沈澱
夏のホラー2025参加作品
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【重要なお知らせ】
7月5日放送の『セオドア鳴子のよるナル! 第333回 ゲスト・香月寝々(ホラー作家)』について、当該放送回のアーカイブ聴取は自己責任にてお願いいたします。
また、第333回の放送内容の一部ないし全部を動画サイトにアップロードする行為について、著作権の観点もさることながら、視聴者の安全を考慮し、ここに固く禁じます。
第333回を聴取したことによって生じたと思われる現象、症状、行動のすべてについて、当社は一切の責任を負いかねます。
以上
20××年 7月6日 平成ライデン出版WEB事業部
セオドア鳴子のよるナル!
この番組は、「一瞬一瞬の必死な生を」、平成ライデン出版の提供でお送りいたします。
はい、始まりました。「セオドア鳴子のよるナル!」、MCのセオドア鳴子です。
この番組は、平成ライデン出版が誇る作家陣を毎回ゲストに迎え、あんな話やこんな話を聞いて、作家に親しんでもらおうというインターネットラジオ番組でございます。
いやー、暑いですね。六月も暑かったですが、七月に入って一層暑くなりましたね。
どうですか、皆さん? 摂ってますか、水分?
僕はね、あのライチと塩のね、飲み物あるじゃないですか。名前が出せないんですけども。あれをね、よく飲んでますよ。
この間、あれの1.5リットルのペットボトル、これが某ドラッグストアで、セール価格で売ってるって聞きまして。
そのドラッグストア、全然家の近くにないんですけども、必死に探しまして。2キロぐらい先にあるのを発見したんですね。
よっしゃ、と思って。僕、今車持ってないから徒歩でね、夕方行ったんですよ。暑いから、日中は。
期間限定価格って書いてあって。次いつ来れるか分かんないし、ってことで、気合い入れまして。四本買ったんですよ。しめて6キロ。
それで2キロを6キロ抱えて帰ったんですけども。もう夜だっていうのにホント暑くて。
もう熱中症寸前まで行きましたよ。おかげで、帰ったら即一本空いちゃいましたね。
まあ、本当に熱中症になるよりかはマシなので……。
皆さんもね、部屋の中で熱中症になることもあるので、是非ね、飲み物を飲みながらでもこのラジオを聞いていただけると、安心です。
という感じで、まあ、どういう感じだって話ですけども、今夜も一時間やって行きましょう!
はい、今夜のゲストは第333回というゾロ目の回にふさわしい、こちらの先生です。
来月、グレイトフルデッド文庫より初の短編集『澱』が発売されます、ホラー作家の香月寝々先生です!
香月先生、およそ一年ぶりですけども、いかがですか?
「こんばんはー、香月です。そうですね……、とっても緊張していますー」
三度目のご出演ですけども、緊張されていますか。
「そうですねー、前回があんなことになってしまったのでー……。正直、もう呼ばれないかと思っていましたー」
まさかのアーカイブ削除でしたものね……。本当にあれはね、僕もえらいことになってしまって……。
「その節は本当にご迷惑をおかけしました」
今回は大丈夫ですよね? そんな話にはならないですよね?
「はい、大丈夫だと思います。確約はできないですけどー」
いやいやいや、できないんかい! 本当に大丈夫ですか!?
「するお話次第というか、そういうところがあるので……」
まあまあまあ、ではお蔵にならないように祈りながら、後ほどたっぷりと聞かせていただきましょう!
はい、ということで。
今夜は初の短編集『澱』が発売されますホラー作家の香月寝々先生に来ていただいています。ここからは先生に、新作についてたっぷり語っていただこうと思います。
では寝々先生。
「はい」
今回の短編集ですが、どういった作品が収録されているんですか?
