16 vs 白金さん
貸切のバトルホールは、授業のときよりも広く感じた。
ライトグレーの床を白い光が照らし、銀色の無骨な天井が遠い。
足元に、ぼんやりと影が落ちている。
呼吸の音でさえ響く。
俺は佐野先生を見て言った。
「これから俺と白金さんで戦うので、動画を撮って、AIで魔力量解析してください」
「なっ」
佐野先生は一瞬目を大きく開けた。
「俺は、いつも通りに戦います。それで、魔力量が平均と同じだったら……」
俺は佐野先生の目をまっすぐ見る。
「俺の魔力の使い方は、悪くないっていう証明になりますよね?」
佐野先生は、驚いているようにも、少し狼狽えているようにも見えた。
「……わかったよ。魔力量解析結果が問題なければ、今後、お前の戦闘に口出しするのは止める。……でも」
俺はごくりと唾を飲んだ。
佐野先生は俺を睨んで続けた。
「もし魔力消費が激しければ……。この戦闘のことも罰するから覚悟しとけ。さらに、1ヶ月模擬戦闘停止、もちろん不戦敗扱いだ」
――は?
俺は眉を寄せる。
「なんで、そこまで……」
「強さよりも、成績よりも、お前の未来の方が大事なんだよ!」
佐野先生は怒鳴った。
俺はしばらく言葉を失った。
「で、どうするんだ? 条件を飲むなら、バトルホールを貸す」
俺は即答できずに固まる。
『大丈夫だ。お前の力を信じろ』
ノクスの声が脳内に聞こえた。
その声を聞いた瞬間、俺の胸の中にじわりと安堵が広がった。
「……分かりました。条件、飲みます」
俺は低い声で言うと、佐野先生は頷いた。
俺と白金さんは、離れて向かい合った。
「戦闘、開始!」
佐野先生の声が響いた。
すぐに白金さんは、無数の光の矢をまっすぐこちらに向けてくる。
『空間を圧縮して、光を曲げよう』
ノクスの声。
「オーケー!」
俺は答える。
この前やった戦法。
俺は自分の前の空気を固めて、光を屈折させようとした。
だが、それを読んだかのように、光が曲がってきた。
「っ……!」
俺は反射的に目の前に空気の壁を作り、一歩退いた。
――そうだ、白金さん、光を曲げられるようになったんだった。
「危ねえ……」
光の矢の攻撃は、間一髪で凌いだ。
白金さんの顔が少し歪む。
『相手に隙ができたぞ』
ノクスの声が聞こえ、俺は迷わず風を操った。
強い風が、空間を押し出すように吹いた。
「あっ」
白金さんの小さな悲鳴が聞こえた。
今だ。
『よし、空間固定して動きを止める』
ノクスは声高に言った。
俺は白金さんの周囲を狙い、意識を集中させる。
「白金さん、今回も勝ち取らせてもら……」
空間が、白金さんを“貫いた“。
白金さんはそこにいるのに、まるで幻覚かのように。
空気の刃が、何も刺せていない。
「……は?」
どういうこと?
すぐに足首が何かに縛られた。
「わっ!?」
俺は間抜けな声を出して、つまずくように前に転びそうになった。
足元を見ると、影が実体化して俺の足に絡みついていた。
「っふっははは」
白金の笑い声が聞こえた。
すぐ背後で。
白金さんは、数メートル先に立っているはずなのに。
『ああ。自分の像を投影して、まるでそこに立っているかのように見せてるのか』
「え、じゃあ目の前にいるのは、ニセモノ……」
俺の足が引っ張られ、身体が地面に叩きつけられる。
俺は咄嗟に受け身を取った。
「いてえええ」
腕を少し擦りむいたようで、ヒリヒリと痛む。
――このままだと、魔力消費問題どころか、白金さんに負けるぞ……。
フィールドの端で、スマートグラスを掛けた佐野先生が腕を組んでこちらを見ている。
俺は痛んだ腕をさすった。
息が上がっている。
でも、ここで降参するわけにはいかない。




