表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/18

1 俺は最強じゃない。最強を操作されているだけだ

 死んだ、と思った。


「お兄ちゃん!」

 ざわめきの中で、叫び声が聞こえる。


 何が起こったんだっけ?

 直前のことが思い出せない。


 全身がバラバラになったように痛い。

 息ができない。

 寒気がひどい。


 でも、ぼやける視界の向こうに、小さな背中が、見える。

 俺の口元が、無意識に上がった。


 俺、相模(さがみ)大輔(だいすけ)の最後の記憶は――

 硬いコンクリートの上でプツンと途絶えた。




 ◆◆◆


 次に目を開けた瞬間。

 目の前に赤い光が飛んできた。


「熱っ!」

 ひりつく痛み。


 直後、視界に灰色の天井が広がる。


 ここはどこだ?

 俺は――何をしている?


「ミカゲくん!」

 遠くで女子が叫んでいる。


 身体を起こそうとした瞬間。

 またしても赤い光――


 いや、炎だ、これ。


 熱が近づいてくる。

 焼かれる。


 また、死ぬ?


 汗が全身に広がる。

 熱さのせいか、それとも――


『立て』


 男の低い声が聞こえた。

 耳からではない。

 頭の内側から直接響くような声だった。


 俺は反射的に立った。

 まるでその声に動かされているように。


 さっきまで倒れていた場所を、火の玉が通過する。


『いいぞ。そのまま、前を見ろ』


 前を見ると、紺のミリタリージャケットを着た男子生徒。

 彼はにやりと薄笑いしている。


 あいつ、炎出せるの?

 ヤバない?


『そいつを目掛けて、力を込めろ』


 ――は?

 力を、込める?


『早く』

 その声が聞こえたと同時に、火の玉が飛んでくる。


 俺の身体は、まだふらついている。

 でも、視界の真ん中に、“敵”を捉える。

 銃の照準を合わせるように。


 俺は拳を強く握った。


 その瞬間。


 空気が凍り付いた。

 いや――違う。


 空気が、俺に従った。

 見えない何かが、腕から解き放たれる。


 目の前の男子生徒の身体が、紙切れのように吹っ飛んだ。


 それはまさに“一方的な支配”のようだった。


 ドサッという音が響く。

 相手は床の上で倒れていた。


 静まり返る空間。


「……は?」

 俺の声が漏れる。


「……模擬戦闘、終了」

 大人の声がして、一瞬の間が空いた。

「勝者、グレーの御影(みかげ)


 その声が響いた瞬間、空間がざわめき出した。


 拍手、歓声、口笛。


「さすが御影くん」

 女子の声がして、肩を叩かれる。


「やっぱり学年首席は格が違う!」

「さっきの避け、完全に読んでたよな」


 ――違う。俺は、何も……。


「御影くん、途中倒れたけど、大丈夫だった?」

 落ち着いたような声に、思わず振り返る。


 茶色のミリタリージャケットを羽織った女子が立っていた。


 華奢な身体に、ストレートの銀髪。

 重たげな瞼から、温度低めのジト目が覗く。


 初めて会うはずなのに、俺を知っている目だった。


「……大丈夫?」

「え、君の名前、は?」


 銀髪の女子は目を大きく開いて、俺を見た。


白金(しろかね)光里(ひかり)

「白金、さん」


 手を挙げようとした途端、視界に俺の腕が映る。

 擦り切れた袖口。溶けたように歪んだジャケットの袖。


 さっきの戦闘を思い出したかのように、頬の火傷がヒリヒリと痛みだす。


「今の御影くん、少し変」


 心臓が止まりかける。

「……何、が?」

 俺は慎重に尋ねた。


 白金さんは少し考えてから言った。

「うまく、言えないけど」

 そして、俺をまっすぐ見て――


「なんか、別人みたい」

 

 俺はしばらく呼吸を忘れた。


 何も答えられない俺を見て、白金さんはずいっと一歩近づく。

 彼女の息が首元に掛かり、くすぐったい。


 そして、白金さんから向けられた目が、俺の魂を覗き込んでいるように見えた。


「ほんとに、御影くんなの?」

 白金さんは淡々と尋ねて、すぐにくるりと踵を返してどこかに行ってしまった。



 ――“ミカゲくん”?

 俺は、相模大輔だ。


『お前は今日から、“御影大輔”だ』


 俺の心を読んだかのように、声が聞こえた。


「……どういうことだよ」

『お前は死んで、御影大輔として生きることになった』


 意味が分からない。

 何もかもが。


『心配しないでいい。お前は、俺の指示に従っていればいいんだ』

「あなたの、名前は?」

『“ノクス”と呼んでくれ』

「ノクス……さん」


 声の主の姿は見えない。

 この声――“ノクス”という奴を、信用しようと思えなかった。


『君にはやって欲しいことがある』

「……何ですか?」


『まずは学年首席を取ってほしい。座学も、戦闘も。全てで圧倒的な力を出せ。事情は後で説明――』

「無理です」

 即答した。


 俺は天才じゃない。努力しても、届かない側の人間だった。

 だから、完璧なんてコスパ悪いものは目指さない。


 ノクスは呆れたようにため息を吐く。

『だから、俺の言う通りにしていれば」

「そんなのチートでしょ? バレるに決まって――」


『俺の声も、姿も、お前にしか認識されない』

「え?」


 辺りを見回すと、他の生徒たちは新しく始まった模擬戦闘を見ていた。


 隣にいた男子生徒が、怪訝な顔で俺を見る。

「御影、さっきから独り言うるせえぞ。戦闘で頭打っておかしくなった?」


「え??」


『それじゃあ、始めよう。御影くん』

 ノクスの低い声が、脳裏に落ちた。


 何もかも、おかしい。

 でも、確かなことがある。


 俺は、御影大輔じゃない。

 そして、御影大輔だったものは、俺とは違う。


 これから始まるのは、俺の人生の続きじゃなくて――


 『最強の御影大輔』を演じる、ドラマみたいなものだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