第3話:『発芽』
『あら、迷い人?』
背後から話しかけられる。
話しかけてきた人物に心当たりがあるからか、ぐっと身構え、振り返る。
予想は的中した。
声の主は
ーーー風見幽香
しかし、恐怖はすぐに消えた。
日傘を差した緑髪の女性、風見幽香が微笑みを浮かべていたからである。
その微笑みは、太陽のようにすべてを包まんばかりの慈悲深いものであった。怖がってしまったのが恥ずかしくなるくらいに。
幽香「聞こえなかったのかしら?何か反応して欲しいのだけど。」
固まって、何も答えていなかったペペに幽香は再度質問する。
ペペはそこで我に帰り、慌てて答える。
ペペ「は、はい!ま、迷ってしまって!」
吃りながら喋る自分を見て、あらあら何故緊張しているのかしら、とクスクスと笑いながら、答える。
幽香「あなたの来たこの道を戻ると、分かれ道があるから、右へ行けば人里に帰れるわ。」
幽香「……あなた人里から来たのに迷ったの?」
ペペ「あはは、む、無意識的に来てしまって…。」
幽香「そう…、結構うっかりさんね。」
ペペ「あははは……。」
ペペ(うぅ……カッコ悪いところを見せてしまった……。)
きまりが悪くなり、お礼を言い、早々に立ち去ろうとする。
タッタッタッ
ペペ(ああああ、恥ずかしいいいい!早く!早く帰r…って危ねえ!) ガッ
向日葵畑を抜ける道へ駆け出したが、慌てていたため石につまづいた。
ペペ(うわっ!) パシッ
咄嗟に向日葵を掴む。しかし、向日葵では50Kgの体重を支えられる筈もなく、倒れこむ。
ペペ「いてて…………」
ペペ「⁉︎」
つつーっと背中に嫌な汗が流れる。左手にはザラザラとした感触…
ーーー折れた花が一輪握られていた。
ペペ(や、ヤバイ‼︎)
後ろから重圧を感じる。今まで経験したことの無い程の。
おそるおそる幽香の方を向く。そしてその姿を見たとき、戦慄を覚えた。
ーーー風見幽香は“微笑んで”いた。
それは先ほど道を教えていたときに浮かべていたものとは明らかに違う。深い闇が潜んでいるものであった。“笑顔=平和”の式を覆す反例を、彼女が示していた。
ペペ「あ、あ、ご…ごめんなさ……」
謝罪しようしたところに、彼女は差していた日傘をたたみ、先端をこちらへ向けた。
この行為が何を意味するか。理解するより先に身体が、野生的本能により動く。真横に倒れこむと同時に、日傘から射出された光線が先ほどまでいた場所を遥か彼方まで焼き尽くす。もしあと少し行動が遅れたら、直撃していただろう。
幽香「さすがに今のは避けてもらわないとね。」
俺のことなどお構い無しのようだ。
幽香「今のは最短で撃てる…すなわち“最弱”のマスタースパークよ。」
今のが最弱?地面を抉っているというのに?
足が震える。息が乱れる。心臓の鼓動が鳴り止まない。目の前の恐怖から逃げたいのに逃げられない。
何時の間にか思考が止まっていた。
幽香「力を隠しきれると思ったのかしら。無駄よ。最初から気づいていたわよ。」
幽香「あのまま逆鱗に触れなければ良かったのにね。」
動けずにいるペペのもとへ、ゆっくり近づく。
幽香「ここでは向日葵たちを傷つけてしまうから、場所を変えるわね。」
幽香はペペを掴み、そのまま投げ飛ばす。何が起きているのか分からないほどの速度で低空飛行を強いられ、やがて地面に叩きつけられる。
ペペ「ぐっ‼︎」 ドンッ
幸い落ちた場所は柔らかい土の上。大事には至らなかったが、それでも衝撃は避けられない。
ペペ「ゲホ…ゲホッ!」
幽香「死んでいないようで何より。まだまだこれからよ。」
ペペ「ま…待ってください…!向日葵を折ったのはわざとじゃないんです…!謝りますから!許してください…‼︎」
必死に謝罪する。自分が原因とはいえ、殺されるのだけは避けたい。しかし、幽香は、それだけでは、といった表情である。
幽香「だから、贖罪の方法を教えようとしているのよ。」
幽香「幻想郷で起きたいざこざは……」
幽香「弾幕ごっこで決着をつけるわ。」
ーーーーーー
