Chapter 3
※確認※
この章は、Chapter 2において 【A】契約する を選択した場合の分岐です。
しばらく考えてから、私は答えを出した。
「危険かもしれない……それでも、私はあなたと契約する」
そう告げると、影は申し訳なさそうに、でも少しだけ嬉しそうに頭を下げた。
『ありがとう……そういえば、まだ名前を聞いてなかったね』
「そういえばそうね……私、遠坂ひまり」
『ひまり……素敵な名前だね』
「あなたは、名前あるの?」
問いかけると、影ははっとしてこくこくと何度も頷いた。
『そうだった、契約にも必要だし、俺から先に名乗るべきだったね』
ごめんねと謝罪しながら、影は手を伸ばして私の右手を取る。丸みを帯びた指のない影の手は心地よい冷たさで、それでいてほんのりと温もりを持っていた。導かれた私の手は、そのまままっすぐと彼の額へと持っていかれる。
『この状態で、俺の名前を呼んで。俺の名前は……クローチェ』
「く、クローチェ……?」
すると、影は一度分散して私の元を離れていき、目の前に集合して一人の人物を作り上げた。
癖のついた黒髪に穏やかな夕焼け色の瞳、左の頬に独特の花型の黒い刺青を入れており、ラフなスーツを着ている。一見普通の人間に見える彼は一通り自分の姿を確認してから、私の視線に気づいてにっこりと微笑んだ。その美しさに、私はただただ見惚れていた。
「久々に具現化できて嬉しい。本当にありがとう」
「…………」
「そしてごめんね。巻き込んでしまって……」
「…………」
「……ひまり? どうしたの?」
「あ! ううん、何にも!」
取り繕うように手をバタバタと振って、熱くなった頬を両手で押さえつけた。そのとき、視界の右端に何かを捕らえてそっと右手だけを下ろす。そこにあったのは――
「何、これ……」
青く発光する、丸い結晶。それが、一つを中心に六つ花のように散りばめられていて、さらに中心の結晶とつながるよう黒い線が個々から伸びている。色を抜きにして見てみると、クローチェの刺青と同じ形をしていた。
「それが、俺と契約した代償。その七つの光が全部消えてしまうと……きみは死んでしまう」
「……え?」
「攻撃はもちろん、触れられただけでも光は消えてしまう。俺が、そんな体にしてしまったんだよ」
「そっか……だから、反対したんだね」
私の問いに、クローチェは無表情で静かに頷く。そのままその場にひざまずいて、私の顔色を伺うように見上げてくる。
「その代わりといってはなんだけど、俺が、きみを全力で守るから。いざとなったら、俺の魔力で光を取り戻すこともできるし……」
真剣な彼の眼差しには、私に対する感謝と後悔が入り混じったような色があった。私は彼と目を合わせ、もうこれ以上何も言わなくていいと首を横に振った。
「これは私が決めたことだから、クローチェはもう謝らなくていいんだよ」
「でも……」
「それより、美月を探さないと。考えたくはないけど、もしかしたら襲われてるかもしれないんでしょ?」
クローチェは何か言いたそうにしていたが、それを遮って立ち上がり制服のスカートをぽんぽんとはたく。足元をよく見ると、ところどころに血がはねてできた跡がついている。
「クリーニングとかしたら、落ちるよね……」
「それは……どうだろう……」
立ち上がったクローチェも苦い顔をして私の足元を見つめ、それからお互い顔を見合わせて力なく笑った。
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