「そうですね。これまで平成ライデンさんの雑誌で書かせてもらった短編を中心に収録してもらっています。書下ろしも一本だけあって、それが表題作の『澱』ですね」
オリ、ですか。
「はい。さんずいに殿っていう字を書く『澱』です。液体の底に溜まった淀みとか、そういう意味なんですけども」
そう聞くと何だかオドロオドロしいような印象ですね。
「内容もそんな感じですね。濁った暗い水底にある何か、判別のつかない何か。そういうものをイメージしたタイトルになっています」
内容は水にまつわるお話になっているとか。
「はい。今回7本の短編を収録しているんですけど、4本が何らか水に関わるお話になっています。『澱』もその内の一つですね」
やっぱり、幽霊と言えば水場ですもんね。
「……あー、そうですね。水に寄り付くというところはありますよね。そうか、確かにそうですよね……、うん……」
おおっと、何か引っかかるようなことでもありました?
「いえ、その、執筆中に体験した話なんですけど……、これって話していいのかな……。あ、ダメですか。バツですか」
ブースの外から担当さんが腕でバツを作ってらっしゃいますね。これはまたお蔵になってしまうようなお話なのかな?
おや、でも背後からうちのプロデューサーのQが、マルを出してますね。
……えー、ちょっと審議中でございます。
寝々先生、その間に本の宣伝のまとめの方をお願いします。
「え? あ、はい! えーっと、そんな感じで一生懸命書きました短編集『澱』は、今月の28日に発売されます。図書館で借りて……じゃなくて、ぜひ買って読んでくださいー」
はい、ありがとうございます。という感じなんですが……。
どうかな?
あ、OK。OK出ました、寝々先生。
「はい」
さっき言いかけていた、執筆中に体験した話、でしたっけ? これ、ちょっと話してみてもらえますか?
「あ、はい。じゃあ、その……、えっと、『澱』の執筆中に、あの、短編の方なんですけど……」
短編集全体じゃなくて、表題作の「澱」を執筆中に体験された話ということで。
「はい、そう、それですー。その時に起こった話なんですけど」
執筆はパソコンでされてるんですよね。
「そうですね。あんまりそれ以外の機能って使いこなせてないんですけど。メールと、調べ物のインターネットくらいで……。ともかく、そうして机に向かってる時のことで」
はいはいはい。
「わたし、執筆中は白湯を飲むようにしてるんです。あんまり味がついたものを飲むと、集中が途切れちゃうっていうか、そういう気がしてー」
そうなんですね。白湯ですか……。
「あ、おばあちゃんみたいって思いました?」
ええ、少し。ハハハ、すみません。
「よく言われるんです。仲のいい橘田先生や鬼柳先生なんかからも。『アラサーでおばあちゃんやってたら、本当に年取った時にどうするんだ』って」
夜8時に寝て朝4時に起きてらっしゃるんですよね?
「はいー。それもおばあちゃんみたいだって」
いやいや、健康的だと思いますよ。夜更かしするよりかは。
「夜は色々出てきますからねー。早めに寝てしまうのがいいんですよ」
おや、そういう話もおありになるんですね。
「ええっと、そうですね。あれは前に鬼柳先生たちとカラオケに行った時の話なんですけどー」
いえいえ、すみません。今は執筆中の体験談の方をお願いします。
「あ、そうでした。それで、えーっと……」
執筆中は白湯を飲まれてて、というところまでお話ししてますよ。
「はい、そうなんです。執筆中はよく白湯を飲んでて、『澱』の時もそうしてたんですね。こんな小さな湯飲みに入れて」
手のひらに収まるくらいの小さいやつですね。
「それで、一口飲んで、ちょっと置いておいたんです。原稿がよく進む日で」
筆が乗ってたんですね。
「そう、そんな感じです。筆が乗ってて、っていう時は、わたしちょっと危ないんですけど」
危ない?
「夢中になっている時、集中している時って、つかれているっていうか……あ、取り憑かれてるっていうか、そんな感じだと思うんですね。そういう時って、どうもわたしの体を使って、何かがパソコンに文字を刻みつけてるようなそんな感触があるんです」
幽霊とかそういうのに、乗っ取られてるってことですか!?
