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23 庭の食卓

1 帰還と報告


港町から戻り、陽だまり亭に着いた。

夕方だった。


「ただいま」

「おかえり!」


母さんが笑顔で迎えてくれた。


「リナ、大丈夫だった?」

「うん。楽しかったよ」


私は魚醤の瓶を見せた。

母さんは優しく頷いた。


「これが、王妃様が使っておられた調味料。これで、先王陛下にお喜びいただけるかもしれないわね…」


父さんが言った。


「まずはセバスティアン料理長に手紙を書こう。魚醤を手に入れたこと、訪問したいこと」


私たちは手紙を書き、王宮の使者に託した。

その夜、私は久しぶりに自分のベッドで眠った。

やっぱり、家は落ち着く。



2 翌日、王宮へ


翌朝、王宮から返事が来た。


「午前中に来てほしい」


セバスティアン料理長からだった。

私たちは急いで支度をした。


「行ってきます」

「気をつけてね」


母さんが見送ってくれた。

王宮への道は、もう慣れたものだ。

厨房に着くと、セバスティアン料理長が待っていた。


「リナ、トム、よく来た」

「おはようございます」


私は魚醤の瓶を取り出した。


「これが魚醤です」


セバスティアン料理長は瓶を手に取り、香りを嗅ぎ、一滴指に垂らした。


「独特な香りだが、旨味が強い。すぐに先王陛下のところへ行こう」


私たちは離れに向かった。



3 思い出の味を再現


離れの小さな厨房を借りた。


「さあ、作ろう」


父さんが袖をまくる。

私たちは協力して料理を作り始めた。

魚醤を使ったスープ。

魚醤で味付けした煮物。

野菜の炒め物にも、ほんの数滴。


「少量でいいんだよね」

「ああ。入れすぎると、香りが強くなりすぎる」


父さんが慎重に調整する。

料理に、深みが出る。

旨味が増す。


「できた」


私たちは料理を盆に並べた。

部屋に香りが広がる。

王妃様も、この香りを好きだったんだろうか。



4 先王の反応


先王の私室に料理を運ぶ。


「王妃様がお好きだった味を、再現してみました」


私が言うと、先王は驚いた表情をした。


「これは…」


先王が料理に顔を近づける。

香りを嗅ぐ。

目を閉じる。


「この香り…」

「妃が喜んでいた、あの香りだ」


先王の声が震えていた。

箸を取り、スープを1口。


「…」


先王は何も言わない。

ただ、もう1口、また1口。


「懐かしい…」


ようやく口を開いた。


「妃が笑顔で食べていた、あの味だ」


煮物も、炒め物も、少しずつ食べる。

私は嬉しかった。

食べてくれている。

でも。

先王は数口で箸を置いた。


「美味しい。本当に美味しいよ」

「でも…やはり、これ以上は…」


私の心が沈んだ。



5 リナの決断


やっぱり。

味の問題じゃない。

先王陛下は1人で食べている。

思い出すのは、亡き王妃様のこと。

それが、辛いんだ。

私は決心した。


「陛下、お願いがあります」

「何だい?」

「一緒に、食事をさせてください」


先王が驚いた顔をする。


「え?」

「私と父さんと、3人で」

「お、おい、リナ!身分が…」

「料理は、誰かと食べるから美味しいんです」


私は真剣に言った。


「1人で食べても、楽しくないんです」


先王は少し考えてから、静かに微笑んだ。


「…ありがとう」



6 庭の食卓


侍女たちが、中庭に食卓を準備してくれた。

木陰に、3人分の席。

風が気持ちいい。


「こんな風に、誰かと食事をするのは久しぶりだ」


先王が座りながら言った。


「私も嬉しいです」


私たちは一緒に食事を始めた。


「陛下、このスープ、どうですか?」

「美味しいよ。魚醤の旨味が効いている」

「王妃様も、こんな風に召し上がっていたんでしょうね」


父さんが言う。


「ああ…そうだね」


先王は懐かしそうに笑った。

会話をしながら食べる。

料理の話。

王妃様の話。

時々、笑い声も。

私は気づいた。

先王陛下が、どんどん食べている。

会話に夢中で、気づいていない様子。


「陛下、全部食べてます!」


私が言うと、先王は自分の皿を見た。


「え?」

「本当だ…いつの間に」


先王は驚いている。


「久しぶりに、美味しいと思った」


先王は目を細めた。


「いや、久しぶりに、食事が楽しいと思った」

「良かった…」


私は涙が出そうになった。



7 新たな問題


食事を終え、お茶を飲んでいる時。

私は言いにくいことを言わなければならなかった。


「でも…」

「どうした?」

「私たち、毎日は来られません」

「陽だまり亭の仕事もありますし」


先王は少し寂しそうな顔をした。


「そうか…そうだね。お前たちにも、日々の営みがある」


風が木の葉を揺らす。

誰も話さない。

私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



8 先王の提案


「では、私が店に行こう」


突然、先王が言った。


「え!?」


私は驚いて顔を上げた。


「陛下が、陽だまり亭に?」


父さんも驚いている。


「変装すれば、誰も気づくまい」


先王は真剣だった。


「でも、先王陛下が庶民の店に…」

「私はもう、退位した身だ」


先王は優しく笑った。


「ただの老人として、お前たちの店に行きたい。こうして誰かと食事をするのが、こんなに楽しいとは思わなかった。もっと、民と話をし、店の温かい雰囲気も感じてみたい」


父さんと私は顔を見合わせた。


「…喜んで、お迎えします」


父さんが頭を下げた。


「はい!」


私も笑顔で答えた。



9 エピローグ


陽だまり亭へ帰る馬車の中。


「まさか、陛下が店に来てくれるなんて」

「驚いたね」


父さんが笑う。


「でも、嬉しい」

「料理は、栄養だけじゃないんだね」

「うん。誰かと一緒に食べることが、大切なんだ」


私は窓の外を見た。

先王陛下が、店に来る。

常連客たちと一緒に食事をする。

きっと、楽しいだろうな。

想像するだけで、ワクワクする。

もっと美味しい料理を作ろう。

先王陛下にも、常連客にも。

みんなが笑顔になる料理を。

私は決意した。

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