守られる勇気
「あれ?李里そんな趣味あったのか?」
砂漠の人達にお礼を言って、気球に乗って、魔物が出なくなって落ち着いた時、大和が李里に話しかけた。
「遅っ!なんちゅう鈍さやねん。大和はホント奏しか見てへんのやな。」
「なんだと!お前も奏に手を出しただろ!」
二人が暴れるから気球が揺れる。
「そんな体力あったら、もっとマシな使い方してくださいよ。」
李里の疲れがピークに達した。珍しくキレてる。李里は静かにキレるからコワい。蔵刃は寝てるし。
雨が降って来た。
「蒼ー!炎消えちゃうよ!」
大和と掴み合ってる蒼が振り向いた。
「また魔法かけなあかんな。しんどくなって来たわ。」
「えー!このまま落ちちゃうじゃん!」
「奏がちゅーしてくれたら、元気出るかもな。ちゅーしてや。」
そこで大和が全力で、ビシィっと蒼にツッコミを入れた。ビシィっではなく、もっと鈍い音にも聞こえた。
「今ゴリッゆうたわ。もう力が出ないわ。どないしよ。」
「チッ。姉ちゃんキスでも何でもしてよ。」
弟がコワいんすけどー!!姉ちゃんに他の男にキスしろなんて言う?普通。
「しょうがないな。目をつぶって?」
って。蔵刃いつの間にか起きてるし!しかも、蔵刃、大和、蒼が目をつぶってんだけど!何これ。
《李里がしてよ。》
《はぁ!?面白そうだからいいよ。》
蒼の頬に軽ーく、チュッとキスする私の弟(笑)。絵面が合うのは、李里が女装だからだと自分に言い聞かせた。
ガバっと李里を抱きしめた痛い蒼くん。
他の二人…大爆笑。
「何しとんねん!ま、李里ならギリギリ有りやな。」
怪しく笑う蒼を青い顔しながら突き飛ばす李里。
「プクク…ヤッバ!マジ、ツボ入ったー!」
「あの蒼の顔ヤバかったな!抱きしめるか普通!」
…アンタたち絶対同じ事してたよ。しかも、大和ならお尻か胸を触ってた。…これ以上李里と大和は想像したくない。うん。リアルだ。
「ってか雨やんでるじゃねぇか。蒼残念だったな。」
まだニヤケながら蔵刃が蒼の肩に手を置いた。
「んなに笑うなや。意外と李里も抱き心地良かったで。」
わざとニギニギと手を動かす蒼に蔵刃はザッと離れていた。
「それにしても、あんまり魔物出ないね。」
「あ、そういえばこれもらったんだ。何か魔物避けになるんだとー。」
大和がお守りみたいなネックレスをしていた。変わった形をしてる。
「これ…懐かしい。」
興味を示した李里が、グイっとネックレスを引っ張った。
「ぐぇっ。ぐるじ!」
「あ。すいません。」
ビーダマみたいにキラキラしたエメラルドグリーンの猫の目みたいな形のデザイン。南の国の緑がかった海が光に反射してるのを思い出した。
「おーい。奏?そんなに俺の胸に抱きしめられたいか?」
「違うよ。キレイなネックレスだと思って見とれてたの。」
「あげねぇよ。これがあれば奏が俺に興味持つだろ?」
そう言うと、大和が服の中にネックレスをしまった。
「大和の癖に寒い事言わないでよね。」
とか言いつつ、私は動揺していた。
「おい!お前らも戦え!」
蔵刃の声で我に返る。
「あんま頑張りすぎんなよ。奏はすぐ無理するからな。」
ガシガシと頭を撫でられて、男らしくなる大和に寂しさを感じる自分もいた。
「大和に言われなくても自分の事は自分でできるよ。」
「だから、こっち手ぇいっぱいだっつの!奏!大和!サボるな!」
この世界で、恋なんてできないよね。きっと全て幻で、全て錯覚なんだから。
「奏危ない!」
ガキーンと、私の前で蔵刃が庇ってくれた。
「やる気が無いなら、戦うな。こっちが迷惑だ。」
「ごめん。」
「蔵刃言い過ぎなんちゃう?奏はまだこっちに来たばっかやで。」
恥ずかしい。考え事してたなんて言えない。みんなと、目を合わせられない。
「奏は俺が守るから、蔵刃にはこれから迷惑かけねぇよ。」
「弱い癖に恰好だけはつけんだな。言っておくが、奏といる時点でオレも守るって決めてるから。」
「当たり前やん。奏は女の子なんやし。男なら守るのが常識やで。」
「姉ちゃん顔上げろよ。大丈夫だから。」
本当は、怖かった。心細かった。みんなに見捨てられるんじゃないかってビクビクしてた。だから、今の言葉が心に染みたみたい。
「頑張りすぎんな。もっとオレら頼ってくれよ。一様男だし。」
「もう、それ以上言わないでー!」
「お!うるうるして来たでー。」
その時は、みんなといれるだけで幸せだった。