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僕を殺した人に、僕は転生した

作者: 暁月るくす
掲載日:2026/03/15

この物語を書こうと思ったきっかけは、「人は本当に変われるのだろうか」という疑問でした。

ニュースを見ると、事件や犯罪の話をよく目にします。

そのたびに、「どうしてこんなことが起きたのだろう」と考えることがあります。

もしかすると、どこかで人生が少し違っていたら。

もし誰かが手を差し伸べていたら。

その人の人生は違うものになっていたのかもしれない——そんなことを想像しました。

この作品は、誰かの人生をやり直す物語ではありません。

けれど、もし一度だけ誰かの人生を救える機会があるとしたら、人はどんな選択をするのだろうか。

そんなことを考えながら書きました。

この物語を読んだあと、ほんの少しでも「人を理解すること」について考えてもらえたなら、作者としてとても嬉しく思います。


人は、自分を殺した相手の顔を覚えていられるのだろうか。


たぶん、無理だ。


恐怖は細部を消す。

音も、光も、言葉も。


ただ最後の瞬間だけが残る。


—ああ、死ぬんだ。


それだけだ。


あの日は雨だった。


街灯の光が濡れた道路に反射して、妙に明るく見えたのを覚えている。


僕は帰り道だった。

いつものように歩いて、いつものように家に帰るはずだった。


背後で足音が止まった。


振り返った瞬間、刃物が見えた。


冷たい光。


次の瞬間には、腹の奥に何かが入り込んでいた。


痛みは、遅れてきた。


力が抜けて、膝から崩れ落ちる。


濡れたアスファルトの匂いがした。


視界の端で、男が立っていた。


顔ははっきり見えない。

街灯の光のせいで、輪郭しかわからなかった。


でも声は聞こえた。


「……ごめん」


小さな声だった。


その言葉だけがやけに静かで、やけに鮮明だった。


そして世界は暗くなった。


それが、僕の人生の終わりだった。


——はずだった。


目を開けると、知らない天井があった。


白い天井。


細いひびが一本走っている。


体が重い。


ゆっくりと起き上がると、狭い部屋だった。


古いアパートの一室。

散らかった机。

カーテンの隙間から入る朝の光。


ここはどこだ。


立ち上がると、壁に小さな鏡があった。


何気なく近づいて、そして——息が止まった。


鏡の中にいたのは、僕じゃなかった。


知らない男だった。


三十歳くらい。

無精ひげ。

疲れた目。


その顔を見た瞬間、背中に冷たいものが走った。


僕はこの顔を知っている。


いや、正確には——


覚えている。


雨の夜。


街灯。


刃物。


そして、この顔。


「……嘘だろ」


喉の奥から声が出た。


「なんで……」


鏡の男も同じように口を動かす。


胸が激しく鳴った。


ニュースの映像が頭をよぎる。


何度も見た顔。


連続殺人犯。


三人を殺した男。


神崎隆二。


そして——


僕を殺した男。


「なんで僕が……」


言葉が震える。


「こいつになってるんだ」


そのとき机の上のスマートフォンが震えた。


画面にニュース速報が表示される。


『連続殺人犯・神崎隆二 現在も逃走中』


手が震えた。


鏡の中の男。


ニュースの名前。


そして自分の手。


全部同じだった。


僕は今、


自分を殺した男の体で生きている。


そのとき、頭の奥で何かが弾けた。


知らない景色が流れ込んでくる。


子供部屋。

学校の帰り道。

泣いている母親。


殴られる音。


「……やめろ」


頭を押さえた。


でも止まらない。


これは僕の記憶じゃない。


この体の男の記憶だ。


神崎隆二。


三十二歳。


職業なし。


そして殺人犯。


でも記憶の中の神崎は、ニュースで見た怪物とは違った。


普通の子供だった。


友達と笑っていた。


夢もあった。


それなのに、人生は少しずつ壊れていく。


父親の暴力。


母親の失踪。


借金。


裏切り。


最後に、ある男に人生を壊された。


そこで記憶は途切れた。


僕は床に座り込んだ。


「……なんだよ」


声が震える。


「ただの殺人鬼じゃないじゃないか」


そのときスマートフォンがまた震えた。


メッセージだった。


送り主は不明。


短い文章。


「次は明日の夜だ」


意味はすぐにわかった。


次の殺人。


僕は画面を見つめた。


このままだと、また誰かが死ぬ。


でもそのとき、もう一つの考えが頭をよぎった。


もし僕がこの体にいるなら。


もしこの男の未来を変えられるなら。


「……止められるかもしれない」


僕はゆっくり立ち上がった。


鏡の中の男を見つめる。


自分を殺した男。


でも記憶の中の彼は、ただ壊れてしまった人だった。


僕は小さく息を吐いた。


「わからないけどさ」


鏡に向かって言う。


「もう誰も殺させない」


その瞬間、頭の奥で何かがつながった。


見えた。


未来の記憶。


自分がこの男を救おうとして、時間を歪めてしまった未来。


そして理解する。


自分を殺したのは、この男じゃない。


未来の自分だった。


僕は笑った。


不思議と怖くなかった。


すべてつながった気がした。


この人生はきっと、そのためにある。


壊れた人生を一つ救うために。


僕は警察に自首した。


数日後、拘束される。


取り調べ室で、刑事が聞いた。


「なぜ自首した」


僕は少し考えて答えた。


「守りたかった人がいるからです」


神崎隆二という男を。


処刑の日。


面会室に神崎が来た。


震えた声で言った。


「どうして俺を助けた」


僕は少し考えてから笑った。


「わからない」


正直に言う。


「でもさ」


静かに続けた。


「君は最初から、悪い人じゃなかったんだと思う」


神崎の目から涙が落ちた。


僕は立ち上がる。


最後に言う。


「だから」


「次はちゃんと生きろ」


扉が閉まる。


それが最後だった。


その日、世界で初めて


救われた殺人犯が生まれた。


ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


この物語は、「人はどこまで他人の人生を理解できるのか」という問いから生まれました。ニュースの中では、犯罪者はただの「悪い人」として語られることが多いですが、その人にも必ず過去や人生があります。もちろん、どんな理由があっても許されないことはあります。それでも、その人がどんな道を歩いてきたのかを想像することは無意味ではないと思いました。


この作品の主人公は、自分を殺した人の人生を知り、その人を救う選択をします。普通なら考えられない選択かもしれません。それでも、もし誰かの人生をほんの少しだけ変えられる瞬間があるのなら、人はどんな決断をするのだろうと考えながら書きました。


この物語が、読んでくださった方にとって「人の人生」や「選択」について少しでも考えるきっかけになったなら、とても嬉しく思います。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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