28 2つの国の架け橋
1 申し出
滞在最終日の前日。
夕方、エレオノーラは現王に謁見を求めた。
「陛下、お願いがございます」
「何かね、エレオノーラ王女」
「明日、帰国の前に…先王陛下にもご挨拶させていただきたいのです」
現王は少し驚いた様子だった。
「先王に?」
「はい。両国の友好のため、礼を尽くしたいと」
エレオノーラは真剣な目をしていた。
「分かった。先王の予定を確認して、明朝お返事しよう」
「ありがとうございます」
客室に戻ると、侍女が尋ねた。
「殿下、本当によろしいのですか?」
「ええ。きちんとお別れを言いたいの」
「お別れ…」
「そうね。公式に、ね」
エレオノーラは窓の外を見た。
2 許可
翌朝。
エレオノーラの客室に、使者が訪れた。
「エレオノーラ王女、先王陛下との面会が許可されました」
「本当ですか!」
「はい。先王陛下より、本日昼、昼食を共にしてはどうかとのご提案がございました」
「昼食を…」
エレオノーラは驚いた。
謁見ではなく、昼食。
先王陛下の優しさを感じた。
「ありがとうございます。ぜひ、お受けいたします」
使者が去った後、エレオノーラは侍女に言った。
「昼食だって」
「先王陛下からのご提案ですか」
「ええ。お気遣いいただいて」
「謁見の間よりは、お話しやすいでしょうね」
「ええ。少しは、お話しできるわ」
3 先王の準備
前日の夕方。
先王の離れに、使者が訪れていた。
「先王陛下、隣国の王女が、明日帰国の前にご挨拶を希望しております」
「王女が? 私に?」
「はい。国王陛下より、先王陛下のご都合を伺うよう仰せつかりました」
先王は少し考えた。
エレオノーラ王女。
あの店の、彼女だ。
「では…昼食を共にしてはどうだろう」
「昼食を?」
「ああ。謁見よりも、話しやすいだろう」
「承知いたしました。お伝えいたします」
使者が去った後、先王は微笑んだ。
少しは、話ができるかもしれない。
4 昼食会
昼。
王宮の小さな食堂。
謁見の間ほど格式張っていないが、それでも公式の場だ。
テーブルには、2人分の席。
少し離れたところに、侍女と給仕が控えている。
先王が到着した。
しばらくして、エレオノーラが入室する。
正装ではないが、きちんとした服。
「先王陛下、お目にかかれて光栄です」
「ようこそ、エレオノーラ王女」
2人が席に着く。
顔を見た瞬間。
お互いに確信した。
やはり。
間違いない。
でも、表情は変えない。
5 昼食
料理が運ばれてくる。
王宮の料理。
豪華だが、堅苦しい。
「我が国の滞在はいかがでしたか?」
「とても素晴らしい経験をさせていただきました」
エレオノーラは少し声を落とした。
「特に…民の暮らしに触れる機会がありまして」
「ほう。それは良いことだ」
先王も声を落とす。
「どこで?」
「王都の…ある場所で」
侍女たちには、聞こえないくらいの声。
「素晴らしい料理を、いただきました」
「それは何より」
「定食、というものです」
「定食…」
先王は微笑んだ。
「庶民の料理だね」
「はい。素朴ですが、心に響きました」
6 2人だけに分かる会話
食事をしながら、2人は小声で会話を続けた。
「あの場所で、多くを学びました」
「民を知ることは、統治の基本だ」
「はい。本で学ぶだけでは、分からないことが」
「その通り」
先王は優しく言った。
「君は、良い統治者になる」
「…本当に?」
「ああ。民を知ろうとする心がある。それが何より大切だ」
エレオノーラの目に、少し涙が滲んだ。
「ありがとうございます」
7 別れ
昼食が終わった。
「本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ。良い旅を」
最後に、2人の目が合った。
無言で、多くを語る。
「また…」
エレオノーラが小声で言った。
「必ず」
先王も小声で答えた。
エレオノーラが部屋を出る。
先王が、その後ろ姿を見送った。
8 それぞれの思い
廊下を歩きながら、エレオノーラは思った。
ありがとうございました、先王陛下。
言えないこともたくさんあったけれど。
でも、伝わったと思います。
食堂で、先王も思っていた。
立派な王女だ。
民のことを、本気で考えている。
良い女王になる。
9 陽だまり亭への感謝
午後。
エレオノーラは客室で、手紙を書いていた。
陽だまり亭宛て。
差出人の名前は書かない。
「殿下、お荷物の準備ができました」
「ありがとう」
(素晴らしい料理と、温かい雰囲気をありがとうございました。また必ず訪れます)
手紙を封筒に入れる。
「これを、届けてもらえる?」
侍女に手紙を渡した。
10 エピローグ
エレオノーラは帰国の途についた。
馬車に乗り、この国の国王が見送る。
馬車が動き出す。
エレオノーラは窓から外を見た。
また来ます。
あの店に。
そして、先王陛下に。
その日の夕方。
陽だまり亭に、1通の手紙が届いた。
差出人の名前はない。
でも、丁寧な字。
「素晴らしい料理と、温かい雰囲気をありがとうございました。また必ず訪れます」
私と父さんは、手紙を読んだ。
「あのお嬢様からかな」
「きっとそうだね」
「また来てくれるって」
「ああ。良かったな」
「うん」
私は笑顔で答えた。
窓の外には、夕日が沈んでいく。
温かい光が、店を照らしていた。




