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ピスカの森の魔女  作者: 秋月
一章 目覚めの魔女(0-22)
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0 プロローグ


 イニティウル王国に古くから伝わる逸話のうち、最も有名なものは、数百年以上前の王ととある少女がモデルとされている。

 それは、この国の民なら誰もが一度は耳にしたことがある有名な御伽話――



むかしむかしあるところに一人の少女がいました。


彼女はある時、森に迷った王子を助けます。


王子は森の林檎を盗んだとして、森の悪い魔女の怒りを買い、森から出られなくなる呪いをかけられていました。


悪い魔女はさらに少女にまで呪いをかけようと、一口齧ったら永遠の眠りにつく毒林檎を渡します。


ですが、機転を効かせた少女が毒林檎を魔女自らに食べさせることに成功すると、呪いは全て魔女へとかえり、彼女は森に閉じ込められながら永遠に眠り続けることとなりました。


そうして、国に再び平和が訪れ、人々はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


おしまい。  』



 要約するとこんな感じの話だ。

 悪い魔女に勇敢に立ち向かった二人に、イニティウルの民は幼き頃皆憧れを抱いたものである。

 王国内の領の催事における演劇にもなっているこの御伽噺は、イニティウル王家に関する逸話のなかで最も信憑性の高い話とされている。

 その理由は、イニティウル王国の北にある深い森――『ピスカの森』を見れば明らかだ。

 人一人通さず、鳥の声も獣の雄叫びもない静かで不気味なその森は、常に人々の頭の片隅にある恐怖の対象であった。言うことを聞かない子がいれば、そんな我が子に向けて母親は皆ピスカの森を指差し、こう言うのだ。


「良い子にしていないと、ピスカの森の悪い魔女が目覚めちゃうわ」


 ――と。






 


 ……でも、真実はどうだったのだろう。


 ふと、そんなことを思った少年がいた。


 少年は絵本の最後のページをめくる。魔女が孤独に眠る絵に、小さな鼓動を奏でる胸は微かな違和感を抱く。


 悪い魔女は最後には全ての呪いが跳ね返って、暗い森に閉じ込められながら永遠に眠り続ける宿命となった。魔法を使えないと少女たちを甘く見た代償がひどく高くついてしまったのだ。


 ざまあみろ。少年の知る人物は皆魔女を指さしてそう言う。


 でも、彼はそうではない。彼の頭は、疑問でいっぱいだった。


 ――どうして魔女はわざわざ王子を森に閉じ込め、少女を永遠の眠りにつかせようとしたんだろう。

 ――永遠の眠りにつく直前、自らに跳ね返る呪いを前に魔女はいったい何を思っていたのだろう。

 ――目覚めた魔女には、どんな感情が残っているんだろう。 


 少年は絵本を手に、塔の中にあるたった一つの小さな窓から森のある方角を眺める。

 無造作に伸びた黒髪が足首についた鎖を隠し、前髪から覗く赤い瞳が真っ直ぐと窓の外を見上げる。

 その時、深いワインレッドの瞳にきらりと月が反射し、彼の心の内を表すかのように煌めいた。



 ――知りたい、叶うことなら魔女の心を。



 そんな小さな興味が、全てのはじまりだった。



 これは御伽話に出てくる悪い魔女が呪いから目覚めた、その後の話。


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