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6 呪われた食材

王都の市場に、奇妙な噂が流れていた。

「食べると必ず腹を壊す、呪われたキノコがある」。

その噂のせいで、ある種のキノコが全く売れなくなり、市場の隅で山積みになっていた。


「リナ、あれはダメだ。触るんじゃないぞ」


市場に買い出しに来ていた私に、父さんが釘を刺す。

しかし、私はそのキノコを見て、にやりと笑みを浮かべていた。

前世の記憶が、そのキノコの正体を告げていたからだ。


(これは……ワラビやゼンマイと同じ。アクが強いだけだ)


私は、父さんの目を盗んで、その「呪われたキノコ」を格安で仕入れた。

店に帰ってこっそり隠し、店の休憩時間、父さんにバレないように調理に取り掛かる。

まずは、たっぷりの湯を沸かし、そこに灰をひとつかみ。

これは、前世で言うところの重曹の代わりだ。

アク抜きの知恵だ。


キノコを灰汁で茹で、一晩水にさらす。

それだけで、キノコに含まれる毒素はすっかり抜けてしまう。

翌日、私はそのキノコを使って、油炒めとスープを作った。


「父さん、母さん。まかないだよ」


私が差し出した料理を見て、二人は顔を青くした。


「リナ! お前、あのキノコを……!」

「大丈夫。呪いなんてないから。ただ、ちょっとだけ調理にコツがいるだけ」


私はそう言って、にっと笑ってみせた。

そして、自らキノコの油炒めを口に運んでみせる。

シャキシャキとした歯ごたえと、口の中に広がる豊かな風味。

紛れもなく、絶品のキノコ料理だ。

私の様子を見て、両親もおそるおそる料理を口にする。

そして、次の瞬間、二人の顔が驚きと喜びに変わった。


「美味い! なんだこの食感は!」

「本当に、お腹も痛くならないわ……」


その日の夕方、「呪いを解いたキノコ料理」は店の特別メニューとして出され、客たちを驚かせた。

呪いの正体が、単なるアク抜き不足による食中毒だったことを、私は料理をもって証明してみせたのだ。


この一件で、「陽だまり亭のリナは、食材の声が聞こえる」などという、新たな噂が立つことになった。

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