてたのはこういう意味か!



ペペ「本ッ当に申し訳ありません‼︎ですからご慈悲を!ご慈悲をォォォォ‼︎」



幽香「大丈夫。ちょっと本気出すだけだから…」





幽香「楽に逝かせてア・ゲ・ル♡」




ペペ「字面だけならエロいのに‼︎全ッ然嬉しくない‼︎」



ペペ「待って‼︎本当すみませんでしたァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎」


















幽香「一応冗談よ。」


ペペ「ですよね。」


幽香「……つまらないわねぇ。もっと驚いたら?」


ペペ「なんだかんだ優しいということはわかっているので。」


幽香「はぁ……。」



幽香の腕から力が抜ける。弄りがいが無くなり、つまらない、とジト目で訴えたあと、奥にある椅子に座る。

最後に“なんだかんだ”とワザと煽るような事を言ったのだが、突っかからないところを見るに、本当に優しい人なのだろう。



ペペ(澄ました顔で会話してたけど、膝が大爆笑しているよ…。ああ、目からローションが……。)






幽香「はぁ…取り敢えず……」



足を組み、椅子に座っている幽香は、こちらに顔だけを向けて



幽香「気も晴らせたから、改めて。初めまして、私は風見幽香よ。何かあったら助けてあげるわよ、“なんだかんだ”でね。」



頼もしい言葉を掛けてきた。

肩の荷がようやく降りた気がした。そして、今度は吃らずに、はっきりと、返す。



ペペ「はい!これからよろしくお願いします!」



笑みが自然とほころぶ。幻想郷で、また友人が出来たことが嬉しく堪らない。流石に友人はおこがましいかな?まあ、それぐらい許してもらおう。




幽香「さて。何も食べてないでしょう?軽めの料理を作るわ。」


ペペ「ありがとうございます。…ところで今何時ですか?」


幽香「深夜2時くらいよ。」


ペペ「…21時以降の食事は、体重への影響が出ますから、ちょっと……。」


幽香「乙女か。」






ーーーーーー


そして現在に至るという訳である。

すなわち、霊夢は執事服を着た男と話していたのである。ツッコまないということは、完全に俺を“そういう人”として認知している。失礼な。



霊夢「……それで外泊してきたと。」


ペペ「その通りですけど、あまり寝てないんで、仮眠しますよ。3時間経ったら、起こしてください。」


霊夢「はいはい。ついでに食事も用意しておくわ。」


ペペ「助かります。」



疲れを癒すため、しばし床につく。






ーーーーーー

博麗神社より少し離れた場所



⁇?『あややや!まさか謎の人物が霊夢さんの所に居候⁉︎』


⁇?『これは大スクープ‼︎』




興奮した少女はファインダーを覗き



⁇?『“清く正しい”この私が‼︎幻想郷のために取材しなければ‼︎』



シャッターを切った。




ーーー第5話:『珍花』 ENDーーー




ーーー小ネターーー


魔理沙「そういえばさ、ペペ。」


ペペ「どうした、魔理沙?」


魔理沙「前回お前と作者が同一人物みたいな感じの事をチラッと言ってたよな?あれ本当なのか?」


ペペ「ン〜…そうとも言えるし、そうとも言えないかな?」


魔理沙「? どういうことだ?」


ペペ「まぁ、ここにいる俺も、本編にいる俺もプロデューサーとしても、正確には異なるしなぁ。」


魔理沙「はあ?ますます意味がわからないぜ。」


ペペ「…気づいてないのか。高校生の俺がプロデューサー業なんて出来ないだろう?」


魔理沙「⁉︎ い、いや、でも現に輝子はお前をプロデューサーと認識を……」


ペペ「してはいたよ。俺も疑問に思って俺の年齢を聞いてみたけど、やっぱり今の俺よりも上の年齢を答えたよ。そうだろ、輝子?」


輝子「う…うん。ぷ…プロデューサー若くてび…びっくりした。」


ペペ「それにだ。アイドルの仕事をほっぽり出して、何日も滞在させているのを俺が黙っているはずが無いだろう?許可しているのはな……」













「ここは軸が違うからだよ。」









魔理沙に語りかける男の瞳には、光が無く、ただ虚ろな眼で見ている。これ以上理解するのは、禁忌に触れることになるぞ。警告を与えている。しかし、知的好奇心に駆られた少女は、止まるはずもなく、質問し始めてしまう。



「軸が違う?どういうことだぜ?」


「……要するに平行世界と言ってしまえば、簡単なんだが。」


「もっと複雑なのか?」


「ああ。どの分岐にも属さないが、ここは切り離された場所でもない。だから例えば、幽香さんと戦った事象は覚えている、とかな。どうやら記憶のリンクはしているみたいだ。」


