かっこいい鎧
俺は目覚めた。ベッドの下にひび割れた鎧があった。カッコいい。なんだ、これは。
「おはようございます。勇者アルスレートです」
「あ、恐縮です。赤い稲妻です『なんだ、お前。話しかけてんじゃねえぞ』」
赤い鎧は緊張した声を漏らした。可哀想に。きっと昨日の泥棒の落とし物だろう。
ひねくれているな。
「鎧さん、あなた傷ついていますね。治して差し上げましょう」
「いえいえ。『そんなこと言ってとどめさすつもりだろう!!』」
「さあ、こっちへ。俺、工作は得意なんですよ。勇者だから」
「そうなんですか?『勇者関係ねえだろうが! アリバイ工作かよ』」
「勇者工作です」
「それは……『その』」
「町の人が救えます。勇者は手先が器用でないと。土砂崩れだってなおせますよ」
「半端ない。『勇者、死に腐れ!』」
俺たちは沈黙する。
「世界には悲しいことがいっぱいあります。赤い稲妻さん」
「ああ、そうだねえ。『こんなことになったことが悲しいよ』」
「赤い稲妻さん。一緒に世界を救いませんか?」
「え」
「勇者となって世界を救いませんか?」
「『なんでじゃぼけえ』」
叫ぶ鎧。さすが泥棒の落とし物だけある。
「救われてみませんか?」
「嫌だ、嫌だ。『勇者に救われるなんて嫌だ』」
「俺を勇者と認めてくれるんですか? 鎧さん」
「認めたくはないけどあんた勇者だよ。なんか強いしさ。それにカッコいいしさ」
頬を染める鎧。
「こんなところで傷ついていてはいけません。鎧さん」
「いや。確かに傷ついていたけど。こんなところで置き去りにされてポリシーも心も体も傷ついたけど」
「いいものがあるんです」
「なんだそれは」
「勇者のエロ本です」
「勇者のエロ本」
鎧はよろめいた。
「勇者のエロ本。そんなものを見て私が楽しいはずが」
そこにはエルフの少女の鎧姿が載っている。なんて美しいエロ本なんだ。きっとこのかっこいい鎧さんだって気に入るはずだ。
ちなみにこのエルフさんは勇者物語の看板美少女だ。
「この鎧子さんは美人ですよ」
「よ、鎧子さん?」
「そう、鎧子さんです」
「私は鎧だが鬼神だ。鎧なんて、鎧なんて、別に好きじゃあねえよ」
「しかしこの鎧子さんは通気性に優れ、徹底的に軽量化され、美しいビーナスラインを手に入れているのです」
「ビーナスライン?」
「見ますか。ここからここの曲線がエロいんです」
鎧さんは戸惑った。
「なんと。そんなシャープで素晴らしい鎧がこの世に。見れば見るほど美しい。私に釣り合わない」
鎧は涙した。
「私は今までこの厳つい顔のせいで彼女が出来たことがない」
「この鎧子さんはどうでしょう。なんなら連れてきてあげてもいい」
「そんな、そんな。迷っちまうよ。勇者と一緒の方が人生の待遇が良いなんてよ」
カッコいい鎧のすべてが真っ赤に染まった。俺も仲人は初めてだが、こんなに喜ばれるとは嬉しい限りだ。なんて幸福なんだ。この年で仲人になるとは思わなかった。
これからも続けて行こう、ナコーダー。
この可愛い鎧を、このカッコいい鎧のために連れてこよう。そうすればこの鎧さんも元気になるはずだ。俺の人助け、鎧補完計画も大詰めを迎えてしまったということか。
「鎧助け。最高だ」
「でもよ、でもよ。鎧子さんが俺を気に入らなかったらどうする?」
「きっと気に入るはずだ。問題はどこに出かけるかだが。そうだ、秋葉に行こう」
「秋葉に? しかし、あそこに行くには勇者の証がいるんじゃあ」
「俺はまだ勇者の証を手に入れてはいないが、あそこには顔が利く」
「さすが勇者だ。あんた勇者の中の勇者だよ。私に彼女を作ってくれるなんて」
「好みの性格は?」
「内気で、シャイな感じかな」
「よし行こう」
俺は制服を着てマウンテンバイクにまたがった。
「勇者、なぜ正装していかない」
「大仏たちがまだ辺りをうろついているかもしれない。うかつな行動はとれない」
「大仏たち。それはなんなんだ」
「燃物戦隊ホトケレンジャーを発足しようとしている集団だ」
「燃物」
「そう燃物。馬の耳をつけるかどうかでもめていたけどな」
「それ効果あるのかよ」
「大仏がとある女神に惚れて発足したらしい」
「そんなことで私たちは戦ったというのか」
「え?」
俺は考える。
「鎧さん。戦いましたっけ?」
「ないない。戦ってないよ。『寝首かいてやるとか言ってないよ』」
「鎧さん。俺が必ず鎧さんに素敵な彼女を作って見せます。だから、赤い稲妻さん。俺についてきてください」
「これが勇者の包容力? 『だ、騙されねえぞ』」
「鎧さん。鎧ショップにつきました」
鬼どもが荒れ狂っている。
「勇者に鎧を渡すな」
そこでは、恐ろしいゴブリンどもが暴れ狂っていたのだった。