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神野陽生の家

「ここか。ホトケレッドの秘密基地は」


 鬼神、赤の稲妻は深呼吸した。


「ここが秘密基地。この雑多としていて一見普通の家が秘密基地。恐ろしい」


 簡素な住宅街に並ぶ赤い屋根の家。

 赤の稲妻は息を切らした。


「ここにレッドがいる。ホブゴブリンのグレイシャを倒したホトケレッドが。強化したホブゴブリンを倒すなんて。しかもフィニッシュの言葉がチキンだっだそうではないか。倒した敵にチキンという言葉を贈る仏レッド。なんて極悪非道。まさに勇者!」


 部下のゴブリンたちは心底震える。鬼族の中でもゴブリン族は弱い。その中で体を鍛え上げた赤の稲妻は赤い髪の毛をなびかせた。強い敵を倒す覚悟で暗闇に目を凝らす。暗闇に金の大仏と、紫色の法衣の坊主が現れた。


「なぜ追い出されたのでしょう。大仏様」


「虫の居所が悪かったんじゃない?」


「しかし、どうして虫の居所が悪かったのでしょうか。ブルーや、イエローや、グリーンや、ピンクも引いていましたよね。彼らに何があったのでしょう」


「彼らも元勇者だからね。怖かったり、大変だったりしたんじゃないの?」


 耳を掘る、金ぴかの大仏。なんだ。あれは。


「舞踏の人か?」


 赤い稲妻は喉を鳴らす。


「なんですかそれは」


 ゴブリンは上目遣いに上司を見た。


「昔は金粉を体中に塗ってダンスをする人たちがこの界隈にいたんだよ」


「へえ、そんな人たちが」


 ゴブリンたち弱い鬼族の者たちは感心する。


「なぜ赤い稲妻様はそんな情報を知っておいでで?」


「なぜなら、私は」


 赤い稲妻の顔は普通の会社員の顔をしていた。髪の毛は真っ赤。その胴には鎧。

 鬼の吠え顔の鎧。


「私はこの会社員の男の情報を読んだんだよ」


「なんと!」


「そう。体を鍛え上げた私は人の心の情報を読むことが出来る。そう、体を鍛えすぎて私はついに鎧になってしまった」


「素晴らしい!」


「ブラボー!」


 部下たちの称賛の声が響く。赤い稲妻は鎧の胸をなでおろした。部下たちは肝心なことにまだ気づかないようだ。赤い稲妻の弱点に気づかない。それがありがたい。


「この会社員、勇者の隣の家の気の良いおじさんを盾に勇者アルスレートを痛めつける」


「おおおおぉぉぉぉぉぉぉ」


 士気は高まった。勇者アルスレート。果たして我らに勝てるかな。


「この最強の我らに」


 赤い稲妻は勇者アルスレートの家に入り込もうとして絶句した。

 最初に突入したゴブリンたちが騒いでいる。


「大変です。赤い稲妻様。この家は勇者の家だと表札に書いてあります!!」


「よほど自信があるのか。勇者アルスレート!」


 ゴブリンたちは勇者アルスレートの家に突撃する。


「勇者アルスレート!!」


 一匹のゴブリンがネズミ返しに引っかかった。小指が挟まっている。


「!!!!!」


 悶絶している。痛そうだ。


「罠だというのかホトケレッド! 卑劣な」


 次のゴブリンはねばねばに引っかかった。


「これはGゴキブリカムカムだと!!」


 今度は別のゴブリンがスイッチのあるラケットを見つけた。


「このラケットはなんでしょう」


 スイッチを入れると体中を電気が駆け抜けた。


 一匹のゴブリンが黒こげになって倒れる。


「なんということだ。これは我らを倒すための罠か」


 赤い稲妻はぶるぶる震えた。


「こんな卑劣な罠がかつてあっただろうか?」


「ないない」


 ゴブリンたちは震えあがる。そこに勇者アルスレートの妹、パジャマの莉瀬がやってきた。

