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プロローグ
ここにはもう、精霊も幽鬼も物語の中にしか存在しない。
はるか昔に魔法という技術は失われてしまっている。もっとも今の時代、空を飛ぶには箒ではなくエンジンで動く飛行機を使うだろうし(そんな奇特な人間はそう多くなかったが)、病気を治すのには呪術師を探すよりも医者に診てもらうほうが早いだろう(魔法よりまだ万能ではないかもしれないが)。
けれど、世界は人が全てを把握するにはまだ遠い程には広く、未だ様々な謎を包み続け、あらゆる不思議を受け入れられるような余裕があった。
そんな空気のある、ゆるやかに時の過ぎる世界・・・
鳥のつがいが向き合っているようにも見える(世界が丸いのであれば、尻をつきあわせていると云うことも可能だろう)二つの大陸。東と西とで反目しあい、二度の大戦をくりかえした末、現在では冷戦状態。
―物語は、その西大陸一の規模を誇るミルトハーヴァヴ共和国、首都ミルティスから始まる。