29 商人からの依頼
1 予期せぬ訪問者
夕方。
陽だまり亭に、見慣れない客が訪れた。
立派な身なりの中年男性。
商人風だ。
「いらっしゃいませ」
父さんが迎える。
「評判を聞いて参りました」
「ありがとうございます」
男性は席に着き、定食を注文した。
食事を終えると、父さんに声をかけた。
「実は、ご相談がございまして」
「相談?」
「はい。商人ギルドの者です。長距離輸送に耐える保存食を開発していただきたいのです」
保存食。
私は耳を澄ませた。
「王都から遠方の町へ、食品を運ぶのですが、途中で傷んでしまうことが多く」
「なるほど…」
「報酬は、こちらで」
男性が示した金額に、父さんが驚いた。
かなりの高額だ。
「考えさせていただけますか?」
「もちろん。では、3日後にまた参ります。よいお返事を期待しております」
男性は丁寧に頭を下げて、店を出た。
2 悩む親子
夜。
店を閉めた後、家族で話し合った。
「どう思う、リナ?」
「難しいです。でも…」
私は前世の知識を思い出していた。
缶詰、レトルト、真空パック。
密閉と加熱の原理。
「挑戦してみたいです」
「そうか」
母さんが言った。
「やってみる価値はあるわね」
「でも、失敗するかもしれない」
「その時は、その時よ」
父さんは考え込んでいたが、やがて頷いた。
「分かった。やってみよう。今後ギルドの方がいらっしゃったら、返事をしておくよ」
3 薬草店へ
翌日の昼。
営業の合間に、私と父さんは王都の薬草店を訪れた。
保存に使える薬草があるかもしれない。
古い建物。
入口には、乾燥した薬草が吊るされている。
少し不気味な雰囲気。
「失礼します」
店に入ると、薬草の匂いでいっぱいだった。
壁には、様々な薬草が並んでいる。
「いらっしゃいませ」
若い女性が出てきた。
黒髪、眼鏡。
14〜15歳くらいだろうか。
「あの、保存に使える薬草を探していまして」
「保存…ですか?」
女性は少し考えた。
「少々お待ちください」
4 薬草師との出会い
「誰だい?」
奥から、低い声が聞こえた。
杖をついた女性が現れる。
白髪で、黒いローブ。
鋭い目つき。
私は少し驚いた。
まるで、物語に出てくる魔女のよう。
「保存に使える薬草だと?」
「は、はい」
父さんが答える。
「師匠」
若い女性が声をかけた。
そして、私たちに説明してくれた。
「私の祖母です。この店の主で、私の師匠でもあります」
「初めまして」
私と父さんは、丁寧に頭を下げた。
祖母が、私を見た。
じっと。
「…ふむ」
「え?」
「この子、ただの子供じゃないね」
「目が違う。多くを知っている目だ」
鋭い人だ。
5 知識の交換
私は勇気を出して言った。
「食品を長持ちさせるには、空気になるべく触れさせないことが大切だと思います」
「ほう?」
「抗菌効果のある葉っぱで包んだり、薬草と一緒に保存したり、それと、塩や燻製も組み合わせれば」
ソフィアの祖母の目が興味深そうに光った。
「面白い。7歳で、その発想か」
「どこで学んだ?」
「本で…読んだり」
嘘ではない。
前世で、だけど。
「ふむ。複数の方法を組み合わせる、か」
「ソフィア、この子の話を聞け」
「はい、師匠」
ソフィアの祖母が奥から、何かを取り出した。
「保存なら、この薬草だ」
乾燥した葉。
「この葉で包めば、防腐効果がある」
「すごい…」
「他にも、抗菌効果のある葉はいくつかある」
「それを組み合わせて使うのは、確かに良い考えだ」
私は嬉しかった。
認められた。
6 ソフィアとの出会い
若い女性が、改めて自己紹介してくれた。
「私はソフィア。師匠の見習いをしています」
「リナです。7歳です」
「7歳…すごいですね、そんなに詳しくて」
「ソフィアさんこそ、薬草の知識が」
ソフィアは優しく微笑んだ。
「食材も、薬になるんですよね」
「はい。そして薬草も、料理に使えます」
「面白い…もっと教えてください」
「私も、薬草について学びたいです」
同じことに興味を持つ人と話すのは、楽しい。
7 新しい挑戦の始まり
ソフィアの祖母が言った。
「では、こうしよう」
「薬草はこちらで提供する。形になれば、うちでも販売したい」
「ありがとうございます」
父さんが深く頭を下げた。
「ふん。面白いものができそうだ」
ソフィアも言った。
「私も、お手伝いします」
「本当ですか?」
「はい。一緒に、研究しましょう」
「お願いします!」
私は嬉しかった。
新しい友人ができた気がする。
8 それぞれの思い
保存食。
前世の知識を活かせる。
でも、この世界の技術と組み合わせないと。
ソフィアさんと、あのおばあさんの力があれば、きっと。
ソフィアは思っていた。
リナさん、7歳なのにすごい。
食と薬、一緒に研究できたら。
私も、もっと成長できるかも。
ソフィアの祖母は、窓の外を見ていた。
面白い子だ。
あの目…何かを知っている。
ソフィアにも良い刺激になるだろう。
9 エンディング
「では、また明日」
「はい。よろしくお願いします」
私と父さんは薬草店を出た。
夕日が、王都を照らしている。
新しい挑戦が始まる。
そして、新しい出会い。
ソフィア。
そして、魔女と呼ばれる薬草師。
きっと、良い仲間になる。
そう思った。




