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友情と任命

 ゴブリンどもがギイギイと店の中を荒れ狂っていた。

 なぜこんなところに。


 正装をしてきていないから今は竹光を持っていないぞ。


 今の俺は丸腰だ。

 しかし燃えるこの正義の心がお前たちを許さない。


「お前たち、店に迷惑がかかるぞ」


「そこを突っ込むのかよ」


 鎧がいいタイミングでツッコミを入れてくれる。

 なんかこの鎧、良いな。


 鎧子さんはどこだ。

 鎧さんの為にも鎧子さんを救うぞ。


 店に飛び込むとそこにはゴブリンシャーマンが立っていた。


「このショップを占拠した。私はありとあらゆるものを擬人化させる力を持ったゴブリンシャーマン。この力で人間の町をめちゃめちゃにしてやる。手始めに、そこの鎧を擬人化するぞ」


 ギイギイなくゴブリンども。


「なんだと」


 俺は息をのんだ。このショップの物がすべて人間とかし、擬人化されれば、鎧子さんは赤い稲妻と結婚できなくなるじゃないか。鎧同士の結婚がどんなものかは知らんが、そんな馬鹿な。予定と違う。


「そんなことは許さない。友のためにそれだけは」


強敵とも


 感激する赤い稲妻さん。

 その時、ゴブリンシャーマンが赤い稲妻さんを見た。


「鬼神、赤い稲妻。お前、随分情けない姿になったじゃないか!! 赤い稲妻! 勇者と共にいるとは!! それに壊れかけじゃないか。どうしたんだ。ぶははは」


 完全に馬鹿にしているゴブリンシャーマン。


「何を言う、赤い稲妻さんは泥棒の落とし物だぞ。お前たちとは違う」


 俺は大声で叫んだ。

 絶句するゴブリンシャーマン。そして大声で笑いだした。


「鬼神ともあろうものが勇者にやられてぼろぼろとはな。私はずっとお前が気に食わなかったのよ。ここで葬り去ってくれる! 覚悟せよ!」


 俺は叫んだ。


「やめろ。赤い稲妻さんはこの店にお嫁さんを探しに来ただけなんだ」


「言うな、勇者!」


 鎧を真っ赤にして恥ずかしがる鎧さん。


「お嫁さんを」


 大爆笑するゴブリンシャーマン。なぜだ。


「そこの鎧子さんを返せ!」


 叫ぶ俺。


「ならば手始めにこの鎧を擬人化する」


 ゴブリンシャーマンは鎧子さんに手を当てる。


「やめろぉぉぉぉ。鎧と人では結婚できない!」


「鎧と鎧でも結婚できねえよ!」


 俺は赤い稲妻さんのツッコミが入る中、擬人化光線に飛び込む。

 次の瞬間、俺の体は鎧になって下に転がった。なんだと。


「擬人化光線にはこんな使い方もできるのだよ。勇者、破れたり」


 ゴブリンシャーマンは俺を踏みにじった。くそ。このまま一生鎧として暮さねばならないというのか。


 勇者の鎧。価値がありそうだ。こんな鎧な俺が世界で活躍するためには俺の中で勇者を育てなければならないということか。なんて試練だ。どうやったら面倒見がよくなるんだ。社長になればいいのか!


 ゴブリンシャーマンはゲラゲラ笑った。


「食らえ、鎧。私の擬人化光線を浴びるのだ」


 鎧子さんは擬人化光線を浴びて人化してしまった。ころころ転がる。


 嬉しそうな鎧子さんは人化して飛び跳ねる。


「わあ。動ける。嬉しい」


 鎧子さんは可憐な女の子の姿になった。


「すごくうれしい。ありがとう、ゴブリンシャーマンさん」


「あ、ああ。お礼なんてちょっとでいいぞ。ぶはははは」


 どこか調子の狂っているゴブリンシャーマン。


「ずっと動けなかったから肩が凝っていたの。これで自由に動けるよ。えへへ」


 鎧子さんは勢いよくジャンプした。


「私、鎧子さん。よろしくね」


 俺という勇者鎧に嬉しそうに挨拶する鎧子さん。


「ああ、よろしく。鎧子さん」


「本当に鎧子さんだったのかよ。いやあ、あはは。どうしようかな。こんなに性格の可愛い子だったなんて。本当。どうしようかな」


 そわそわしながらつっこみを入れる赤い稲妻さん。欲しいところに欲しいものを入れて来るな。そんなあなたがナイスツッコミ鎧だ。


「今だ、勇者を倒せ!」


 ゴブリンシャーマンに掛け声に従い、ゴブリンたちは俺に襲いかかった。鎧になれていない俺はどんどん傷つけられていく。このままでは。バラバラになる。ここで果てるのか。赤い稲妻さんに恋人を作ることもなく、ユキメに会うこともなく。一瞬大仏の顔が浮かんだが、俺の記憶が大仏を蹴り飛ばした。くそ。あんなものには頼れん。どうしたらいいんだ。