「乗っ取るっていうか、ちょうどパソコンと一緒なんです」
ぱ、パソコン? ちょっと話が見えないんですけど……。
「わたしはパソコンを使って原稿を書くけれど、それはパソコンが考えているわけではない。パソコンは機能としてわたしが打った文字を表示してくれたりするけれど、あくまで道具で、わたしが考えて文章を打ち込んでいるじゃないですか」
はい、そうですね。
「それと一緒で、わたしという体の機能を使って、何かもやっとしたものが書き込んでいるんです。文章を考えたりは、わたしの機能で、それを出力させている、みたいな……。伝わってますかね?」
ええっと、何かもやっとしたものが、寝々先生に取り憑いていて。
「はい、そうです」
それが寝々先生の文章力を使って、具体的なものに出力している感じがする、と。そんな意味合いですかね?
「そうです、そうです! 鳴子さんすごいですね!」
え、いやあ、ハハハハハ、何人もの話を聞いてるから、こういう解釈には自信があるんですよ。
「今のわたしと鳴子さんのやり取りも、似たような感じですよね。わたしのもやっとした物言いを、鳴子さんがはっきりさせてくれたので……」
あー、はいはい……。え、僕、寝々先生に取り憑かれてるみたいなこと?
「そうかもですねー」
怖いなー、寝々先生だからあながち冗談に聞こえないんですよね。
それで、その『澱』の執筆中は集中されてたんですね。
「あ、そうだ。その話してたんだ……。はい、その日はよく集中してました。白湯を置きっぱなしにして、原稿に向かって、次飲もうとした時にはもうすっかり冷めちゃってて」
はいはい。
「それで口をつけようとした時、何だか違和感があって」
違和感、ですか?
「はい。飲んじゃいけないみたいな、そんな気がして。口から離して、湯飲みの中を見てみたんです。そしたら……、白くこう濁っていて」
濁っている?
「はい。埃でも入ったのかな、と思ったんですけど、そんなちょっとの量じゃなく淀んだ感じになっていて。流石に気味が悪いので、一回キッチンの流しに捨てたんですよ」
まあ確かに、濁った水を飲むのは勇気がいりますもんね。
「それで、もう一回白湯をくんで、仕事部屋に戻ったんです。それで一口飲んで、原稿に戻って。でも、今度はさっきほどは集中できなくて」
何かこう途切れちゃったんですね。
「はい。もう一口飲もうと思って湯飲みを手に取りました。今度はまだ温かくて、それを飲もうとした時、また同じような違和感があって」
さっきのと同じ違和感ですか?
「そうですね。飲んじゃダメだって思って、湯飲みをのぞいたらまた濁っているんです」
同じような、白い濁り方ですか?
「はい。そっくり同じでした。違うのは温度だけで。さっきは30分以上経っていたけど、今度は5分以内のことなので、埃とかそういうのではないはずなんです」
うわあ、何か不気味ですね……。
「はい。それで、湯飲みが悪いのかなって思って。また白湯を捨てて、今度はペットボトルのお水にしたんです。買い置きの、500ミリリットルのを出してきて。
それの蓋を開けて、一口飲んで、また原稿に向かったんですけど……。やっぱり、こんなことが続いたせいか集中できなくて、すぐにお水を見たんですね」
はいはいはい。
「そしたら、ペットボトルの中が真っ白に全部濁ってて。今度は蓋を閉めていたから、何かが入ったとかそういうのじゃ絶対にないんですよ」
えぇー!? それは驚きですね……。
「しょうがないから、それも捨てることにしたんです。勿体ないですけど、流しでジャーってしてたら、不意に声が聞こえたんです」
声、ですか?
「ええ……。男性の声だったんですよ。わたし一人で暮らしているのに。
耳元のような、頭の中に直接響くような、そんな声で、こう言ってたんです。
『何で飲まないんだよ』って」
うわぁ……。ゾッとしますね。
「それで、もうその日は原稿作業できなくなっちゃって。パソコンの電源を落として、わたしとしてはもう遅い時間だったので、そのまま寝てしまうことにしたんです。お風呂も入らずに」
お風呂もですか?