弾幕ごっことは、人間と妖怪との力量差を埋めるために考案された決闘方法である。異変を起こす側も、解決する側もすべて、幻想郷では弾幕ごっこを用いる。
確かにこの方法では、命を落とす危険性が無い。
しかし、肝心の弾幕を放つ能力など無い。ローションを弾幕と定義できるならともかく。
ペペ「…弾幕放つ能力なんてありませんよ。」
幽香「まあ、話は最後まで聞きなさい。今回は特別ルールで行なうわ。」
ペペ「特別ルール…?」
幽香「ええ。まず1つ目、私は空を飛ばない。要するに地上戦ね。」
当然飛行能力も無い俺にとっては、そこそこ有利な条件ではある。それでも力量差はあるが。
幽香「2つ目、私はスペルカードとして、マスタースパークを3回使う。もちろんこれ以外のスペルカードは使わないわ。」
マスタースパークは直進する光線。どの程度の範囲を焼き尽くしていくか分からないが、回避しやすいだろう。
幽香「そして最後に、あなたの勝利条件は、私に一撃、どのような攻撃でも良いから当てることね。」
俺の攻撃など一度も食らうことは無いという表れか。いやそれより、なかなかの譲歩と捉えよう。希望が見えた。
さあ始めよう、とした矢先、幽香はまだ話を終えていなかったようで、さらに続ける。
幽香「因みに私の勝利条件…それは……」
幽香『あなたの意識を奪うまで虐げること。』
その言葉はひどく残酷であった。
今までこちらに与えられていた有利な条件が霞むような絶望。死よりも恐ろしい囁き。
別の方法はないか、提案する。
ペペ「ま、待ってください!悪いのは俺とはいえこれでは……‼︎」
幽香「…“理不尽”だ…。そう言いたいのかしら?」
こくりと頷く。
幽香「確かに圧倒的に力のある私とあなた戦うのは理不尽かもしれない。」
幽香「でもね。あの向日葵を考えてみるとどうかしら?」
ペペ「⁉︎」
幽香「あの子は、わざとではないとはいえ、あなたに生命を奪われた。…本来なら美しく咲き続けられた。それを“理不尽”に散らされた、あなたにね。」
ペペ「…………」
幽香「何か異論は?」
ペペ「…ありません。」
潔く覚悟を決める。謝罪の念を証明するために。
幽香「それから、私が勝ってもあなたから何も要求しないわ。あの子の無念を晴らすことが私の目的だからね。」
ペペ「分かりました。全力で誠意を示します!」
かくして戦いの幕が開ける。
ーーーーーー
まず初めに動いたのはペペ。
相手の余裕から、長期戦はまずい。何としても早く終わらせる。
姿勢を低くし、砂利をなるべく両手一杯に掴み、距離を5mまでにつめる。
幽香はバスケットボール大の光弾を3発、前方に放つ。
ペペ(避けるべき弾幕を絞らないと!)
ペペは右斜め前に進路を変え、避けられないと思うものに左手の砂利をぶつける。
続けて回り込むように近づき、右手の砂利を幽香に向かって投げる。
ペペ(卑怯かもしれないけど、ひとつでも当たれば…)
幽香「甘いわ。」
日傘を広げ、全ての砂利を防ぐ。
ペペ(ゲッ⁉︎砂利じゃ軽すぎたか⁉︎)
幽香「次はこっちの番。」
弾幕を処理する判断が遅くなり、直に弾幕の衝撃を受ける。
ペペ「うわァァァァァァァァ‼︎」 ドサッ
そのまま後方へ数十m飛ばされる。
ペペ「イテテ…。死ぬほどじゃないけど、受け続ければさすがに…。」
初めて受けた弾幕にたじろぐ。これを長く食らいたくはない。
幽香「出し惜しみしない方が身の為よ。」
幽香「さあ、1発目いくわよ!」
どうやら飛ばされている間に、マスタースパークのチャージは終わらせていたようだ。
ペペ(この距離と溜め時間…、無難に防壁を作る!)
すぐさま立ち上がり、能力を発動する
ペペ(【潤滑防壁】発動‼︎……)
ザバッ
ペペ「なっ⁉︎」
しかし、発動した防壁は膝ほどの高さしかなく、とても防ぎきれるものではない。
ペペ「のわぁァァァァァァァァ‼︎」 グルッ
咄嗟に腰を捻るようにして倒れ込み、間一髪で回避する。けれども、無理に捻ったためか、僅かながらに腰が痛む。動くのに支障が出るだろう。
ペペ(何故だ⁉︎霊夢さんと戦ったときは、俺より大きい壁出したのに!)
