第4話:『開花』
マスタースパークの衝撃で、辺りは砂塵に包まれる。
幽香(これでも手加減したほうだけど、しばらく意識は戻らなそうね…。)
幽香(さて、回収した方が良さそう…)
幽香 (⁉︎)
勝利を確信していた幽香の顔に、初めて笑みでも、怒気でもない、驚愕が浮かぶ。
地に伏しているべき男が立ち上がっていたのだ。こちらは、まっすぐな眼で幽香を見据えている。
幽香「何故?あれを受ければ気絶は免れないはず…。」
ペペ「ギリギリでしたけど、実は……」
ーーーーーー
場面はマスタースパークが放たれる少し前まで戻る。
ペペ(もしかして、性欲を遮断しているせいか⁉︎)
ペペ(確かに霊夢さんと戦った時は、遮断していない。)
ペペ(俺の“性を司る程度の能力”が欲望に比例して、使えるとしたら…)
幽香「さあ、これで終わりよ!」
発射の準備が整う。
ペペ(くそっ!間に合え…‼︎)
最後の力を振り絞り立ち上がろうとする。
迫り来るマスタースパーク。
ペペ(【色欲を縛る鎖】解除‼︎ 【潤滑防壁】をドーム状に展開‼︎)
ペペ(間に合えェェェェェェェェエ‼︎)
ーーーーーー
ペペ「…という訳で、無事でいられました。」
幽香「なるほど。力の解放を隠していたのはわざとではなくて…」
ペペ「さっきまで気づいていませんでした、はい……。」
幽香「…………」
ペペ「あははは…。」
使わなかったのは心理戦を繰り広げていたからではなく、ただの間抜けだったからということに気づき、呆れ果てる幽香。いささか表情が曇る。
ペペ(幽香さんにとっては、屈辱的だろうなぁ。それで変な因縁付けられなきゃいいけど…。)
再び構えるペペ。
ペペ「さあ、仕切り直しといきますよ!」
ーーーーーー
またもや先に動き出したのはペペ。しかし、最初よりも明らかに動きが滑らかになっており、弾幕を回避していく。
幽香(これがさっきまで、ボロボロだった奴の動き?)
実戦経験が深い幽香には、いきなりペペの動きが良くなったことを訝しむ。何か能力を発動させているに違いないと注意深く観察をする。
幽香(…あいつの移動しているところに、ナメクジが這ったような粘液の跡……。)
幽香(やっぱり能力を使って地面との摩擦を無くしている。…なるほど、どうりで足をほとんど動かしていないのね。)
ペペの使用した能力は、【滑走する靴】。ローションを自由自在に操り、足元の摩擦を無くし、スケートのように動き回る移動術。
火事場の馬鹿力か。危機に瀕していたために、ペペの頭の回転は、普段よりも速くなっていた。
ペペ「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
幽香「甘いわ。」
冷静に弾幕を置き、徐々に追い詰めていく。そしてついにペペは被弾する。
バンッ
ペペ「くっ!」
幽香(今の手ごたえ…。)
幽香「…もう一つ何か発動させているでしょう?」
ペペ「流石ですね…。【M-mode】を発動中です。肉体強化の術……だと思います…。」
幽香「随分曖昧ね。私には教えてくれないのかしら。」
ペペ「いやいや!さっき思いついて発動させたんで、未知数なんですよ!分かっているのは、M化したのかなぁぐらいです、ハイ…。」
ペペ(でもまあ、心まではMになっていないんだなぁ。痛いのは嫌だと思えているし。)
幽香「本当に意味不明ね、あなた。」
多分褒められてはいないだろうが、褒められたことにしておこう。悠長にお喋りしているが、相変わらず距離を詰めることができない。あとひとつの決定打が欲しい。
ペペ(ここは…)
ペペ「飛び道具使用でも勝ちですよね?」
幽香「あら、漢気がないわね。全力で来るんじゃなかったの?」
ペペ「うぐっ!」
そう言われてしまっては、やらざるを得ない。
ペペ(ああもう!こうなりゃヤケだ!)
ペペ「幽香さん!」
移動を止め、呼び掛ける。改めて幽香を見据える。
ペペ「次で決めます!」
高らかにこの勝負の決着を宣言する。
幽香(何か勝てる策があるのね。)
幽香「良いわ。全力で掛かってきなさい!」
ペペ「行きます!ウォォォォォォォォォ‼︎」
対峙していたペペは幽香へ向けて、直進する。
幽香(ここからどう繋げる?)
