27 それぞれの秘密
1 外出の準備
数日後。
エレオノーラの客室。
夕方近くになり、エレオノーラは支度を始めた。
今朝、侍女と護衛の騎士には伝えてある。
夕方、あの店に行くと。
侍女が変装用の服を用意してくれていた。
質素だが、清潔な商人の娘風の服。
「殿下、準備ができました」
「ありがとう。騎士には?」
「今朝お伝えした通り、遠くから見守るとのことです」
「今日は、1人で行くわね」
「はい。私は少し離れた場所で待機しております」
エレオノーラは服を着替えた。
鏡を見る。
今日は、1人で店に入る。
もっと自由に、店の雰囲気を感じたい。
王宮の廊下。
護衛長が待っていた。
「殿下、お気をつけて」
「ええ。いつものように、遠くからお願いね」
「承知しております。本日も万全の体制でお守りいたします」
エレオノーラは王宮を出た。
夕暮れが近づいている。
ちょうど、店が夕方の営業を始める時間だ。
2 再訪
陽だまり亭。
夕方の営業が始まる時間。
私が店に出る準備をしていると、扉が開いた。
「こんにちは」
エレオノーラだった。
今回は1人。
侍女は、遠くで待機している。
より自然な変装。
商人の娘のように見える。
私は心の中で思った。
また来た。
今回は1人だ。
店の中を見回すエレオノーラ。
先王陛下の姿を見つけ、目が合う。
「また来たね」
「はい。昨日の料理が忘れられなくて」
「それは良かった。どうぞ」
エレオノーラは、先王の向かいに座った。
3 魚醤の話題
料理を待ちながら、2人は会話を始めた。
「この店の料理は、何か特別な調味料を?」
「ああ。魚醤というものを使っている」
「魚醤…」
エレオノーラの目が少し輝いた。
「私の国でも使われています」
「そうなのか」
「庶民の間では一般的です。でも、宮廷では…」
言いかけて、エレオノーラは口を閉じた。
また言ってしまった。
宮廷、と。
先王は、心の中で思った。
やはり。
この若い女性は、宮廷を知っている。
4 料理の提供
私は料理を運んだ。
「今日は、魚醤を使った炒め物もあります」
「ぜひ、いただきます」
エレオノーラは、カトラリーを取った。
1口食べる。
「…懐かしい」
「故郷の味に似ています」
「君の故郷は?」
「あ…海に近いところです」
先王は頷いた。
隣国は、海に近い。
確信が、さらに深まる。
5 統治についての会話
食事をしながら、会話は続いた。
「統治について、学んでいます」
エレオノーラが言った。
「それは良いことだ」
「でも、難しいです。どうすれば、良い統治者になれるのか」
先王は、優しく微笑んだ。
「民を知ることだ」
「民を?」
「本で学ぶだけでは足りない。こうして、直接触れること」
エレオノーラは、真剣な目で聞いている。
「だから、おじいさまはここに?」
「ああ。ここで、私は民の1人として過ごせる」
「素晴らしい」
エレオノーラの声に、感動が滲んでいた。
6 責任と自由
「将来、大きな責任を負うことになります」
エレオノーラが、静かに言った。
「不安かい?」
「はい。本当に、民を幸せにできるのか」
先王は、少し考えてから答えた。
「その不安こそが、大切だ」
「…」
「自信満々な統治者ほど、危うい」
「不安だからこそ、学ぼうとする。民を知ろうとする。それが、良い統治者の第1歩だ」
エレオノーラの目に、涙が滲んだ。
「…ありがとうございます」
誰にも言えなかった不安。
父にも、侍女にも。
でも、この老人は理解してくれた。
7 互いの確信
先王は、心の中で確信していた。
この若い女性は、エレオノーラ王女だ。
間違いない。
だが、聞くまい。
彼女にも、自由が必要だ。
ここでは、お互いただの人間として。
エレオノーラも、心の中で思っていた。
このおじいさまは…
統治の経験がある。
深い知恵がある。
もしかして、この国の先王?
でも、聞かない。
ここでは、お互い自由だから。
8 リナの観察
私は、2人を見ていた。
お互いに、分かっている。
相手の正体。
でも、聞かない。
それが、優しさなんだ。
尊重し合っている。
そう、感じた。
9 別れ
食事を終えた。
「ごちそうさまでした」
「また来るといい」
「はい。必ず」
エレオノーラと先王の目が合う。
2人、無言で見つめ合う。
何も言わない。
でも、理解し合っている。
先王が、静かに微笑んだ。
「良い統治者になるよ、君は」
「…ありがとうございます」
エレオノーラは、深く頭を下げて店を出た。
10 エピローグ
店の外。
エレオノーラは、空を見上げた。
あのおじいさまは、先王陛下だ。
きっと。
だから、あんなに深い言葉を。
ありがとうございます。
店の中。
先王は、窓から外を見ていた。
エレオノーラ王女。
きっと、素晴らしい女王になる。
民を愛し、民に愛される。
私は、厨房で料理を洗っていた。
料理が、2人を繋いだ。
それが、嬉しかった。




