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32 それぞれの悩み

1 改装計画


朝。

陽だまり亭の厨房で、料理をしていた。

私は踏み台に乗っている。

調理台が、私には高すぎるから。


「リナ、後ろを通るよ」


父さんの声。

私は少し横にずれる。

父さんと一緒に料理をする時、この踏み台が狭い厨房では邪魔になる。

でも、踏み台がないと届かない。

料理が終わって、父さんと母さんが話していた。


「商人ギルドの報酬、どう使おうか」

「店の改装は?」

「ああ。厨房も古くなってきたし」


私も話に加わった。


「調理台、私には高すぎるんだ。踏み台がないと届かないし、父さんの邪魔にもなってるし」


父さんが笑った。


「そうだな。リナに合う高さの作業台も、あった方がいいな」


母さんが頷いた。


「中庭のテーブルも、増やしたいわね。

「それと、器も新しいものが欲しいな・調理器具も」


父さんが考えた。


「家具、器、調理器具…職人に、頼まないとな。でも、伝手がないな…」


その時、店の扉が開いた。

ヴァレリウス卿だった。

いつもの常連客。


「ヴァレリウス卿、いらっしゃいませ」


父さんが迎える。

ヴァレリウス卿は席に着いた。


「今日も、美味しそうな香りがするな」


ヴァレリウス卿に料理を配膳した後、私たちは話の続きをしていた。

食事をしながら、私たちの話を聞いていたらしいヴァレリウス卿が話しかけてくれた。


「店の改装か。それなら、良い職人を知っているぞ」

「本当ですか?」

「ああ。家具職人のトビアス、陶器職人のディーター、鍛冶職人のグリムといって、3人とも腕は確かだ。私の名前を出せば、話を聞いてくれるだろう」


ヴァレリウス卿が、それぞれの工房の場所を教えてくれた。


「ありがとうございます!」



2 家具職人トビアス


午後。

父さんと私は、家具職人の工房を訪れた。

木の香りがする。

作業台で、男性が木材を削っていた。

30歳くらいだろうか。


「すみません」


父さんが声をかけた。


「はい?」


男性が顔を上げた。


「ヴァレリウス卿のご紹介で参りました」

「ヴァレリウス卿の?」


男性の顔が、少し明るくなった。


「家具を作っていただきたいのですが」

「ああ、どうぞ」


男性は、トビアスという名前だった。

真面目そうな人だ。


「調理台と、収納棚を」


父さんが説明する。


「あと、子供用の作業台も」


私が付け加えると、トビアスは少し驚いた。


「子供用?」

「うん。私、料理を手伝うんだけど、調理台が高すぎて、踏み台を使ってるの。でも、踏み台だと父さんの邪魔になっちゃって」


父さんが補足した。


「リナの背格好に合った高さの作業台が欲しいんです」


トビアスは頷いた。


「なるほど。子供用の高さの作業台か。面白いな。作りがいがありそうだ」


トビアスは丁寧に要望を聞いてくれた。

寸法を測り、メモを取る。

真面目な仕事ぶりだ。


「分かりました。良いものを作りますよ」


トビアスが笑顔で言った。

納期と金額を確認して、打ち合わせが終わった。

そろそろ工房を出ようかというところで、トビアスが世間話を始めた。


「あの、陽だまり亭さんは、繁盛してますね」

「ありがたいことに」


父さんが答えた。


「羨ましいですよ」


トビアスが少し寂しそうに笑った。


「実は…最近、大きな仕事が減っていまして。昔は、貴族の屋敷や教会の改築なんかもあったんですが、今は、家具の注文が中心で」


トビアスは溜息をついた。


「今日みたいな注文はありがたいんです。でも、それだけでは…正直、生活が厳しくて」


父さんが頷いた。


「大変なんですね」

「ええ。でも、腕だけは落とさないようにしています」


工房を見ると、確かに丁寧な仕事をしている。



3 陶器職人ディーター


次は、陶器職人の工房へ。

父さんと私が一緒だ。

ろくろを回す音が聞こえる。

中年の男性が、器を作っていた。

40代だろうか。


「いらっしゃい」


男性は、ディーターという名前だった。

横には、若い男性もいる。


「これはマルクス。うちの息子で見習いをさせてます」


息子さんか。

18歳くらいだろうか。


「ヴァレリウス卿のご紹介で参りました」


