13 反省文、2通目
俺は、職員室の佐野先生の机に、反省文を叩きつけた。
「……700字、書きましたよ。連帯責任は、ナシでお願いします」
佐野先生は、原稿用紙を斜め読みする。空白の多い3枚目を見た途端に、一瞬不満げに眉を寄せたが、すぐに真顔に戻った。
「……まあ、いいでしょう。二度と学外で私闘することがないように」
佐野先生はスマートグラスに触れながら俺に向かって言った。
俺はほっと一息吐いて、職員室を出た。
「終わった? 帰ろうぜ、大ちゃん」
亮平が廊下で俺を待っていた。
「亮平、今日はほんとありがと」
「いいんて!」
二人で並びながら廊下を歩く。
階段を降りていると、何やら下が騒がしい。
女子の怒ったような声が、階下で響いていた。
「今日私たち、公安試験の模試だったんだよ? それなのに魔触ナシで模擬戦闘受けなきゃだったし。……そもそも、他人の魔触間違えて持ち出すなんて、ありえないんだけど!」
「あぁ、あの、すみません……!」
謝っている声に聞き覚えがあった。
日向さんの声だ。
俺たちが階段を降りきると、廊下で女子3人に日向さんが囲まれていた。
囲んでいる女子たちは、先輩、だろうか。
俺はごくりと唾を飲み、その先輩女子たちに尋ねた。
「どうしたんですか?」
先輩女子たちは俺の方を振り返る。
「は? 君には関係ないけど」
日向さんの前に立っていた先輩が、冷たい声で言った。
俺はその先輩に近づく。
「いや。その子、俺の同級生なんで」
「御影くん……!」
日向さんは泣きそうな目で俺を見た。
「御影……?」
先輩女子の眉が寄った。
「何があったか、俺にも教えてください。友人として、気になるので」
俺ははっきりと言った。
先輩女子は、しばらく気まずそうに俺を見つめた後、ようやく口を開いた。
「魔触、昨日の晩にこの子から盗られたんだよ。そのせいで……今日、模試だったのに、魔触ナシで受けることになって」
「わざと盗ったわけじゃ、ないです。大浴場行った時に……、私のと似てたから……」
日向さんは震える小声で言った。
「言い訳すんなよ。普通自分の持ってる魔触は間違えねえんだよ! しかも返すの遅すぎだろ!」
先輩女子の声色が、突然耳を刺すように尖った。
……魔触?
『魔術触媒。お前の首に下がってる石みたいなやつのこと。ここの学生は1人1個、自分専用の魔触を持っている。……お前は2個だが』
……ああ、この前ノクスが“触媒”って言ってたやつのことか。
持ってると魔術が強くなるんだっけ。
「……すみません。もう、二度と、しないので」
「マジで、ありえない! あんたがやったこと、窃盗だよ? 反省文レベルだよ?」
先輩女子の怒鳴り声が響き、俺の背筋もびくりと震えた。
「……御影くん、からも、なんか言ってやってよ」
先輩女子は俺を見て言った。
……あえ?
俺は狼狽えながら日向さんを見る。
「あ、俺からも、友人として謝ります。申し訳ありません、でした」
俺は頭を下げる。
隣にいた亮平も、なぜか一緒に頭を下げた。
そして、俺は自分自身を落ち着かせながら、続けた。
「こいつ、おっちょこちょいで。ほんとに悪気はないんです。今後同じことが起こらないように……魔触を取り違えないような、対策を考えますので。今回は、ここまでにしていただけますか?」
「っ、すみません、でした。もう二度と、しません……」
日向さんも続く。
先輩女子は、しばらく黙っていた。
「……御影くんが、そう言うなら、許します。まあ、今回は、まだ模試だったし」
先輩女子は少し不満げに言った。
「……でもやっぱり、一筆欲しいわ」
先輩女子は日向さんを睨んで続けた。
「反省文、ちょうだい。明日の放課後までに。400字、原稿用紙2枚分。私、3年A組の草木」
先輩女子は、自分の所属と名前のメモを走らせて日向さんに渡した。
日向さんはそのメモを手に持ったままフリーズした。
「それじゃ、よろしく」
草木さんと、その連れの先輩たちは、廊下の向こうの方に歩いて行った。
俺と、亮平と、そして日向さんは、しばらくその場に立ち尽くす。
そして日向さんが、俺を見た。
泣きそうな目で。
「……御影くん、ありがとう。迷惑かけて、ごめん」
「別に迷惑掛けられてないけど」
俺は頭を掻いて言った。
日向さんは訴えるような目で俺を見て、言った。
「反省文の書き方……教えて……?」
俺は天井を見上げた。
そして隣で亮平が噴き出した。
「ふっ……今日、2本目……!」
「分かった。反省文の書き方教えるから。……あと、一緒に再発防止策も、考えよ」
「……ありがと……!」
日向さんは、なぜか救われたような顔をしていた。