「はい。何だか、あの白く濁った水がシャワーから出てくるような気もしていましたから」
あー、何か不気味ですもんね、ここまできたら。
「後日、書いた原稿を見たら、全然わたしが書いたものとは思えない支離滅裂な文章が出来上がっていて。白湯のことがあった日に書いたところだけが、ぐちゃぐちゃだったんです」
正に、取り憑かれて文章を書いていた、と?
「それこそ、乗っ取られていたのかもしれません。そして、多分あの白湯や水を飲んでいたら、完全にわたしは自分を失くしてしまっていたかもしれないです」
いやあ、正に肝の冷えるお話でした。寝々先生、ありがとうございます。
「あの、ちょっと、いいですか……」
はいはい、何でしょう?
「わたし達の手元の水、白く濁ってませんか?」
え? いや、これ……うわっ!?
は? え? 大丈夫なんかこれ……、え!?
いやいやいやいや、マジ!? マジなのかよ……。
(以下略)
※ ※ ※
こんなこと書いちゃってまあ。
平成ライデン出版サイトのインターネットラジオコーナーに置かれた「重要なお知らせ」を見て、同社グレイトフルデッド文庫の編集者である山ノ内御幸は、額に手を当てた。
この「おことわり」は、リスナーの安全に配慮したものではない。ラジオを聞かせるための煽り文だ。御幸の目には、そうとしか映らなかった。
『セオドア鳴子のよるナル!』プロデューサーのQこと黒井は、元は辣腕の編集者だ。「面白ければ方法は問わない」という方針を掲げ、数々の企画を成功させてきた。WEB事業部に移ってからは、それに拍車がかかったように思う。
恐らく、Q――黒井はうかがっていたのだろう。もう一度、香月寝々を『よるナル!』に出せる機会を。
あの第333回の収録の日、香月寝々に体験談を語らせるか否かで、御幸は黒井と口論になった。ブースの外でかわされた会話の中で、黒井ははっきりとこう言った。
(ホラー小説なんて時代遅れなんだから。いっそのこと香月センセの体験談にリスナーが巻き込まれるような、双方向のエンタメに振り切ってさ、それで売上狙っちゃおうよ)
御幸は気色ばんだが、言い返せなかったのも事実だ。グレイトフルデッド文庫の売り上げは、平成ライデンの他のレーベルに比べると低い。
自己責任系の怪談は、怪談を聞き手に巻き込む。聞き手を怪談の登場人物にしてしまう。そのエンターテイメント性の高さは、ホラー小説の編集者たる御幸は重々承知している。
前回の香月寝々の出演回がまさしくそれだ。ラジオを聞いたものを当事者にしてしまう、そんな呪いの話だったのだから。
あれがアーカイブ削除せざるを得なくなったことを、黒井は惜しく思っていたに違いない。
しかし、だからと言ってこんな方法はとるべきではない。
香月寝々の話は、本物だからだ。
御幸も、呪いを受けた当事者の一人だ。交通事故に遭い、しばらく松葉杖生活だった。
だが、そんな話をしても黒井は納得しないだろう。そもそも、怪談の類をまったく信じていない。それを面白がる人がいるから取り扱うだけ、という姿勢だ。呪いの話をしても、「偶然でしょ」と返されるのがオチだろう。
(反論がないってことは、OKってことだよね。じゃ、ナルちゃんそういうわけだから――)
ブースの中に向けて腕で大きな丸を作る黒井の姿を見て、御幸は歯噛みした。
こんな売り方をしなくても、香月寝々は力のある作家だ。今回の『澱』だって、粒揃いの短編集なのだから、堅実にやったって売り上げは望める。
すべてはわたしの力の足りなさのためか。大きなため息を御幸は吐いた。
と、そこで手元のスマホが鳴る。着信表示は、香月寝々だった。
「はい、寝々先生。御幸です」
御幸さん、と電話口の香月寝々は少し安心したような声音でこちらの名を呼んだ。
『あの、前に出たラジオのことなんですけど……』