 赤い稲妻さんが叫んだ。


「鎧子さん。勇者さんを助けたい。逃げたいんだがどうしたらいいと思う。君の意見を聞かせてくれ」


「はふひっ。いかつい顔の鎧さんです!」


「え?」


「鎧子は甘いマスクの鎧が好きなのです。そう、この勇者鎧のような素敵な方が好きなのです」


「勇者鎧だと」


 赤い稲妻さんはどうしたことかぎらついた怒れる目つきで俺を見た。


「酷いよ。勇者さん。男前の鎧になるなんて。右脇腹のラインが鎧の中の鎧、カッコEラインだなんて。酷過ぎるよ。私の立場はどうなるんだよ。困ったよ」


「赤い稲妻さん。愛は心です」


「愛は第一印象だよ。第一印象で決まっちまうよ」


「愛は第三印象で決まります」


「じゃあ何か。三回目に出会った時に好きになってくださいって言えってか? あんたみたいな美しい鎧がいる横でこの厳つい鎧はどうしたらいいんだよ。自信が持てねえよ」


「赤い稲妻さんは美しい心を持っているじゃありませんか」


「美しい心?」


「人を思いやる心です」


「よせやい。私はそんながらじゃない」


 照れる鎧さん。


 その時、鎧子さんが俺を身に着けた。


「このまま逃げましょう。勇者の鎧さん」


「しかし、赤い稲妻さんが」


「あの厳つい鎧さんですか。助けたいけど私二人は運べません。はひっ。どうしましょう」


 赤い稲妻さんは叫んだ。


「私を置いて行け。勇者さんを助けて差し上げてくれ。勇者さんは良い人だ!」


 俺は感極まって叫ぶ。


「赤い稲妻さん!」


「勇者さん!」


「男の、男の友情です……浪花節です!」


 辺りに薔薇の花を撒き散らし、感激して泣き始める鎧子さん。


 その鎧子さんにゴブリンたちが群がる。


「今だ。勇者に止めを!」


 叫ぶゴブリンシャーマン。


 その時大仏が現れた。


「ブツブツぶつぶつ、ホトケレンジャー」


「大仏!」


 俺は叫ぶ。大仏は金の耳かきで耳を掘った。


「なに、敵と仲良くなっているのさ」


「敵じゃない、泥棒の忘れものと仲良しだ! それの何が悪い!」


「まあいいけどね。ホトケレンジャーウオッチはここにあるよ」


「今の俺はホトケレンジャーにはなれない!!」


 この姿では戦うこともできない。


「大丈夫。みんなを連れてきたよ」


「みんな?」


 みんなって。一つのシルエットがぼんやりと浮かぶ。


「人呼んでホトケブルー。俺ってカッコいい」


 はっきり言ってブルーしかいなかった。こいつ一番役に立たないんじゃあ。


「他の連中はどうしたんだ」


「イエローは食事に、グリーンは反省に、ピンクは美容に」


「お前はなぜここに!」


「ピンチのリーダーを救う俺がカッコいいから」


「そんな理由で来たのか」


「とう」


 ホトケブルーはかっこよく構えた。


「スワンの構え」


「それで何ができる」


「敵の攻撃をすべて受け流す」


 ゴブリンたちが突っ込んでくる。

 ホトケブルーは体中をくねらせて全ての攻撃を食らった。クリーンヒットだった。

 そんなに攻撃を食らって、なにか、なにか考えがあるのか、ブルー! 