ペペ(まさかMPか⁉︎MPが切れたのか⁉︎)
ペペ(MP管理なんてできるか!そもそも俺は魔法使いにも物理攻撃命令するタイプなの‼︎せいすいを宝箱以外からわざわざ入手しないタイプなんだよォッ‼︎)
幽香「外したか……。」
ペペ(まずい!誰かヘルプ!ヘルプミィィィィィィィィィイ!)
ペペ(そうだ霊夢!持ち前の勘の鋭さで気づいてェェェェ‼︎)
ーーーーーー
一方その頃の霊夢
霊夢『あっ。』 ピクッ
魔理沙『?どうしたんだ霊夢?』
霊夢『…アホがバナナの皮踏んだだけよ。』
魔理沙『?』
霊夢(嫌な予感するけど、気のせいね。) ズズーッ
霊夢『はぁ、お茶美味しい。』
魂の叫びは届いてはいた。
ーーーーーー
ペペ「ぐぁァァァァァァァァ‼︎」
頼みの綱である能力が使いものにならなくなってしまった為に、被弾の数が徐々に増えていく。それに加えて、蓄積されたダメージや疲労もあり、動きが悪くなり、さらに被弾を繰り返す。ますます状況は悪くなっていく。
ドサッ
ペペ「うぅ………。」
身体は既に限界を迎えていた。立ち上がることさえも困難になってきた。
幽香「……そろそろね。解放せずによくもったわね。でも、これでおしまい。」
幽香「2度目は少し力を込めたマスタースパークをお見舞いするわ。…3発も使われなくて良かったわね。」
幽香はチャージし始める。
ペペ(ハァ…ハァ…。くそっ!考えろ…。この状況を打破する策を…。)
ペペ(本当に力は底をついたのか…?霊夢戦との違いはないのか…?)
憔悴しきった脳をフル回転させる。
何か見落としはないのか。
何か逆転の手立てはないのか。
勝利の方程式を見つけ出そうとする。
ペペ(……そういえば始める前に幽香さんは…)
“力を隠しきれると思ったのかしら。”
ペペ(…って、言っていた。怖くて聞けなかったけど、何で“隠している”と思ったんだ…?)
ペペ(俺は能力を隠そうとしていなかった…。むしろ、解放されたままの筈…。)
ペペ(……待てよ。さっき……)
“解放せずによくもったわね。”
ペペ(……‼︎もしかして⁉︎)
幽香「さあ、これで終わりよ!」
マスタースパークが放たれた。
ーーー第3話:『発芽』ENDーーー
ーーー小ネターーー
ペペ「小ネタ企画会議です。」
霊夢「面倒臭い。」 スタスタ
ペペ「まあまあ、重要なことですから。」ニガサヌ…
霊夢「はぁ…。それで?」
ペペ「?」
霊夢「開くくらいなら、何かしらの案があるのよね?」
ペペ「ありますよ〜!」
ペペ「まず毎回ゲストを呼んで、」
霊夢「ふむふむ。」
ペペ「何かしらします!」
霊夢「はい、しゅ〜りょ〜。」
ペペ「ちょっ!早い早い!」
霊夢「もうそれで決定でしょ?これ以上の議論は必要ないわ。」
ペペ「せめて1回分は考えないと!」
霊夢「…ッ」
ペペ「舌打ち拾ってますからね?」
ペペ「まあ、いいや。取り敢えず前回キノコ紹介されそうになりましたよね?」
霊夢「そんなことあったわね。」
ペペ「よくよく考えれば、キノコ紹介、楽そうじゃないですか?」
ペペ(主にwikiのおかげで)
霊夢「確かに…。その日の食費も浮くしね。」
ペペ「食べるの⁉︎まあ、良いですけど…。という訳でキノコ紹介良いと思うんですよ〜。」
ーーーーーー
魔理沙(フフフ、何やら話しているなと思って、聞き耳を立てていて正解だったぜ!) ニヤリ
魔理沙(前回は邪魔されたが、今回は公式だ!それはそれは重宝されるだろう…。)
魔理沙(私の時代来たね!)
ペペ『…という訳で今日キノコのスペシャリスト呼んでいますよ!』
魔理沙(………ん?私呼ばれていたっけ?)
