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8 熱々のコーヒーを1杯

 俺は日向さんと待ち合わせたカフェの入口前で立っていた。


 日向さんはまだ来ていない。


 俺は小指のスマートリングを触って、目の前に仮想画面を映した。


 地図のようなものが表示される。

 日向さんの現在地アイコンは、ここまであと200mの距離を示している。


「てかさ」

 俺は誰もいない空間で呟いた。


「魔術使えるなら、瞬間移動もできるじゃんね?」


 しばらくの静寂の後、ノクスが答えた。

『できるけど、魔力の消費が激しい。コスパが悪い』


「……ふうん。魔力を消費すると、やっぱ疲れるの? MPが減るみたいな感じ?」

 俺は興味本位で尋ねた。


『うん。魔力は使用者の生命力から消費させるから。だから……優秀なやつは、コスパ良く魔力を使える』


「コスパねえ」


 良い響き。

 やっぱり、闇雲に頑張るのは間違っている。


 白金さんみたいに、無駄なこと……。


 なぜかチリチリと胸が痛くなった。


『それに、魔力を使い過ぎると――』


「遅くなってごめん!!」


 日向さんの声が響く。


 俺が声の方を振り向くと、日向さんが小走りでこっちに向かっていた。


 日向さんは、私服だった。


 透け感のあるアイボリーのブラウス。

 ライトブルーのデニムが、彼女の足の長さを引き立てる。

 耳の上には、小さな花のヘアピンが付いていた。


 ……学校での姿と、あまりにも違くない?


 俺はしばらく棒立ちしていた。


「……御影くん?」


 日向さんに声を掛けられ、俺はびくりと姿勢を正す。


「もしかして、見とれてた?」

 日向さんは冗談っぽく笑った。


「うん。日向さんの私服、似合ってる」

 俺はぼそりと答えた。


「ええええ」

 日向さんは裏声で叫び、顔を真っ赤にして俯いた。


「……御影くんの私服も、いつか見たいな」

 日向さんは目を合わせずにカフェの入口に向かって歩いて行った。


 俺の私服、ないけど。裸族。


 俺は無言のまま、日向さんの後ろについてカフェに入った。



 俺たちは店員に案内され、窓際の席に座った。


 俺はメニューを一瞥して、向かいの日向さんに言った。


「俺、アイスコーヒー。日向さんは決めた?」


「御影くん、チョイスが渋い……」

「渋い? 普通じゃん」


 しばらくして、日向さんは店員を呼び、オーダーを出した。

「アイスコーヒーと、バニラソルトキャラメルマキアートのソイラテミックスのチョコレートソーストッピングと、いちごパフェお願いします!」


「かしこまりました!」

 店員は笑顔で答えた。

 俺の顔は引きつった。


「ここ、よく来るの?」

「友達とは、たまに」


「……だからあの呪文みてえなメニューの名前がスルッと出てくるのか」

「呪文て」


 日向さんは困ったように笑った。


 俺は日向さんを見て、真顔で切り出した。


「あのさ。昼休みに言ってた……。その、白金さんとのことなんだけど」


 日向さんは背筋を正した。


 俺はすっと息を吸った。

「白金さんにも聞いたけど、俺たち付き合ってないわ」


 日向さんは表情を失ったまま、口を半開きにした。


「それで、一緒に帰ってるように見えたのは……。俺が、白金さんにしつこくしてたからで」


 日向さんの目が細くなっていく。

 冷めたような虚無顔が、俺の心臓にバチバチに突き刺さった。


「……だから、今後は、誤解されないように、行動には気を付けます」


 俺は何もやってないけどな。


 御影大輔ェ!覚えてろよ!

 ……もう死んでるんだっけ。


 日向さんは、あまり納得してはいなさそうだったが、虚無顔を少し緩めてくれた。


 日向さんは頬杖をついて、少し頬を膨らませて尋ねてきた。


「御影くん、なんで白金さんにしつこくしてたの?」


「んあ?」


 俺も知りたいわ。


 俺が答えを濁していると、テーブルに大きな影が落ちた。


「お待たせしました」

 暗くて低い男の声。


 直後に、ドン、という鈍い音。


 俺の目の前に、アイスコーヒーのグラスが置かれた。


 思わず顔を上げる。


 見覚えのある少年が、エプロンを着て仏頂面で立っていた。

 見覚えはあるんだけど。

「……ごめん、誰だっけ?」


「御影大輔ェェ! 学年1位に舞い戻った瞬間に、この赤羽順(あかばねじゅん)を忘れるなんて、ついに頭おかしくなったかァ?」

 “赤羽”と名乗ったそいつは怒鳴った。


 そして赤羽はシャツの腕をまくり、指先を俺の眉間に差し出す。


「――焼き尽くせ」


「赤羽くん」


 日向さんの落ち着いた声が響き、赤羽の手が下がる。


「一方的な魔術攻撃は、立派な魔術犯罪になるよ? 公安を目指す人間として、その行動はどうかと思うけど」


 赤羽は目を開いて日向さんを見た。


「わぉ、びっくりした。誰かと思ったら、日向じゃん。……へえ。御影大輔も、低レベルな人間と付き合うようになったんだな」


 日向さんは俯いて拳を握りしめる。


 俺の頭も熱くなった。

「……日向さんのこと、そんな風に言うな」


 赤羽は喉を鳴らして笑った。

「お前、日向の味方はするんだぁ。白金さんのことはボコボコに傷つけたくせに」


 俺の息が、一瞬止まった。


 次の瞬間。


「熱っ」

 左頬がひりつく。


 次に顔を上げると、赤羽は5メートル先に離れて立っていた。


「御影大輔ェ! 俺は、お前が首席になることだけは、食い止めないといけねえ!」


 赤羽が喉を枯らして叫ぶ。


「だからここで、お前を、再起不能にしてやる!」

 赤羽が腕を上げた瞬間、火の玉がこちらに向かってきた。


 俺はその光を避け、それと同時に思い出した。


 こいつ、あの時の。

 俺が、この世界に来た時に、戦っていたやつだ。


 もし、そうだったら。

 ――こいつは、元の“御影大輔”を殺したんじゃないのか?


「お前、この前俺と戦った時……。何をしようとしてた?」

 俺の声は、自分でも驚くほど低く、無機質に落ちた。


「あん? お前を潰す一心だったけど」

 赤羽の声は、軽いのに殺意に満ちていた。


「お前のやろうとしていることは、どれほど重い罪なのか、分かって言ってるのか?」


 俺は椅子から立ち上がった瞬間、赤羽はにやりと笑った。


「御影大輔。今日こそ、お前を、潰す!」

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