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19 王宮への招待

1 日程の連絡


王宮からの招待状を受け取ってから3日が経った。

陽だまり亭は相変わらず忙しい。

でも、私と父さんの心は少しだけそわそわしていた。


「いつ連絡が来るのかな」


私が呟くと、父さんが優しく笑った。


「焦らなくても大丈夫だよ、リナ」


その時だった。

店の前に、また王宮の馬車が止まった。


「あ…」


私と父さんは顔を見合わせた。

立派な服を着た使者が店に入ってくる。


「陽だまり亭のトム殿、リナ殿はおられるか」

「はい」


父さんが前に出る。


「3日後の午前、王宮にて料理の実演をお願いしたい」

「3日後…分かりました」

「当日は馬車を差し向ける。朝8時にこちらへ」


使者はそれだけ言うと、軽く頭を下げて去っていった。


3日後。


あっという間だ。

私は胸がドキドキした。緊張と期待が入り混じる。


「リナ、大丈夫?」


母さんが心配そうに聞く。


「うん。父さんと一緒だから」


私は笑顔で答えた。

でも、本当は少し怖かった。

王宮。

王族。

宮廷料理人。

前世でも、テレビでしか見たことがない世界。

そこで、料理を作る。

大丈夫かな。



2 ヴァレリウス卿の助言


翌日、ヴァレリウス卿が陽だまり亭を訪れた。


「聞いたぞ。3日後だそうだな」

「はい」


父さんが頷く。


「王宮での振る舞いについて、少し助言しておこう」


ヴァレリウス卿は真剣な表情で言った。


「王宮では、礼儀が何より大切だ」


私たちは真剣に聞く。


「王族や貴族には必ず敬語を使え。王族には『陛下』『殿下』、貴族には『卿』『様』だ」

「はい」

「料理長には『料理長殿』と呼べ。自分からは話しかけず、質問されたら丁寧に答えろ」

「分かりました」


父さんが緊張した面持ちで答える。


「ただし」


ヴァレリウス卿は少し表情を和らげた。


「お前たちは料理人として招かれている。卑屈になる必要はない。堂々と、自分の料理を見せればいい」

「はい」


そしてヴァレリウス卿は、私を見た。


「リナ、お前は子供だ。それは弱みではなく、強みでもある」

「強み?」

「子供の純粋さは、時に大人の策略を超える。自然体でいろ」


私はその言葉の意味を考えた。

自然体。

いつも通りでいい。

そう言ってくれているんだ。


「ありがとうございます、ヴァレリウス卿」


父さんが深く頭を下げた。


「リナを守りながら、精一杯やってきます」



3 準備


前日の夜、私たちは準備をした。

服装を確認する。

私は清潔な普段着。

質素だけど、母さんが丁寧に洗濯してくれた。

父さんは料理人の正装。

エプロンも新調した。


「2人とも、行ってらっしゃい」


母さんが微笑む。


「いつも通りで大丈夫よ」

「うん!」


私は元気よく答えた。

夕方、常連客たちが励ましに来てくれた。


「頑張れよ、リナちゃん!」


ガレスさんが大きな声で言う。


「王宮の連中を驚かせてやれ」


グレゴリーさんも笑う。


「あなた前たちの料理は最高だ」


エリアスさんが真剣な顔で言った。

みんなが応援してくれる。

絶対に、いい結果を持ち帰りたい。

その夜、私はなかなか眠れなかった。

明日、王宮に行く。

どんな場所なんだろう。

どんな人たちがいるんだろう。

そして、どんな料理を作るんだろう。

考えれば考えるほど、目が冴えてきた。

でも、いつの間にか眠っていた。



4 王宮へ


朝8時。

約束通り、王宮の馬車が陽だまり亭の前に止まった。

簡単な作りの馬車。小さな王家の紋章が入っている。


「行ってきます」


私たちは母さんに見送られ、馬車に乗り込んだ。

座席は木製で、クッションは薄い。


「馬車に乗るの、初めて」


私が窓の外を見ながら言う。


「ああ」


父さんも少し緊張している様子だった。

馬車は静かに走り出した。

窓から外を見る。

最初は庶民の街。

