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12 反省文・不敵な約束

 放課後、俺はリュックを右肩にかけて立ち上がった。


「大ちゃん、一緒に帰ろ」

 亮平から声がかかる。


「おう」

 俺は軽い声で返事をして、二人で並んで歩き出した。


 教室から出ようとした瞬間。


「御影大輔!」

 怒鳴るような声が耳に飛び込んだ。


 魔術戦闘担当の佐野先生が、俺の目の前で立っている。

 だがその声とは裏腹に、佐野先生のスマートグラスの奥の目が、笑っていた。


「お前、やるやん! 今朝はコンビニ強盗捕まえたんだって?」


「……あ? あ、はい」

 俺はぽかんとしながらも、首の後ろをさすりながら頷く。


「未来の公安にふさわしい人間に出来上がってきてるな!」

 佐野先生は満足気に笑った。


 しかしその直後、佐野先生の表情が一瞬で険しくなる。


「……で、御影。昨日の学外乱闘の反省文は、まだなのか? 赤羽順はもう提出したぞ」


 俺の顔が一気に強張った。


「あれ、確か今週中って……」

 まだ明日もあるじゃん。


「はあ? お前、まさか『明日までだろ』って言うつもりか?」

 佐野先生の声がキリキリと耳に刺さった。


 なぜか全身に汗が滲んだ。


 いつの間にか、隣にいたはずの亮平が、2メートル先の教室の出入り口から顔だけ覗かせていた。


「……まあ、でも」

 佐野先生は目を伏せて落ち着いた声で言う。

「今日の御影の手柄に免じて――」


 お?


「……反省文、800字書けと言ったが、700字で許してやる。今日中に出せ」


「――は?」

 思わず口から心の声が漏れた。


「『は?』ってなんだ? 教師に向かってその態度はけしからんぞ! グレー寮に連帯責任を」


「やります! 今日中に、出しますから!」

 俺は大声で返した。


 頼むから、連帯責任だけは、やめてくれ。


「分かった。700字。今日中に出せば、連帯責任は見逃してやる」


 佐野先生はスマートグラスを触りながら、俺を指さして言った。


 ――くそ。

 俺は、心の中で佐野先生に向けて、中指を立てた。


 


 俺はそのまま巻き戻しのように自分の席に戻り、座った。


 原稿用紙を机の上に置く。

 ペンを握る。


 握ったペンは、その場で動かなかった。


「御影大輔、まだ反省文出してなかったのかあ?」

 赤羽が呆れと煽りが混ざったような声で言った。


「お前が、ケンカを吹っ掛けてこなければ。俺はこれを書かずに済んだんだよ」

 俺は原稿用紙を見たまま言った。


「御影大輔、ほんとに腹立つな」

 赤羽は肩をすくめて言った。


「……反省文、どんな風に書いた?」

 俺は思わず赤羽に尋ねると、赤羽は目を丸くした。


「は? そんなん自分で考えろよ」


「頼む! 俺文章書くの苦手なんよ! なんかお礼するからさ!」

 俺は目の前で手を合わせた。


 赤羽の顔を見ると、赤羽は眉を寄せて口元を曲げていた。


「……御影大輔って、そんな感じだったっけ?」

 赤羽は気の抜けた声で言う。


 俺はその言葉を聞いて、返答をためらった。


 その時。


 目の前に、コーヒー牛乳のパックが2個、同時に置かれた。


「これやるから! 親友の俺からも、お願い!」

 亮平が赤羽に向かって手を合わせた。


 数秒の沈黙の後、赤羽は俺の前の席の空いたイスに座った。

「……2個もいらねーよ」


「1個は大ちゃんの分だよ!?」


「亮平ありがと。気持ちだけいただくから、お前が飲みなよ」

 お前、ほんと良い奴だわ。

 赤羽と違って。


 赤羽は俺の机に頬杖をついて、面倒くさそうに言った。

「……反省文は、最初に原稿用紙1枚使って事実を説明する。いきなり謝罪しなくていい」


「……あ?」

 俺がぽかんとしていると、脳内にノクスの声が聞こえた。


『4Wだよ。誰が、いつ、どこで、何をしたか。あったことを、感情抜きにして文章にする』


「……ああ。なるほどね」

 俺はペンを走らせた。


「で、次に謝罪。佐野先生は“迷惑をかけたこと”よりも、“自制ができなかったこと”を責めるタイプだから――」

 赤羽は意外にも丁寧にアドバイスを始めた。


「で、次に原因と対策を書く」


「原因は、赤羽順から手を出されたことだから……」

 俺はペンを走らせながら呟いた。

「対策は、赤羽順と今後一切関わらないことかなあ」


「ぎゃははは」

 亮平の笑い声。


「何でそうなるんだよ!?」

 赤羽は机をゴンッと叩いた。


『売られたケンカは買わないとか、戦闘以外の手段を使うとか、そんなのでいいんだよ……』

 ノクスの呆れた声が聞こえた。


 俺の反省文は、あっという間に完成した。

 ギリギリ710文字。


「ありがと! マジで助かったわ」

 俺は赤羽に頭を下げた。

 その後、俺は視線を上に向けて考えた。

「お礼、どうしよっかなあ」


 赤羽が刺すような声で言った。

「じゃあ、次の模擬戦闘の授業で俺と当たったら、お前、負けてよ」


 俺はゆっくりと深呼吸した。


 赤羽を見て、笑って言う。

「分かったわ。……お前が本気出してくれたら、負けてやるよ」


 赤羽は目と口を開いて俺を見ていた。


「……まじで、御影大輔って、そんな感じだったっけ?」

 赤羽はぽつりと呟いた。




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