47 新たな風
1 エドガーの訪問
ある日の午後。
陽だまり亭に、エドガーが訪れた。
「エドガーさん、いらっしゃい」
「お邪魔します」
エドガーが店に入った。
私も、カウンターから顔を出した。
「エドガーさん、こんにちは」
「リナちゃん、こんにちは」
エドガーが笑った。
エドガーは、席に座った。
父さんが尋ねた。
「今日は、どうされました?」
「実は、お礼を言いに来たんです」
エドガーが答えた。
2 お礼の言葉
「お礼?」
父さんが尋ねた。
「ええ。マルクスさんとインゲさんを紹介してくださって、ありがとうございました」
エドガーが頭を下げた。
「うちの酒場、すごく良くなったんです」
「それは良かった」
父さんが笑った。
「お客さんの評判も、すごくいいんですよ」
エドガーが続けた。
「賑やかで活気ある雰囲気はありながら、統一感があって落ち着くって、みんな言ってくれます」
「マルクスとインゲ、頑張ったんだね」
私も嬉しくなった。
「ええ。本当に素晴らしい仕事でした」
エドガーが笑顔になった。
「職人さんたちも、丁寧な仕事をしてくださった」
「トビアスさんたちですね」
父さんが言った。
「はい。カウンターもテーブルも、器も、調理器具も、すべて素晴らしいです」
エドガーが答えた。
母さんが、お茶を持ってきた。
「エドガーさん、どうぞ」
「ありがとうございます」
エドガーは、お茶を飲み始めた。
3 船乗りの話
エドガーは、お茶を飲みながら世間話を始めた。
意外におしゃべり好きだったらしい。
「そういえば、最近うちの店に船乗りのお客さんが来たんですよ」
「船乗り?」
父さんが興味を持った。
「ええ。港町から来た人たちです。王都は海から離れているからあまり船乗りのお客さんは来ないので珍しい」
エドガーが続けた。
「長期航海から戻ってきたばかりだって」
「へえ」
私も聞いていた。
「その人たちが、怖い話をしてたんです」
エドガーが言った。
「怖い話?」
父さんが尋ねた。
「ええ。長期航海は命がけという話で。長期間、海上にいるわけで、時化もあるだろうからそういうことを指しているのかなと思って聞いていたんですが、そういう危険とは別に、海の呪いにかかるとか」
エドガーが説明した。
「海の呪い?」
「はい。歯茎から血が出たり、体に力が入らなくなったり」
エドガーが続けた。
私は、少し気になった。
「治ったはずの傷が、また開いたりするらしいです。場合によっては呪いによって死んでしまうこともあるとかなんとか」
エドガーが付け加えた。
「それって…」
私は、思わず声を出しそうになった。
でも、エドガーは気軽に話していた。
「呪いなんて物騒ですよねえ」
「そうなんですか」
父さんが相槌を打った。
「まあ、世間話ですけどね」
4 リナの心に芽生えた疑問
私は、その話が頭に残った。
歯茎から血が出る。
体に力が入らない。
傷が開く。
何か、聞いたことがあるような…
前世で…
でも、はっきりとは思い出せない。
「リナ、どうした?」
父さんが尋ねた。
「ううん。何でもない」
私は、首を振った。
でも、心の中では気になっていた。
海の呪い。
長期航海。
何だろう。
エドガーは、お茶を飲み終えた。
「それでは、そろそろ失礼します」
「わざわざありがとうございました、エドガーさん」
父さんが見送った。
「また来てくださいね」
私も手を振った。
「ええ。また来ます」
エドガーが笑って、帰っていった。
5 日常の中で
エドガーが帰った後。
私は、厨房で考えていた。
海の呪い。
歯茎から血が出る。
体に力が入らない。
何だろう。
でも、今はまだ分からない。
「リナ、手伝って」
母さんが呼んだ。
「はーい」
6 陽だまり亭の夜
夜。
陽だまり亭の営業が終了した時間。
私は、ふと窓から外を見た。
春の夜。
暖かい風が吹いている。
町は、穏やかだ。
「リナ、ご飯よ」
母さんが呼んだ。
「はーい」
私は、厨房を離れた。
家族で、夕食を食べる。
温かい、日常。
これが、私の幸せ。
7 エンディング
陽だまり亭のリニューアルから、数ヶ月。
薬草メニューは、定番になった。
ソフィアの薬草店は、繁盛している。
マルクスとインゲは、トータルコーディネート業を始めた。
すべてがつながっている。
困難な時間も、無駄じゃなかった。
みんなが成長した。
そして、春が来た。
新しい季節。
新しい始まり。
陽だまり亭に、温かい風が吹く。
穏やかな日常が、続いている。
リナの頭の片隅には、エドガーの世間話がひっそり居座ったまま。
リナのお話はこれにて一段落。
続きを書くことがあれば、またよろしくお願いします!




