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7 料理長の挑戦状

「陽だまり亭」の評判は、ついに王都の高級レストランにまで届いていた。

そして、それは当然、やっかみを生むことになる。


ある日、店の前に一台の豪華な馬車が止まった。

降りてきたのは、いかにもプライドの高そうな、コック帽をかぶった中年男性。

彼は、王都一と名高い高級レストラン「金の麦亭」の料理長、アントンと名乗った。


「お前が、噂の神童か。面白い。ならば、この私と、どちらの料理が上か、決着をつけようではないか」


アントンは、公の場で私に料理対決を挑んできたのだ。

店の客も、周囲の野次馬も、面白がってその挑戦を煽り立てる。


数日後、市場の中央広場に、特設の調理台が設けられた。

対決のルールはシンプル。

「ありふれた食材を使い、最も意外な料理を作った方の勝ち」。


アントンは、鶏肉と野菜という、どこにでもある食材を選んだ。

しかし、彼はそこに、高級なワインやスパイスを惜しげもなく投入し、洗練された煮込み料理を作り上げていく。

その手際と知識は、さすが王都一の料理長だ。


一方、私が選んだ食材は、大豆と麦、そして塩。

それだけだ。

観客たちは、私が何を作ろうとしているのか分からず、首を傾げている。


私は、前日に仕込んでおいた「あるもの」を取り出した。

それは、蒸した大豆と炒った麦を混ぜ、塩水と共に甕かめで寝かせたもの。

前世で言うところの「味噌」の原型だ。


「これは……? なんだか、変な匂いがするぞ」


審査員たちが、訝しげな顔で私の手元を覗き込む。

私は構わず、その味噌もどきを溶かした汁で、野菜を煮込み始めた。


やがて、二人の料理が完成した。

アントンの煮込み料理は、見た目も香りも、まさに王侯貴族が食す一品。

対して私の料理は、茶色く濁った、見た目も地味な野菜の煮込みだ。

誰もが、アントンの勝利を確信していた。


しかし、審査員たちが私のスープを一口飲んだ瞬間、会場の空気が一変した。


「な、なんだこの複雑な味は! 塩辛いのに、甘い。そして、深いコクがある……!」

「こんな味、生まれて初めてだ……!」


結果は、私の圧勝だった。

アントンは、自分の知らない調理法――「発酵」という概念が生み出した未知の味の前に、呆然と立ち尽くすしかなかった。

この勝利によって、「陽だまり亭」の名は、下町だけでなく、王都全体に轟くことになった。

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