「でも、それも異質なんだろ?」


「……“あいつ”は自分の名前をペペだと名乗っている。本来なら紫と霊夢で話し合った時に、俺が提案したんだが、“あいつ”は由来を知らず、名乗っている。」


「一方的なリンク?」


「多分ね。受信は出来るが、発信は不完全のようだ。」



「まぁ、兎に角ここは、異常な空間なんだ。」





男は話し終えたのか、息を吐く。余りにも現実離れした話に目を丸くしていた魔理沙はやがて笑えるようになってきた。それは決して本当の意味での笑いでは無い。真実から逃避を行うための作られた笑い。



「な、なあ、輝子……」


魔理沙は隣にいる少女に話しかける。胸の奥底にある自分が自分なのかという膨大かつ捉えようの無い漠然とした不安を共有することで、少しでも和らげようとした。



「輝子……?」



反応が無い。魔理沙同様に恐怖し、声が出せなくなっているのか。だが、次の行動が魔理沙の逃避を確実に妨げる。



「ハッハッハ……アッハハハッハハハハハははははァァァァハハハハハアッはハハはは……アァァァァァァァァ‼︎‼︎」


高笑い。普段の輝子は気分の高揚した時に笑い出すのだが、明らかにそれとは異なる叫び声。この世界の真実を知り、得体の知れぬ恐怖を覚え、冒涜的な事柄を理解しようとしたが、心がそれに歯止めをかけた叫び。男はすぐに異変に気がつき、駆け寄る。



「輝子‼︎ 大丈夫か⁉︎ 俺がわかるか⁈霊夢さん至急精神分析及びケアを‼︎」


「任せなさい。」





霊夢の適切な処置により、やがて落ち着きを取り戻す。これが裏側を見てしまう代償なのだ。



「ご…ごめんなさい……心配を掛けて……。」


「大丈夫だ。輝子が正気を取り戻して良かったよ。……2人ともこれ以上何も聞かないでくれ。そんで頭を回転させないこと。深淵なんか覗くもんじゃない。」



男は2人を見やる。さらに奥深くに潜む真実などこんな物ではない。目の前に立って正気を保っていられるわけがない。魔理沙は今度こそ真意を汲み取る。



そして魔理沙は呟く。

「……お前は凄い奴だよ。」


「なんで?」


「淡々と…事実を受け入れているから。」


「別に受け入れていないよ。ただ理解を放棄しているだけ。…本当に凄いのは霊夢だよ。」


「霊夢が?」



男は一度霊夢の方を見る。虚ろだった眼に宿るのは霊夢への敬意と希望の光。


「以前に紫さんに軽く真実を聞かされたんだけど、俺は終始動揺していたよ。自分は自分なのかって。」


「でもね……」


一息起き、語気を強める。


「霊夢さんは『私は何処に居ようが、私よ。それは変わらない事実。違う?』って。」


笑みがこぼれる。


「本当に揺るがない“芯”を持っていて、頼もしいなと思ったよ。霊夢さんらしい励ましだったよ。」



それを聞き、ようやく2人の少女にも笑みが灯る。何を悩む事があるのか。自分は自分だ。



「私は励ましたつもりなんてないけど。」


茶を啜りながら、体をこちらにも向けず、淡々と訂正する霊夢。



「またまたぁ、照れ隠ししなくても良いんですよ〜♪」


「あらあら、何重にも封印されたいのかしらぁ♪?」


「ヤメテ‼︎ 含みのある笑みコワイ‼︎」



唐突に始まる流れるような漫才は、辺りの空気を軽やかにする。



「アッハッハ‼︎ いいや、霊夢は照れてるぜ‼︎」


「魔理沙も封印しましょう。」


「れ…霊夢さんい……良い人…。」


「流石に輝子みたいな良い子に言われるのは悪くないわね。」


「「私は(俺は)悪い子かよ‼︎」」


「え?逆に知らなかったの?」



いつもの調子を取り戻した一同。自分が本当の自分かが重要ではない。いつ如何なる時でも自分を保つことの強さを霊夢は霊夢らしく伝える。





「さてと、アホやっている場合じゃなかったわね。ご飯の用意しないと。」


「わ…私も…手伝う…。」


「ありがと。」


「ああハイハイ‼︎俺はパスタが食べたいです!」


「私はキノコ食べたいぜ‼︎」


「ノォーッ‼︎マイフレンズ‼︎」


「自分で作れ!」



「ああ、はいはい! ピラフが食べたいです!」


「何で2回言うのよ…。しかも違うやつを…。」


「いやぁ、だって……」














「“ワタクシ”の好みですからねぇ♪」



そう言う彼の口元が、歪に笑っていた。





ーーーTo be continued……




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