弾幕を広範囲に張る。相当のコントロールがなければ避けられない。
ペペ「構うものかァァァァ‼︎」
強化されたペペの身体は、弾幕を浴びることを無視し続け、直進を止めない。
幽香(⁉︎ まさかこいつ、このまま突進して来るの⁉︎)
残り距離が十数mほどまでになる。
幽香「チッ!」
単純に避けてしまえば問題ない。これ以上作戦などない。
これまでの経過を見たことで、ペペを見下していた。
ーーーそう思わせることがこの男の狙いであるとも知らずに。
ババババンッ
幽香「⁉︎」
幽香の四方を、巨大な 【潤滑防壁】で塞ぐ。
ペペ「壁には防御以外の使い道があるんですよ!」
ニコッと笑ってみせる。ここまで順調に事が進んでいる。
ペペ(あとは攻撃の直前で解除して…。…さすがに女性殴るのはマズイよなぁ。)
ペペ(トンッ、っていう感じで、手を置く感じにしておこう。)
ペペ(そうすれば、『意外と紳士的(ポッ』とカッコよく決まるね!今までのドジもチャラになるね!)
ペペ(……アレこれデジャヴ……) コケッ
ペペ(うわぁぁぁぁぁぁぉぁぁ‼︎) シューッ
詰めの甘さは相変わらずのようだ。
これまでの戦いで僅かに地形が変化していることを念頭に置いていなかった。
段差につまずき、そのままエドモンド本田ばりに飛んでいく。
ペペ(スピード出し過ぎたァ!)
このままではぶつかる。いや、勝敗的にはそれで良いような気もするが。
ペペ「避けてェェェェェェェェ‼︎」
咄嗟に壁を解除する。壁で前が見えなかった幽香は飛んでいるペペを確認し、一瞬固まる。もう予想外だらけの事態が起こり過ぎて、考えるのも無駄という呆れの表情が見て取れる。
ペペ(…というかこれ、幽香さんの胸に飛び込むんじゃ……。)
ペペ(………止める方法無いし、仕方ないね!事故だからね!)
ーーーこうしてペペはその聖母と悪魔を併せ持つ豊満なバストに包まれた
ーーーかもしれない。
かもしれないとはどういうことだ‼︎
感想はよ‼︎
羨ま死ね‼︎
と思われる方がいるだろう。だが俺にもよくわからないのだ。
登頂成功するかもという次の瞬間俺は
ーーー空中にいた。
あれは確かに空中だった。眼下に黄色の絨毯が敷き詰められていたから、間違いなく空中だった。
何故こんな所に?
疑問を解決するより前に、地上から昇ってきた極太マスタースパークに少年は身を焦がした。
ーーーーーー
ペペ「」
幽香「はぁ…、回収するのも面倒ね。」
ザザーッ
嫌々ではあるが、引きずりながら帰宅するようだ。
…足掴んで運ぶのだけはやめよう!顎擦れてるから!
その愉快な様子を少女が1人
「あややや、何やら面白いことが起きていますねえ。」
遠くから見ていた。
ーーー第4話:『開花』 ENDーーー
ーーー能力に関する考察とまとめーーー
様々な経験から得られた能力の特性を、この手記に纏めてみたいと思う。
この能力は色欲の強さに連動しているようだ。
一切の欲を捨てると、非常に弱いものしか発動できなくなる。例えば、壁が膝下までの高さになる、とか。
錬成出来なかった大根も、後日、【色欲を縛る鎖】を解除した状態では錬成された。この状態ならば、棒状の物なら何でも錬成可能になってはいるが、何度も検証を行った方が良いだろう。
また、コントロール性も連動している事が判明した。未解除の状態でも、ローションの生成は可能だが、移動術に昇華できるものではなかった。解除状態なら操れる。
しかし、例外もある。
【香物収集】がその一例だ。匂いを拾える範囲が広がってしまうために、歩く度に様々な場所の匂いを拾って、方向転換。また拾って……を繰り返す。
まあ、対象を設定すれば、辿り着ける確率は高まるが。
また何かあれば、この手記に纏めてみたいと思う。
ーーーTo be continued……