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11 あの時とは違う

 俺は、コンビニで買ったカフェオレを飲めないまま、学校を迎えた。


 手に持っていたのは、カフェオレのパックではなく――。

 公安からの感謝状。


 隣には白金さんも並んでいた。


 ステージから見下ろすと、1年生たちが俺たちを羨望の眼差しで見上げている。


 拍手の音。

 亮平が満面の笑みで、頭の上で手を叩いているのが見えた。


 ――ああ。

 社会の役に立つって、こんなに気分がいいんだな。


『そう思ってくれると、俺も誇らしい』

 ノクスの声が胸に染みた。


 俺は、ステージの上で、自然と胸を張っていた。




 昼休み。


 俺はぬるくなったカフェオレを飲みながら、亮平と駄弁っていた。

 亮平は短い前髪をかき上げて、笑顔で言った。


「今回の表彰で、大ちゃんがトップから学年2位を突き放したんじゃね?」

「そうなん?」


「2位って確か、赤羽だろ?」


 俺はカフェオレを吸うのを止めた。

「……そうなん?」


 あの暴れん坊が?


 俺は顔をしかめていたようだ。


 亮平は首を傾げてしばらく唸っていた。


「あー。2位って今は白金さんなのかなあ? あの辺団子状態だから、わかんないなあ」

「ふうん」


 てか、なんで亮平が他人の成績に詳しいんだよ……。


 俺は呆れた顔で亮平を見ていた。


 俺の視線は、なぜか廊下に向かっていた。

 紺色の長い髪の女子が通るたびに、心臓が大きく跳ねた。


 ――相馬さん、じゃない。


 それを確かめて、俺はため息を吐く。


「……2年って、今学校にいないんだっけ?」

 俺は思わず尋ねた。


「公安実習だから、学校には来ないと思うな。でも、寮には戻ると思うけど。誰かに用?」

 亮平は目を丸くして答えた。


「……いや。別に」


 俺は頬杖を付いた。

 顔が、熱い。


 目の前の亮平の目が垂れて、だらしなくニヤリと笑う。


「……大ちゃん、もしかして~~~?」

「……違うわ」


「詳しく聞かせろぉ?」

 亮平は顔を近づけてきた。

 逃げ場がない、と思いながらも、俺は必死で誤魔化した。


「何でもないって!」


 ふたたび廊下に視線を向けたとき、白金さんの姿が視界に入る。

 白金さんは、スマートリングを触って何かの記録をじっと見ていた。


 そうだ。

 白金さんには、話したいことがあったんだ。


 俺はすっと席から立ち上がった。


 白金さんに近づく。


 彼女の目の前に立つ。


 白金さんは、俺に気付くと、勢いよく見上げてきた。


「……何?」

 白金さんは、疑うような目つきで俺を睨んだ。


「あのさ。今朝は、協力してくれて、ありがとう」


 俺は普通に、心から礼を言った。


 白金さんの目が大きく開く。


「……あ、私の方も、ありがとう。……まあ、お互い様ってことで、いいでしょ」

 白金さんは、俺から目を逸らしたまま言った。


「あのさ」

 俺が食い気味に声を出すと、白金さんの目がこちらを向いた。


 俺は続ける。

「今朝の白金さんの戦い方、すごく良かった。光を曲げられるようになってさ。アレ、天才だな。やっぱ練習したんか?」


 俺の質問は、興味本位だった。


 だが。


 白金さんの顔が引きつると同時に、真っ赤に染まっていく。


「は……あ?」


 白金さんの視線が、ふたたび俺から外れた。


「表彰されたからって……調子、乗ってんの?」


 白金さんは、手元の激辛スナックを一気に口へ放り込んだ。


 数秒の間の後。


 白金さんは激しく咳込んだ。


「あ」

 俺は思わず飲みかけのカフェオレを差し出す。


「いらッない! あんたの飲みかけなんてェ”!」

 白金さんは咳込みながら、俺の善意カフェオレを拒絶した。


 その時、俺の視界の端で、白金さんが見ていたものを捉えた。

 スマートリングで表示させていた画面。


 白金さんの、戦闘の練習姿だった。

 光の矢を放ち、向かわせたい方向に向ける。


 何度も。

 上手くいかなかったパターンと、上手くいったパターンを繰り返す。


 画面の中の白金さんは、息を切らしていた。


「……何?」


 白金さんは顔を真っ赤にしながら俺を睨む。


「いや。頑張ってるんだなって……」

 俺は思わず答えた。


「それ、嫌味?」


「あ……」


 “そんなことないよ”。

 その言葉が、咄嗟に出てこなかった。


 もっといい方法があるはずなのに。

 そんなに頑張らなくていいのに。


 そんなことしても、傷つくことの方が多いのに。


 画面の白金さんを見るほど、俺の心の深いところが抉られていく。


 それは、御影大輔ではなく――。

 俺、相模大輔の記憶。


 報われない努力だけを重ねてきた、塩の味。


 目の前のこの人は。


 まだ、“諦めること”の重要さを知らない。

 そして、その先に行ったときの、肩の軽さも。


 俺を見据えるジト目が、そんな無垢さを語っていた。


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