表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/18

7 何かが始まる、予感……

 昼休み。


 教室には、祭りが終わった直後のような熱が残っていた。


「ほら、ひまり。行ってきなって!」

 数人の女子に囲まれていた日向さんが、背中を押されて俺のところにやって来る。


「あの、御影くん……」


 俺は席に座ったまま、日向さんの顔を見た。


 日向さんは、俯きながらしばらく口ごもっていた。


「日向さん、さっきの戦闘はありがとう」

 俺が礼を言った瞬間、日向さんはばっと顔を上げる。


「そそそそんな、私の方が、ありがとう、なんだけど」

「なんで? 日向さんがなんか沢山パワーくれたから俺は」


「恥ずかしいから、あんまり、褒めないで……」

 日向さんは顔を真っ赤にしながら、俺の顔の前に手のひらを突き出した。


 俺はその様子を見て、一瞬にやりと笑ってしまった。


 日向さんは、咳払いをして、改まったように続けた。

「……それで。お礼。何がいい?」


「お礼?」

 俺が首を傾げると、日向さんは愕然としたように、目と口を大きく開いた。


「勝ったらお礼するって言ったじゃん!!」


 あ、言ってたかも。

 お礼、かあ。


 俺は視線を上に向けてしばらく考え込む。


 日向さんの呼吸が、ちょっと荒くなっているのが聞こえた。


 そして俺の頭の中に、何かが下りた。


 あ、そうだ。

 せっかくの機会だし、じっくり聞いてみたいかも。


 この学校のこと。

 この世界のこと。


 ――御影大輔のこと。


「じゃあさ。今日の放課後、カフェに行って、おしゃべりしよう。コーヒーでも驕ってよ」


「ええ!!???!?」

 日向さんは裏声で叫び、俺も驚いて肩がびくりと震えた。


「なんでそんなに驚いてんの?」


「だだ、だって、それ、デデデデ、デートみたいじゃん!」

 日向さんはトーン高めの小声で返した。


「? ダメ?」

 俺が尋ねると、日向さんは真っ赤な顔のまま何度かまばたきをした。


「逆に、御影くんは大丈夫なの? 私と二人でカフェって……」


「なんで? 問題ないっしょ」


 俺が答えると、日向さんはなぜか教室をきょろきょろと見回した。

 そして、俺に顔を近づける。


 日向さんは、小声で囁くように尋ねた。


「御影くん、白金さんと付き合ってるんじゃないの? いつも、一緒に帰ってるみたいだし……」


 ――え? 


 え??


「えぇ!??!?!?」


 どういうこと?

 どういうことだよ、ノクス。


『さあ? 本人に、直接確かめてみたらいいんじゃないか?』

 ノクスの嘲笑うような声が脳内に響いた。


 いや、絶対に“事情”、知ってるやつじゃん……!


 俺の鼓動が日向さんに聞こえるんじゃないかというぐらいに騒ぎ、俺は眉を寄せて奥歯をギリギリと鳴らした。


 日向さんは俺の過剰な反応を見て、今にも泣きそうな顔をしていた。

「あ……もしかして、内緒、だった……? ごめん……」


 俺はどう答えればいいか分からず、小さく唸った。

 でも。


 さっきの白金さんとの会話を思い出す。


 棘のある声。

 “あんたを引き摺り下ろす“という強い言葉。


 ――さすがに、違うだろ。


 俺は誤魔化すように笑って答えた。

「いやー。俺としては、“付き合ってる”って思ってなかったからさ」


 見上げると。

 日向さんの顔が死んでいた。


 俺を、軽蔑するような表情。


 ……やば。言い方間違えたかも。


「待って」

 俺は思わず、日向さんに懇願するように言った。

「多分、全部、誤解だから。その辺も、放課後、話そう」


「うん」

 日向さんは曖昧に頷いた。





 放課後。


 俺がまず向かったのは――。


 白金さんのところだった。


 俺はリュックを肩に掛け、白金さんの席を見た。

 彼女はもう、教室にいなかった。


 俺は急いで教室を出る。


 廊下の隅で、一人で歩く白金さんの背中を見つけた。


 さっき、あんなにボコボコにしたのに、声を掛けるのは正直気まずい。

 でも、日向さんのあの“ゴミを見るような目”を払拭するには、真実を確かめて、誤解を解くしかない。


 俺は意を決して、白金さんを呼び止める。


「白金さん」


 白金さんは一瞬で振り返る。

 その瞳には、隠しきれない警戒心があった。


「……何?」

 白金さんは震える声で返した。


 俺は一度深呼吸して、白金さんをまっすぐに見た。


「俺たちって、付き合ってる……の?」


 俺が尋ねると、白金さんの目がこれ以上ないくらいに開く。


 そして。

 白金さんの顔から、首から、全身から、温度がすーっと引いていくのが分かった。


「……は…………あ……?」

 白金さんの口から、声なのか呼吸なのか分からない音が漏れた。

 その音は、小刻みに揺れていた。


「なんの、つもり? 私は、あんたをライバルだと思って、必死に追いかけてたのに」

 白金さんは俯いて、小声で続けた。


「付き合ってる……? あんたが、勝手に、付きまとってただけでしょ?」


 白金さんの端正な顔が、怒りで引き攣っていた。


「気持ち悪い」

 切り捨てるような、冷たくて低い声。


 白金さんは、踵を返して苛立ったようにこの場を去った。


 ――。

 ノクス!!


 俺は胸の中で叫ぶ。


『……いい、反応、だったな』

 ノクスのうっとりした声が脳内に入る。


 俺は呆れて全身の力が抜けた。


 俺の足が、一歩、廊下を進む。


 ――これから、日向さんと、カフェに行くのに。


 なぜか、その足が鈍のように重かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