25 隣国からの客人
1 使節団の到着
王宮に、隣国の国賓が到着した。
第1王女、エレオノーラ。
18歳の若き王女が、外交使節として訪れたのだ。
護衛の騎士たちと共に、謁見の間に入る。
「ようこそ、エレオノーラ王女」
国王が歓迎の言葉を述べる。
「お招きいただき、光栄です」
エレオノーラは礼儀正しく頭を下げた。
18歳。
美しく、気品がある。
でも、その目には少し退屈そうな光が見えた。
父である隣国の現王の名代として。
次期女王としての外交経験を積むために。
この訪問は、彼女にとって重要な任務だった。
同じ頃、セバスティアン料理長は、厨房で準備に追われていた。
今夜の晩餐会。
最高の料理を出さなければならない。
2 豪華な晩餐会
その夜、王宮の大広間で晩餐会が開かれた。
テーブルには、豪華な料理が並ぶ。
高級食材。
複雑な調理。
美しい盛り付け。
どれも、完璧だ。
エレオノーラは、料理を1口食べた。
「美味しいですね」
礼儀正しく言う。
でも、心の中では思っていた。
また、同じような料理。
美味しいけれど。
飽きてしまった。
隣国でも、自国でも。
宮廷の料理は、どこも似ている。
貴族たちとの会話も、形式的だ。
「エレオノーラ王女、お国の様子はいかがですか?」
「はい。父が良い統治を心がけております」
当たり障りのない答え。
笑顔で対応する。
でも、心は退屈だった。
3 侍女との会話
客室に戻ると、エレオノーラは大きく息を吐いた。
「疲れた…」
「お疲れ様です、殿下」
侍女が優しく声をかける。
「いつも同じような晩餐会。美味しいけど、心が躍らない」
「殿下は、お父様の仕事も手伝われてお忙しいですものね」
そうだ。
エレオノーラは、父の仕事を手伝っている。
統治の実務。
外交文書の確認。
民からの嘆願書の整理。
次期女王として、学ぶべきことは多い。
「だからこそ、たまには普通の人として、過ごしたい」
父は自国に残っている。
1人で異国の地にいる。
だからこそ、余計に窮屈に感じるのかもしれない。
「そういえば…」
「何?」
「この王都に、評判の店があるそうです」
侍女が話題を変えた。
「評判の店?」
「『陽だまり亭』という定食屋。庶民の店ですが、すごく美味しいと」
エレオノーラの目が輝いた。
「庶民の店…どんな料理なの?」
「素朴だけど、心に響く味だとか。先王陛下も通われているというまことしやかな噂もあるそうで」
「先王陛下が?」
この国の先王が、庶民の店に?
それは興味深い。
4 決意
エレオノーラは考えた。
先王陛下も通う店。
庶民の、素朴な料理。
統治を学ぶためにも、民の暮らしを知るべきだ。
父もいつも言っている。
「民を知らずして、統治はできない」
それに。
行ってみたい。
自由に、普通の人として。
「ねえ」
「はい?」
「明日、その店に行きましょう」
「え!?でも、殿下が庶民の店になんて…」
「変装すれば大丈夫よ」
「しかし、警護が…」
「密かについてきてもらえばいい」
エレオノーラは真剣だった。
「お父様が知ったら…」
「内緒よ。私だって、たまには自由が欲しい」
「…分かりました。でも、絶対に無茶はしないでください」
「約束するわ」
侍女も、エレオノーラの気持ちを理解してくれた。
でも、心の中では少し複雑だった。
休みの日に、1人でゆっくり行くつもりだったのに。
殿下と一緒だと、気が抜けない。
でも。
殿下が楽しみにしている。
それはそれで、嬉しいことだ。
5 準備
翌朝。
エレオノーラは、侍女が用意した質素な服に着替えた。
でも、清潔で丁寧な作り。
商人の娘くらいに見えるだろう。
鏡を見る。
「これなら、大丈夫そうね」
「でも、お顔が…」
「気をつけるわ」
顔立ちは隠せない。
でも、庶民の中に紛れれば、気づかれないはずだ。
護衛の騎士に指示する。
「殿下、本当に行かれるのですか?」
「お願い。遠くから見守っていて」
「…承知しました」
護衛の騎士は、下町に出かけるという話を聞いてすぐに止めたものの、エレオノーラからの懇願に膝を屈してしまった。
護衛の目を盗んで一人で行かれるよりは、予め訪問先を聞いて、遠くからでも護衛した方がまだマシだと判断した騎士は、心配そうだったが了承した。
6 陽だまり亭へ
王都の下町。
エレオノーラは、侍女と2人で歩いた。
賑やか。
商人たちの声。
子供たちの笑い声。
宮廷とは全然違う。
活気がある。
「ここね」
陽だまり亭の前に着いた。
「質素な店ですね」
「でも、温かい感じがする」
木造の小さな建物。
看板には「陽だまり亭」と書いてある。
中から、美味しそうな香りが漂ってくる。
エレオノーラは深呼吸した。
そして、扉に手をかける。
「行きましょう」
「はい」
どんな料理が出てくるのだろう。
どんな人たちがいるのだろう。
楽しみだった。
エレオノーラは、扉を開けた。




