下を見たら…!空の旅
ヤバいハーレムだ。お色気ムンムンの踊り子さんたちの中に、一人オレがいる。
…女装してますけどね。
待合室に20人程待ってるところだ。半分以上は…人間じゃない。待合室と言っても、結構な広さがある。
「ねぇあなた。何か違うニオイがするわ。」
横にいる、妖精っぽい人が話しかけて来た。
「な、何か臭いますか?」
クスっ。
《男の人のニオイがするわ》
耳元で囁かれた。あなたからは甘い香りがします。
「シュリ!失礼な事言わないの!」
「ミアンには関係ないでしょ。」
何か双子みたいにそっくりな娘が近づいて来た。オレンジの髪と、緑の髪が綺麗だ。
「ごめんなさいね。シュリったらいつもこうなの。あら!アナタ…。」
もうほっといてくれ。
「肌が綺麗ね。スベスベじゃなーい。」
「ミアンだって、肌フェチのくせに。まだ、匂いフェチの方が良いわよねー?」
「は、はぁ。」
早く順番来てくれ。オレは9番。
「9番の方どうぞ。」
やっと呼ばれた。オレは走って部屋を出た。
…審査員が魔王一人。
「お前は、透き通るように白い肌をしてる。他の娘は小麦色の肌ばかりだ。」
踊り子募集で、肌を見てんのか。このオッサン。
「…ありがとうございます。」
笑顔が大事らしいから、にこりと笑った。
「決めた。この娘だ。」
「あのまだ踊ってませんけど。」
聞いてないし。
それからはトントン拍子。『妃にする娘にお前を見せて女らしくしたい。』とかで、今魔王の部屋に待たされてる。男のオレに見習う物なんてねぇだろ。
ガチャ。
「…。」
目が合ってしばしの沈黙。
「李里ぉ!」
「うわ。姉ちゃんくっつくな。」
げげ。魔王がガン見してる。
「姉妹だったのか。良いものだな。」
え。この人天然!?何か笑顔がホカホカしてるし。ってか本当に魔王か?
「李里。その恰好イタいよ?」
姉ちゃんがシテヤッタリみたいな顔しやがった。これは、オレにイタいって言われたの根に持ってたな。
「仲良しなら良かった。奏の部屋で李里に教わりなさい。」
「はーい。」
姉ちゃんがリッシーに叩かれた。リッシー便利だな。オレが叩けない分、姉ちゃんを叩いてもらいたい。
姉ちゃんが入って行く部屋は…。お姫様ベッドにがあった。こんなの用意してたなんて、魔王のヤツまるで、生まれてもない女の子の部屋を準備するお父さんだな。
「李里助けに来てくれたの?」
部屋に入るなり、目を輝かせる姉ちゃん。
「まず、姉ちゃんがここにいるって知らなかったから。」
「むー。そこは嘘でもそうだよって言ってよね。全くー女心が分かんないんだから。」
「女心は分かんないけど、女度は姉ちゃんに勝ってるらしいよ。全然嬉しくないけど。」
「小さい頃は女の子と間違えられたもんね。私は、男の子に間違えられた。」
姉ちゃんはボーイッシュな服しか着てなかった。ヒラヒラしたのは着たく無かったらしい。それが微妙にオレにまわるとは知らずに。
「それより何で女装してんの?まさかそんな隠れた趣味を持ってたなんて。」
「姉ちゃんに話すのめんどくさい。簡単に説明すると、大和先輩が砂漠にいるかもしれなくて、気球で行けば早いから、唯一気球を持ってるらしい魔王に気球を盗みに来た怪盗李里です。」
「女装が抜けてたね。で、ちょうど踊り子募集をしてたのか。ここの魔王は意外と優しいから普通に頼もうか?」
「…アイツ魔王なの?何か弱そうじゃん。」
「魔王って言われるようになったんだって。」
なんじゃそりゃ。偽物じゃん。色々な疑問を抱きつつ、オレも姉ちゃんに着いて行った。
「マオーちゃん。」
「何だ。ケンカでもしたのか?」
マオーちゃんって言われて、喜んでる。やべっ。あまりにも衝撃的で顔に出るとこだった。
「違うよ。あのね。李里の友達が砂漠にいて迎えに行きたいから、気球貸してだって。ダメ?」
イスから魔王が立った。何か急に怖く感じて来た。
「李里は優しい娘だ。奏も見習う為に着いて行け。」
「はい!ありがとう。」
オレに振り返ってウインクした姉ちゃんは、恐ろしかった。
気球乗り場にリッシーが案内してくれてる。
「何か上手く行き過ぎなんだよな。」
「考えすぎじゃない?わぁ見て見て!おっきーい!」
「あんま、おっきいとか叫ぶなよ。変態姉貴。」
頭にクエスチョンを浮かべてる姉ちゃん。ま、そん位がいいけどね。
「デハ、ヨイタビヲ」
リッシーが飛んで行った。
「蔵刃たちは来てくれないの?」
「…よく見たら?もう気球に乗ってるって。」
手をふる蔵刃と蒼。じゃんけんで行く人を決めてた。
「奏!無事やったんかいな。良かったわー。」
「その言い方だと、蒼の中では私死んでたでしょ!」
「奏。つかまれ。」
蔵刃に手をひかれて気球に乗る姉ちゃん。オレは蒼に手をひかれた。一人で大丈夫だっつの!
「よく合格できたな!おめでとう。」
「嬉しくないですから。」
「せやで。あの踊りは、ギリギリやったわ。」
「それがですね。踊り見て貰う前に合格って言われました。」
「そうだったの?」
魔法の炎があれば、気球の速度が速くなるらしい。蒼が炎の魔法が得意で、疾風の炎を呼び出していた。呪文を唱える真剣な眼差しが男のオレから見てもカッコ良かった。
「しもた!この呪文じゃなかったわ。」
「オレは、間違うのはこりごりだぜ。」
「あ!蔵刃私にあやまってないでしょ!」
「だーからー!あやまんの嫌いなんだよ!」
「いいから、早くしないと魔王に見つかりますってば。」
それぞれ、ごちゃごちゃ言いながら気球は出発した。
下を見たら落ちる。下を覗いたら落ちる。
「大丈夫やって!んなブツブツ言ってたら落ちるわ。ほら見てみ?」
「ひっぱらないでくださいー!!落ちるー!」
「ちょっと!李里暴れないでよ!揺れる!」
「そんなとき、『きゃー蔵刃!』ってオレに抱きつくぐらいねぇとな。」
「楓ちゃんにしてもらえば?フン。」
今度は酔ってきた。速くなるどころか、飛行機だろ。飛行機って表現はオーバーだけど。
「綺麗な景色ー。」
「姉ちゃんよく景色見えるね。速くて見えないだろ。」
「ファッハッハ!李里こっちが綺麗やでー!」
「無理矢理下見させないでくださいよ!」
目が回りそうだ。
「みんな伏せろ!」
バキッバシュッ!
空の魔物が襲いかかる。ってか穴開けられたら終わりだろ。
こうしてこの世界の初めての空の旅は始まったばかりだった。