 張り切るゴブリンたち。


「赤い稲妻。あれなら勝てます」


「行け。ゴブリンたちよ!」


 ねぼけた莉瀬は構えた。


「お兄ちゃん。アルスレートスラッシュ、破れたり!」


 少女はゴブリンたちをちぎっては投げちぎっては投げた。


「なぜ。この少女の戦闘能力はホトケレッドを超える!!」


「なんと恐ろしい」


 赤い稲妻は後退した。


「ここは魔窟か!!」


「飽きちゃった。眠いから、寝ようっと」


 妹はスキップをしながら去っていく。


「なんてことだ」


 そこに今度は母親が現れた。


 ゴルフのドライバーを握っている。


「私は勇者の母上よ。泥棒退散、泥棒退散!! 夫の留守は私が守るアターック!!」


 ゴブリンたちは殴られて泣きながら逃げ出した。


 ただ一人、赤い稲妻を残して。

 赤い稲妻はこの騒ぎの中でも冷静だった。


「ひょっとして、この騒ぎに乗じれば勇者の寝首をかけるんじゃないか? 起きてこないみたいだし」


 思い切って奥に進む。そこには勇者アルスレートが竹光を持って立っていた。


 竹光とは樫の木でつくられ銀紙が張られた木刀の様なものである。その眼は固く閉じられている。


「ははは。莉瀬!! いくらお前がアルスレートスラッシュ返しを編みだそうとも俺のアルスレートスラッシュは世界一! 食らえ」


 突進する神野陽生。


「幼い妹にそんな技をかけるなー! お前を始末させてもらう。この鎧から放つ生命エネルギーファイで!!」


 赤い稲妻の叫びは最後まで勇者アルスレートには届かなかった。

 鎧の肩ベルトがアルスレートスラッシュで断ち切られる。


「あれ?」


 ドスン。


「あれ? 動けない」


 神野邸のアルスレートの部屋で動けなくなる鎧、赤い稲妻。自由になった会社員のおじさんは歓喜の涙を流した。


「ありがとう。陽生君。僕を助けてくれて」


 そこでようやく神野陽生、アルスレートは目を覚ました。


「なんでしょう。吉雄さん。どうしたんですか。うちまで来て」


「君こそ、目のクマが凄いよ」


「いや。大仏が来て、夜中眠れなくって、今寝ていたんです。何かあったのですか? 大丈夫ですか?」


「それが今世間を騒がせている謎の敵に操られて、君のツイートにぶつぶつ呟いちゃった。あはっ」


 神野陽生の目が光る。


「おのれ、吉雄さん! 俺の魂を聞け。敵の心を惑わされるな。心を入れ替えろ。アルスレートスラッシュ!!」


「待って、待って! 神野君! 待って、待ってよ。もう入れ替わったんだよ。もう助かったんだよぉ」


「やめろ、やめろ、来るな~~~!」


 逃げ惑う会社員のおじさんの足元で鬼鎧、赤い稲妻は砕けたのだった。

 その様子を見ていた仏パープルは納得する。


「いい人材ですね」


 大仏の手に指をからませて強く握りしめる。


「なぜだい。パープル君」


「あの人はいい人材です」


 今度は大仏に吐息を吹きかける。


「絡ませないで。絡ませないで。吹きかけないで、吹きかけないで。なんでそんなことするの」


「今回で五人目です。癖になってしまいました」


「君、三か月前にもそう言っていたじゃないの」


「直りますかね」


「なおしてよ。そして必ずやレッドをホトケレンジャーに」


「はい。仰せのままに」


「こうして一つの危機は去った。頑張れ、神野陽生。頑張れ、ホトケレンジャーになるかもしれない男」


 大仏はお尻を掻きながら去っていく。


 遠くで神野陽生がくしゃみする声が聞こえた。

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