はい、と御幸は応じる。
『あれ、残念なんですけど、やっぱり流すのをやめにしてもらった方がいいかもしれないと思って……』
御幸は眉をひそめた。嫌な予感がする。
あの時、スタジオにあった水が濁っていたことで、スタジオは一時騒然となった。
御幸も、ブースの外から白っぽく濁った水の入ったコップを見ている。
だが、実際のところ、セオドア鳴子の水は最初から濁っていたのだ。
何故なら、あの時コップに入っていたのは、鳴子が好きな清涼飲料水であったから。
(えー、先ほどはお騒がせいたしました。僕の手元の水ですけど、水じゃなかったです。ライチと塩の例のあれでした……)
CM中に指摘され、鳴子はそんな謝罪をした。香月寝々もそれを受けてこう言っている。
(それで濁ってたんですねー。わたしもお騒がせしてしまって、申し訳なかったですー)
そう言いながらも、香月寝々は水に手を付けなかった。ジュースが好きではないのだろうか。
放送終了後、水の入ったコップを手に香月寝々は給湯室へと入っていった。捨てたのだろう。
好みでなかったのだろうとはいえ、そういう行動をとることは珍しかったので、御幸は一つまみほどの引っかかりを感じていた。
とは言え、この場では空騒ぎということになった。そのため御幸も、放送に際して「危険だ」という止め方はできなかった。
香月寝々の売り出し方として変な色を付けたくない、とは言ってみたが、黒井に「一回アーカイブ削除になるような話をしてるんだから、もう手遅れだよ」と一蹴されてしまった。
「どういうことですか? やっぱりアレ、呪いがうつってしまうんですか?」
いいえ、と香月寝々はそれを打ち消した。
『あのお話に呪いとかはないですよ。ただ、集めてしまうんですー』
何を? その問いに、香月寝々は「何でしょうね」と応じた。
『上手く言えないんですけど、霊みたいなものです。よく分からない感じなので、みたいなものとしか言えないんですが……』
香月寝々の「霊」という言葉の用法は独特だ。自作品でも日常会話でも「死んだ人間」を限定して「霊」ということはない。「目に見えない何か」を総じて「霊みたいなもの」と呼ぶことが多い。それを御幸はよく知っていた。
『とにかく、水が近くにあるところであのラジオをかけるのは、お勧めできないですねー』
霊は水場に寄る、というのが香月寝々の持論で経験則だ。それも、御幸はよく知っている。コップの中の水であっても、その中に集まってくるのだと香月寝々は言った。
『鳴子さんのジュースは、お塩が入ってたからセーフだったみたいですね。でも、わたしの手元にあったのは普通のお水だったそうで……』
やっぱり、と御幸は瞑目した。だから密かに給湯室で捨てていたのだ。集まってしまった何かが、沈殿していたから。
『ラジオ、今度は流してほしくて黙ってたんですけど、やっぱりよくないかなって思って……』
聞いた人のところでも集めちゃったら大変だから、と香月寝々は言い足した。
分かりました、掛け合ってみます。そう応じて、御幸は電話を切る。
黒井はどう反応するだろうか。「そのままアーカイブを残していいだろう」と言う目算は高い。「霊を集める話なんて、面白いじゃないか」なんて言って。
いっそのこと。御幸は目の前のパソコンに映し出されたサイトを見やる。第333回のアーカイブへのリンクが張られている。
この話を聞かせた水を黒井に飲ませてやろうか。そうして霊的なものを味あわせてやれば、少しは慎重になるだろうか。
いけない考えだ。御幸は頭を振って、その企みを追い出す。
あの日ブースの外から見た、白い澱のような何かが沈殿した水は、人間が飲んでいいものではないだろうから。
〈沈澱 了〉
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