ペペ『登場してもらいましょう!この方です!』
ガラッ
⁇?『…フ、フヒ…。ほ…星s「アウトォォォォォォォォォォォォ‼︎」シュパーンッ
魔理沙「ハァ…ハァ…。」
ペペ「……何してんのさ?」
魔理沙「それはこっちのセリフだァッ!‼︎」
魔理沙「今の人どう考えても東方関係ないよね‼︎」
ペペ「今の人は“モバマス”の星輝子だよ。」
魔理沙「名前言っちゃったよ‼︎」
魔理沙「関係ない人呼ぶの止めようぜ‼︎」
ペペ「いやいや、関係あるよ。」
魔理沙「は?」
ペペ「俺は(作者は)Pだからな‼︎」 ドヤッ
魔理沙「うわっ、ドヤ顔ムカつく!」
ペペ「それに魔理沙と輝子、おさげとか雰囲気とか似ているし…、キノコ好きだし…。」
魔理沙「だったら私がやれば良いよね⁉︎わざわざ外部を呼ばなくて良いよね⁉︎」
魔理沙「逆に何でこんな簡単に幻想入りしてんだ⁉︎」
ペペ「ああ、それは俺が幻想入りした時に出来た結界の歪みと管理の悪さが原因……」
魔理沙「おい博麗の巫女‼︎‼︎」
霊夢「…………」ズズーッ
霊夢「…………」ふぅ…
魔理沙「仕事しろォォォォォォォォォォォォ‼︎」
魔理沙「ハァ……ハァ……」
ペペ「あ…あの……」
魔理沙「ア?」 ガントバシ
ペペ「そろそろ輝子ちゃんに触れてあげよ?」
魔理沙「あ」
輝子「………………」
ーーーーーー
輝子「キノコーキノコーボッチノコーホシショウコー……♪フ…フフ…ドウセワタシハボッチ……。」
ペペ「輝子は寂しがり屋さんだから。」 ボソボソ
魔理沙「うっ、さ、さすがに悪かったのぜ。」 ボソボソ
魔理沙「ちょっと謝ってくる。」 ボソボソ
魔理沙「あ〜、輝子…だっけか?突然締め出して悪かった!」
魔理沙「意外な人が来て、ちょっとビックリしただけなんだ。輝子は何も悪くないんだ!」
輝子「…ホ、ホント?…」
魔理沙「ああ、本当だ!それにお前とは友達になりたいからな!」
輝子「⁉︎」
魔理沙「お前キノコ好きなんだろ?私も好きなんだ! いやー、なかなか話せる奴がここには居なくてな。嬉しいぜ!」
輝子「と…友達…。」
魔理沙「ああ、友達になってくれるか⁉︎」
輝子「う…うん。よ…よろしく…。」
魔理沙「それは良かったぜ!なぁなぁどんなキノコ好きなんだ⁉︎」
輝子「え…えっとね…………」
ーーーーーー
ワイワイ ガヤガヤ
ペペ(あんなに目を光らせている輝子を初めてみたなぁ。)
ペペ(これは良い経験になるなぁ。他のアイドル達も連れて来ようかな……)
魔理沙「おーい、ペペ‼︎」
輝子「ぷ…プロデューサー…。」
ペペ「どうしたー?」
魔理沙「キノコ狩り行こうぜー‼︎」
輝子「き…キノコみ…見に行こう…!」
ペペ「……え?」
魔理沙「輝子に幻想郷固有のキノコ見せに行きたくなってきてなー!」
輝子「わ…私もきょ…興味深い。」
ペペ「…キノコ解説は?」
魔理沙「それは後々!折角だし霊夢も行こうぜ!」
霊夢「いやよ。面倒くs…」
魔理沙「食用キノコ採れr「さあ、行くわよ‼︎」
ペペ「ちょっ⁉︎霊夢さん‼︎」
輝子「は…早く…。」 クイクイッ
ペペ「……分かったよ。よっしゃ、行くぞ!」
「「「おーーーーーーー‼︎‼︎」」」
ペペ(まあ、楽しんでいるから良いかな。)
ペペ(……輝子が来たってことは、もしかして、まゆ来ないよな?)
ペペ(いやいや!うちには所属してないから大丈夫だな。うんうん…。)
魔理沙との出会いは、人との関わりが少なかった輝子の心に一筋の光を灯した。輝子が笑顔を見せてくれることを本当に嬉しく思う。
ーーーありがとう魔理沙。輝子の友達になってくれて。
ーーーーーー
しばらくして、誰もいないはずの博麗神社で、人の形をした幻影が立っていた。ただならぬ気配が感じられる影は、ぽつりと
「フフ…。早く私をスカウトしてくださいねぇ…♪」
ーーー恍惚の表情で呟いた。
ーーーTo be continued……