父さんが言った。


「ああ、卿のお知り合いか」


ディーターが笑顔になった。


「器を作っていただきたいのですが」

「どんな器ですか?」


父さんが説明を始める。

私も補足する。


「料理に合う器がいいな。使いやすい大きさで」

「分かりました」


ディーターは頷いた。

いくつかサンプルを見せながら、打ち合わせが進む。


「この形なら、料理が映えるんじゃないでしょうか」

「良さそうです」


納期と金額を確認して、打ち合わせが終わった。

私たちが帰ろうとすると、マルクスが父を見送りに来た。

ディーターは奥で作業を始めている。

マルクスが小さな声で言った。


「父、最近元気がないんです。実用的な器ばかり作っていて。でも、それしか売れなくて」


マルクスは困った顔をした。


「器だけでは、他の工房と差別化できない。陽だまり亭さんみたいに、何か新しいことできないかなって思うんですけど」



4 鍛冶職人グリム


夕方。

最後は、鍛冶職人の工房。

カンカンと、金属を叩く音。

火花が飛ぶ。

50代くらいの男性が、包丁を打っていた。


「失礼します」


父さんが声をかける。

でも、作業を止めない。

集中している。

しばらくして、作業が一段落した。


「…何だ」


低い声。

グリムという名前だった。

寡黙な人のようだ。


「ヴァレリウス卿のご紹介で参りました」


父さんが言った。


「…卿の、か」


グリムは少し表情を和らげた。


「調理器具を作っていただきたいのですが」


父さんが続ける。


「包丁と、鍋を」

「それと、子供の手に合う包丁も」


私が付け加えた。


「今、大人用のペティナイフを使ってるんですけど、やっぱり、少し大きくて」


グリムは少し考えて、頷いた。


「…子供用の包丁、か」


無口だが、真剣に話を聞いてくれる。

要望を伝えると、メモを取った。


「…分かった」


短い返事。

でも、引き受けてくれたようだ。

その時、若い女性が奥から出てきた。


「お客様ですか?」

「インゲといいます。グリムの娘です」


20歳くらいだろうか。

社交的な雰囲気。

インゲが父さんと金額や納期を確認する。

グリムは再び仕事に戻った。

工房を出ると、インゲが追いかけてきた。


「あの、ありがとうございます。父、最近…武器の注文が減っていて」


インゲは小さな声で言った。


「平和な時代は良いことなんですけど…調理器具に専念しようと、私は勧めているんですが、父は、武器職人としての誇りがあって」


インゲは少し寂しそうだった。


「でも、今日みたいな注文があれば、父も前向きになれると思います」



5 それぞれの悩み


夜。

陽だまり亭に戻って、母さんに報告した。


「3つの工房、回ってきたよ」

「どうだった?」


私は考えながら話した。


「みんな、良い職人さんだと思う。依頼も受けてくれるって。でも、悩みがあるんだって」


トビアスは、家具だけでは生活が厳しい。

ディーターは、器だけでは差別化できない。

グリムは、武器の需要が減っている。


「そうなのね…」


母さんが頷いた。


6 リナの提案


私は、ふと思いついた。


「父さん、母さん」

「一緒に仕事をしてもらったら、どうかな」

「一緒に?」


父さんが聞き返した。


「家具と器と調理器具。バラバラじゃなくて、一緒に作ってもらうの」


母さんが首を傾げた。


「どういうこと?」

「調理台のデザインと、店の雰囲気に合う器。それに、調理台で使いやすい調理器具。全部が調和するように」


私は続けた。


「あと、私の手に合う包丁とか。今、大人用のペティナイフを使ってるけど、やっぱり、少し大きいの」


母さんが目を輝かせた。


「なるほど!調理台の木の色と、器の色を合わせて統一感のある空間にするっていうことね!」


父さんが頷いた。


「面白い考えだな。でも、職人たちが協力してくれるだろうか」


私は言った。


「やってみないと、分からないよ」



7 エンディング


明日、3人の職人さんに提案してみよう。

一緒に仕事をしてほしいって。

きっと、良いものができる。

そんな気がする。

窓の外には、星が輝いていた。

新しい挑戦の、始まり。

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