見慣れた景色。

でも、だんだん変わってくる。

大きな家。

立派な服を着た人々。

舗装された道。

高級住宅街に入ったんだ。

そして、ついに見えた。

巨大な白い城壁。

金色の装飾。

門を守る衛兵たち。

王宮だ。

前世でも、こんな豪華な建物は見たことない。

まるでおとぎ話の世界みたい。

馬車は正門ではなく、横の通用門をくぐった。


「こちらは使用人や職人の出入り口です」


御者が説明してくれた。

裏手の中庭に馬車が止まる。

簡素な石畳の広場だ。


「降りてください」


使者に案内され、私たちは馬車を降りた。

白い石造りの建物。

使用人用の入り口が見える。


「こちらへ」


私たちは案内されるまま、建物の中へ入った。



5 王宮料理長との対面


廊下を歩く。

長い廊下だ。

壁は白く塗られ、清潔に保たれている。

大きな扉の前で止まった。


「こちらが厨房です」


扉が開く。

その瞬間、私は息を飲んだ。

広い。

陽だまり亭の厨房の、10倍以上はある。

巨大な竈が複数ある。調理台がいくつも並んでいる。

そして、数十人の料理人たちが働いている。


「ようこそ、王宮へ」


奥から、1人の男性が歩いてきた。

50代くらいだろうか。

白髪混じりの髪。

威厳がある。

でも、目は優しい。


「陽だまり亭の料理人、トムと申します」


父さんが丁寧に頭を下げる。


「娘のリナです」


私も真似して頭を下げた。


「ふむ。噂の料理探偵か」


男性が私を見た。


「私は王宮料理長、セバスティアンだ」

「よろしくお願いします」

「リナ殿、7歳とは思えぬ知識をお持ちだと聞いている」

「えっと…色々なことに興味があって」


私は少し恥ずかしくなった。


「素晴らしい。好奇心こそ、料理人の原動力だ」


セバスティアン料理長は優しく笑った。

思っていたより、厳しくない人だ。

少し安心した。


「実は、王宮には困っている問題がある」

「問題、ですか?」


父さんが尋ねる。


「それについては、明日改めて説明しよう」

「明日?」

「ああ。今日は王宮を案内し、設備を見ていただきたい」


セバスティアン料理長は私たちを手招きした。

問題?

王宮に、何か困っていることがあるんだ。

私の前世の知識が、役に立つのかな。



6 王宮見学


セバスティアン料理長は、私たちを厨房内に案内してくれた。


「こちらが主調理場だ」


巨大な竈が5つ並んでいる。

それぞれで違う料理が作られている。


「こちらは食材庫」


扉を開けると、見たこともない高級食材が並んでいた。

整然と管理されている。

温度も湿度も、きちんと調整されているようだ。


「すごく効率的ですね」


私は思わず言った。


「ほう?」


セバスティアン料理長が興味深そうに私を見る。


「それぞれの場所が、作業に合わせて配置されてます」


調理場は、作業の流れに沿って配置されている。

下ごしらえ、調理、盛り付け。

無駄な動きがないように設計されているんだ。


「…よく見ているな」


セバスティアン料理長は感心したようだった。

この子は本物だ、と彼が思っていることが、表情から分かった。

私たちは1時間ほどかけて、王宮の厨房を見学した。

すごい。

前世で見たプロの厨房に近い。

いや、それ以上かもしれない。

こんな環境で料理ができたら、どんなに楽しいだろう。



7 エピローグ


見学を終え、私たちは再び馬車に乗り込んだ。


「すごかったね、父さん」

「ああ。あれだけの規模は初めて見たよ」


父さんも興奮している様子だった。


「料理長が言っていた『問題』、何だと思う?」

「分からないけど…明日が楽しみだね」


私は窓の外を見た。

王宮が遠ざかっていく。

料理長さんは、意外と優しそうだった。

でも、王宮には何か秘密がある。

明日、何が待っているんだろう。

私は期待と不安で、胸がいっぱいだった。

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