「全てを食らう俺もかっこいい!」


 普通に倒れるホトケブルー。


「かっこよく見せようとするからだ……」


 あきれる俺。あれでは当ててくれと言っているようなものだ。

 戦う前からぼろぼろのブルー。


「そこまで言うならお手本を見せろ、レッド!」


「いいだろう。鎧子さん。力を貸してくれ」


「は、はふひっ」


 俺は鎧子さんの体にぴったりとフィットとした。


「行くぞ。鎧子さん!」


「はふひっ」


 ゴブリンどもが襲い掛かってくる。俺はそのすべてを回転しながらかわした。


「はふひぃっ」


「行くぞ。鎧子さん」


 俺は鎧子さんに叫んだ。


「この店にある刀を構えてください」


「はふひっ」


 それは一本の木刀だった。


「こうですか」


「正面突破! ツッコミます!」


「ちょっと待って、ちょっと待って、そんなの怖くてできない!」


 その時、ゴブリンシャーマンが叫んだ。


「こんなに強い鎧、見たことがない。こうなったら食らえ、私の最大魔法、ビックバン!」


 ゴブリンシャーマンのビックバン光線が俺と鎧子さんに迫る。


「危ない勇者さん!」


 その時、赤い稲妻が息を噴射させて飛んだ。


 ホトケブルーの体にまとわりつく。


「行くぞ。ホトケブルー」


 赤い稲妻はホトケブルーごと自分の体を光線の前に投げ出した。


「鎧子さんは私が守る。ぐあああああああああ」


「なんで俺までぇぇぇぇぇ」


 ホトケブルーと赤い稲妻はもだえる。


「これで借りは返したぜ。サヨウナラだ、ホトケレッド」


 そう言うなり鎧、赤い稲妻さんは砕けた。


「赤い稲妻さん」


 俺と鎧子さんは赤い稲妻さんの隣に駆けよる。


「いい人生だった。ありがとう、勇者アルスレート。これで悔いなく死ねる」


「赤い稲妻あああああああああぁぁぁぁぁぁっぁぁ」


 俺は吠えた。


 ゴブリンシャーマンは大笑いする。


「いい気味だ。鬼神、赤い稲妻。今、擬人化すればお前などひとたまりもない。裏切り者、くらえ」


 ゴブリンシャーマンの擬人化光線が赤い稲妻さんに当たる直前、俺と鎧子さんはその光線に飛び込んだ。


「復活!」


 鎧に戻った鎧子さんを抱えた俺は静かに赤い稲妻さんの隣に寄り添った。


「赤い稲妻さん。ありがとうございます。あなたのおかげで、俺は助かりました。恩など何も返せませんが、あなたのために戦わせてください」


「勇者……」


 そう言うなり赤い稲妻の声は途絶えた。


 俺は落ちた木刀を拾った。


「よくも赤い稲妻さんを!」


 俺は回転しながらゴブリンシャーマンに突っ込む。ゴブリンシャーマンは叫んだ。


「勇者よ。もう一度くらえ。擬人化光線!」


「勇者さん。お願いします。私を使ってください!」


 俺は鎧子さんを拾って擬人化光線をはじいた。鎧子さんは俺の腕の中で再び人化する。


「はふひっ」


「今だ。アルスレートスラッシュ!」


 俺はゴブリンシャーマンを切り捨てた。

 ゴブリンシャーマンはガラスになって砕け散る。


 俺はすぐさま砕けた赤い鎧を抱き寄せた。


「赤い稲妻さん!」


 鎧子さんも彼のところに駆け寄った。泣きじゃくっている。


「赤い稲妻さん。助けてくださってありがとうざいます。私、怖い顔なんて言ったのに。うううぅぅ。助けてくださるなんて」


「いいんだ。いいんだよ。鎧子さん。あんたが無事ならそれでいいんだ」


「赤い稲妻さん、死なないで。私の傍にいて」


 鎧子さんは彼を抱きしめて泣く。


 なんて可憐な涙だろう。


 その時、奇跡が起こった。赤い稲妻の体がどんどん修復されていく。


「赤い稲妻さん。その怖い顔が好きです」


「鎧子さん。あなたのことが好きです」


 人化した鎧子さんは完璧な形に戻った赤い稲妻を抱えて頬ずりをする。

 大仏はボリボリ尻を書いた。


「ホトケレッドくん。奇跡の代金。三千万円」


「え?」


「奇跡の代金三千万円」


「は」


 俺は硬直した。


「もしかして」


「僕の力だよ。えへへ。友達助けたいよね。ホトケレンジャーになりたいよね」


 なんだと!

 俺は力なく肩を落とした。いろいろ考えたが感謝しか浮かばなかった。

 しょうがないな。


「友情のためだ。仕方あるまい」


 俺はさばさばとした気持で大仏ウオッチを受け取った。妙に悟った気持ちでそれを腕にはめる。


「なるからには最高のホトケレンジャーになってやる」


 その足元で、傷だらけのホトケブルーが呻いた。


「誰か~。誰か俺を助けて!! 苦しい、苦しいよ~」


 こうして俺は正式にホトケレッドに任命されたのだった。

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