Ⅲ
「あなたがクー・・・?」
女の子達の視線が痛い。・・・これだからルカはー!
「あんたね、何でこんなとこにいんのよ。こっちに迷惑かけるような真似しないでよね」
「せっかく会いに来たのにそんな言い方しなくても・・・」
へらへら笑っているルカに抗議すると、周りの女の子達からの視線がもっと強くなる。
「そうよね、ちょっと言い方きついんじゃない?」
「こわぁーい」
・・・いや、あなた方が私に向けている敵意よりはきつくないと思いますよー…ってこら、ルカ困るな!自分一人で困ったことになるのは自業自得だけど、私を巻き込んだんだからどうにかしろー!
「ねえ、こんな怖い子より、私と遊ぶほうが楽しいよおー」
「そうそう。ねえこの車、乗せてよー?」
ルカと目が合う。助けてとか言われても困るんだからね――――――
”調子合わせて”
声を出さずに言われた言葉は、正しく読み取れていればそう言った、んだと思う。意外なことに、ルカの眼にはまだ余裕があった。
戸惑う間もなく、腕を引かれて抱き寄せられる。
「ごめんなさい、皆さんと遊びたいのは山々なんですが、ついさっきこの子の今まで意識不明だったお母さんが目をさましたので、連れて来いとこの子のお父さんから頼まれまして。急いで中央病院に行かなくちゃならないんです・・・そんな訳ですみません、遊ぶのはまたの機会ということで」
目を覚ましたので、のあたりで視線に同情の色が加わり、またの機会のところでもっと優しく、段々とあきらめるムードになってくる。
「そっか、それならしょうがないかなー…」
「何も知らないのに、ごめんね…?」
なんだか分からないけど何とか切り抜けたみたいだ。
いえいえ、と笑いながら助手席に乗り込む私。てきぱきと発車準備をするルカ。
「今度会ったときは、また優しくしてくださいねー!」
ルカが手を振ると、振りかえしてくるたくさんの女の子達。
「リエルー、なんか分かんないけど頑張ってねー!」
び…ビスティのばか!
ххх
「…あんたってやつはぁー!」
「何そんな怒ってんだよ」
怒るぅ~?そうね、怒ってるわ・・・
「よくそんな口からでまかせしゃべれるわね・・・誰のお母さんが目を覚ましたっていうのよ、誰が父さんに頼まれたって?」
そもそも、私のお母さんは私が生まれたときに天国へ逝ってしまっているし、父さんだって俺はひとところには落ち着いていられない―とか言って世界を放浪中で基本音信不通だし(私の夏休みにあわせて帰ってくるとは言っていたけど)、ていうかなんであんな嘘でみんな納得するわけ?あとあんな内容だったら肩を抱く必要なんて全くないし、調子合わせろったって私が合わせるとこなんてひとつもないし!・・・ビスティってば、絶対なんか勘違いしたし・・・
「…エミュさんの話題出したの、悪かったか?」
エミュは私のお母さんの名前。
「そんなこと、いまさら気にしてないわよ。バカ」
「俺のおかげであの場を助かったんだぞー?バカとはなんだ、バカとは」
「あんたがあんな目立つトコにいなかったら、お姉さま方に睨まれたりしなくて済んだわよ!そうだ、大体あんたなんでこんなとこまで出てきたの?」
「久しぶりにクーに会いたくなったんだよ」
無意識に拳をかためていたのでそのまま目の前の物体へ突き出す。
「殴るわよ」
「!?もう殴ってんじゃん!?」
こっちはあてる気満々だったのに、運転しながらかわすとは器用なやつ。
「・・・相変わらず怖いなー、クーは。二年前と全然変わらない」
怖いと言いながら、声には笑いが含む。
「あんたもね。まだ私と背同じくらいなんじゃない」
「これから伸びるんだよ。クーなんかすぐに追い越すさ」
「・・・そろそろクーって呼ぶのやめてよね」
「クーベルオヌスマリエル・スミス。頭をとって、クー。だろ」
「友達はみんなリエルって呼ぶの。幼く聞こえるの」
へらへらして・・・こいつ、絶対直す気ない。
「・・・ね、もう大分離れたでしょ。そろそろ止めていいわよ」
「なんで?」
きょとんとした顔を装うルカ。遊ぶのもいい加減にしてほしい。
「私はねー、お金持ちのぼんぼんと違って忙しいの。帰る」
「何言ってるんだクー、学校は明日から夏休みだぞ」
やっぱりクーって呼ぶし。
「あーあんたの学校もそうなんだ・・・ってだから、里帰りするの。父さんも帰ってくるし、顔見せに行かなきゃ」
「いやぁ、まだ夏休みは長いしすぐ帰らなくてもいいと思うなー?」
「・・・なにそれ、どういう意味?」
この勝ち誇った笑み。まだ余裕が消えない。
「あんた、なんか知ってるでしょ」
ルカは笑顔のまま車を止めた。
・・・本当に変な眼してる。
濁った灰色の瞳は、夢中になるときんいろの光が散って生き生きと輝きだす。
そんなこと今まで考えもしなかったのに、ルカの髪は雲みたいだと思った。雨が降り出す前の雲のような、嵐の予感――――――――
空はこんなに晴れているのに。
「だからクー、夏休みだな」
風が吹く。夏の空気をかき回す、熱くてすべてをさらっていく。
「一か月もあるんだ、いつもは行けない所まで行って、わくわくするようなことしたいと思わないか?魔法だとかが無くたって、不思議はたくさんあるんだって、特別なものを見つけたいって」
大きく息を吸った。胸が奥から熱くなって、なぜだか泣きそうになった。
「・・・たとえば?」
「たとえば・・・そうだな」
だって夏だから。
つい聞いてしまったのは、そんな特別なものはそう見つかるものじゃないと分かっていたのに――――
こいつとなら、ルカとなら見つけられそうな気がしてしまったんだ。
「俺と一緒に、世界の果てを見に行こう」
…この台詞までが長かった…
挿絵、入れてみました。どうでしょうか
挿絵、きれいにして入れなおしました。感想もらえるとうれしいです。