14 健康診断で、まさかの“宣告”
健康診断。
俺が、31番目に面倒くさいと思うイベントだ。
俺は黒い半袖Tシャツとジャージのズボンの姿になり、男子の列に並んでいた。
「身長2ミリ縮んだぞ!」
「まじ? 逆成長期やん!」
クラスの男子の笑い声が聞こえた。
亮平が多目的室から出てきて、俺に向かって笑った。
「中学の時より体重2キロ増えてたわ! やべえ」
「……2キロなんて、誤差だろ」
「誤差じゃないよぉ! 寮のメシのせいだろうなあ!」
俺は呆れたような視線を亮平に向けた。
「大ちゃんも、体重増えたかどうか教えてな!」
「なんでだよ!?」
しばらくして、俺の番が来た。
身長174センチ。
……あ、前世の俺と一緒じゃん。
どうりで目線に違和感がなかったわけだ。
俺は身体測定の後、看護師に促されて内科医の診察を受けた。
内科医の先生は、若い男の人だった。
「えっと。御影大輔くんですか?」
トーン高めの落ち着いた声で、先生は俺に尋ねる。
「はい」
「じゃあまずは心臓の音を聞くから、胸を出してね」
俺の診察は、何事もなく終わる。
はずだった。
「……じゃあ、魔触を出してもらえるかな?」
――は?
魔触?
俺は首に下げていたペンダントの石を出した。
先生はそれをレーザーのようなものを当てる装置を使って、じっくりと見ていた。
突然、先生の顔が険しくなった。
「……御影くん、最近の魔力の使用状況を、ちょっと聞かせてもらえるかな?」
――は?
知らんけど。
「うぇ……」
俺が喉で声を濁していると、脳内にノクスの声が聞こえた。
『“模擬戦闘の授業で少し張り切り過ぎた”、とでも言っておけ』
俺はごくりと唾を飲み、先生を見て言った。
「……模擬戦闘の授業で、少し、張り切り過ぎました」
「うーん……。“少し張り切り過ぎた”ってレベルじゃないくらい、すさまじく魔力消費してるなあ」
先生の顔は曇ったままだった。
え……。
ノクスの返事はない。
先生は真顔で俺の顔を覗き込む。
「御影くん。このままだと、長生きできないよ?」
「はい?」
俺の心臓がドクンと鳴った。
俺、早死にするの?
転生した先でも?
先生は、真顔のまま言った。
「御影くん。いくら魔触があると言っても、あまり無茶して魔力を浪費しないようにね。精密検査はしないけど、学校にはこの結果、伝えておくから」
「……はい……?」
俺の声は微かに震えていた。
健康診断で、“長生きできない”なんて言われるとは思ってなかったから。
教室に戻ると、亮平が真っ先に俺を見て声を掛けた。
「大ちゃん、体重どうだっ……」
亮平は俺の顔を見て、すぐに言葉を切った。
「大ちゃん、体重増えすぎて、ショック受けてる?」
「……や、そういうわけじゃないけど」
俺は亮平の顔を見られないまま、自分の席に戻った。
途中で一瞬、白金さんと目が合った。
その後の授業は、まったく頭に入らなかった。
俺の頭の中は、不安ではなく。
意味が分からない、という混乱でいっぱいだった。
学校が終わり、自分の部屋に帰った瞬間、俺はリュックを床に投げ捨てる。
「ノクス!」
思わず叫ぶ。
「説明しろ。俺は、死ぬのか?」
静寂。
数秒後、ノクスが答えた。
『ごめん』
「なんだよ、ごめんって」
『魔力について、俺の説明不足だった』
俺は顔をしかめた。
「……じゃあ、教えてくれ」
『端的に言うと、魔力は使用者の寿命を削って放出する』
俺は耳を疑った。
「寿命を、削る……?」
『でも、魔術触媒……魔触を持ちながら通常の戦闘をするくらいでは、寿命が減るほどのエネルギー消費は起こらないはずなんだ』
ノクスの声には、戸惑いが混ざっていた。
『魔触は、そのエネルギー消費を肩代わりするものだからだ』
俺は思わず自分の魔触を見た。首に下がった白い石。そして、胸ポケットに入った、ノクスからつけろと言われた黒い石。
『御影がエネルギーを消耗していた理由として、一つ考えられるのは……。その黒い方の魔触を身に着けていなかったことだ。……“前の御影”が、な』
ああ。こっちは、引き出しの奥にしまってあったもんな。
御影大輔は、大量の魔力をぶっ放していたから最強だったのか。
自分の寿命を犠牲にして。
俺は黒い魔触を強く握りしめる。
「……俺は、使えるものは使って、効率よく戦わせてもらいますよ」
――御影大輔。
俺は、お前の信念というものが分からない。
だから、俺が、それを塗り替えて、普通に長生き……。
……できるといいな。




