自分達の世界に帰る呪文
やっと帰れる。そう思ってたのに。
「やっと会えましたね。」
「会いたいとかどうでもいいから!ここどこ!?」
約30分程前。私と李里と大和は、自分達の世界に戻るため斬兎に呪文をかけられていた。何やら、最後に蔵刃が何か言わないとかからないとかで手こずっていた。
「行けー!」
行けー!ではないだろ。とか思っていたら体が透明になった。
で、気がついたら、この岩で出来た城みたいなところにいた。この角が生えた男の人どこかで見たような。まだ服のセンスが良い。って違う!世界が変わってないし。瞬間移動じゃん。
「イケニエはあなたですね。」
「勝手に入ってすみません。すぐ帰りますから!」
「ふふっ。ふふふ。あっははー!」
ヤバい壊れたよ。
「奏に帰る場所なんてありません!私の妃となるのです!」
「…なりませんから。」
「な!なぜですか!?待ってたのにー!」
イケニエと妃は違うだろ。わけわからん。何か眠たい。
「奏?」
眠気が…オヤスミなさい。
ドゴッ。思いきり頭を強打して倒れた。
なんてね。私眠ったフリしてるだけなんだよね。
『いいか。もしもの時は、死んだふりして様子を見ろ。相手が油断したスキにこれだ。ワン!ツ!スリ!』
蔵刃に学んだ唯一の逃げる方法がある。
うっすら目を開けた。…何か観察されてる。ひょっとして、女の子を近くで見たの初めてとか?触ろうとして触れないみたいな。角が生えてておっかないのに、奥手でかわいいと思ってしまった。
パチッと目を開けると、ビクっと後退りした。取って食われるってことは無さそうだ。
「ねぇ。あなた名前は?」
「名前など無い。気がつけば魔王と呼ばれていた。」
魔王ってラスボス?いや、ラスボスは違う名前だったような。中ボス当たりだ。
「悪いか。『妃募集中』の貼り紙を貼れず、『村一番の美女をイケニエにしないと、村を滅ぼす』と書いてしまったのだ。」
「何それ!その嘘でこっちに被害が広がってんのよ!」
ボム。と何かが出てきた。ちっちゃい悪魔みたいな子達。魔王の使いのリッシーだ。
「魔王様どうかなさいましたか?」
「女とは難しい生き物だ。助けてくれ。」
「え?私怖がられてるの!?」
「まだ見たところ女とは言えません。成長が止まっています。」
「そうなのか?困ったな。」
「ちょっとー!何解説してんの?私女でしょうが!」
またビクビクされた。絶対私…怖がられてる。魔王に怖がられれる私って大魔王だったりしてね。
「部屋の隅っこに集まらないでよ。」
「今会議中だ。そこに座っていてくれ。」
高級そうなイスに座った。リッシー可愛いな。あの尖ったシッポ触りたい。でも、確か毒があるんだっけ。
ボム。とリッシーは消えた。
「奏には女になって貰う。」
「…何の冗談?私どう見ても女だよ。」
「色気が足りない。フェロモンが足りない。優しさが足りない。」
真っ直ぐ指差されて言われた。
「自分でも分かってるけど。だから?」
「今からこのメニューをこなしてもらう。」
紙を渡された。勉強したから何とか読める。
【これから女らしくなろう!
その1。佇まいはかかとをくっつけ、30度爪先を開く。膝と膝はくっつけ、お尻をしめて、背筋は天井から頭を紐で引っ張られたように、自然にのばそう!…Etc.】
「これクラシックバレエ選手希望訓練生ですか?」
「私も協力しよう。」
「…絶対ですか?」
魔王に深く頷かれた。早くここから出ないといけないのに、不覚にも女らしくなりたいと思ってしまった。
「いーたーいー!!」
「膝と膝をくっつけて下さい。手を離しますよ。」
O脚が簡単に直ってたら、誰も苦労しないよ。少しずつ離れる膝たち。でも何か悔しい。
「今日はここまでにしましょう。奏の部屋はこの部屋を出て左です。」
魔王が出て行った。きっと呆れたんだ。私は用意された部屋に行ってからも、練習をくり返した。
蔵刃から『行け!』って言われて、姉ちゃんと大和先輩は消えたのに、オレだけ残された。
「リサトが残ってるってことは、二人とも違う場所に行っただけでこの世界にいるはずだ。」
「帰す呪文を何で覚えてないの?奏ちゃんが危険な場所に行ってたらどうするのよ!蔵刃のバカ!」
ヒロインの楓がドンドンと蔵刃の胸板を叩いてる。
「李里、堪忍な。」
「蒼さん。過ぎてしまった事はしょうがないですから。」
「私も、まだ未熟なのにすみません。」
イライラする。堪忍?すいません?あやまって二人が帰って来たらいいけど、帰るわけでもない。
「オレ探して来ます。」
「リサト!待て。闇雲に探しても見つからない。」
くそ。元凶が仕切るなよ。でも正しいからしょうがない。
「せやな。それに。」
「私達をもっと頼って下さい。」
「李里くん。私も手伝うわ。」
オレはコクンと頷いていた。
どうやら俺は、砂漠に飛ばされた。歩いても歩いても砂、砂、砂。喉がカラカラになってきた。
ポケットを探ると、飴が一個入っていた。あと、チョコレートがベタベタに溶けて最悪だ。
「チクショー!ここどこだよー!」
俺の声は、響かない代わりに、魔物を呼び寄せていた。サソリがでかくなったのが出た。胸ポケットにはナイフ。
「来やがれ!」
こんなナイフで何ができる?ただ、中心に向かってナイフを投げた。
ドサリ。
倒したけど、ナイフを抜き取らないといけない。また動き出したら終わりだ。こめかみに汗が落ちる。
そっと近づき引き抜いた瞬間、巨大サソリがエビの様に一度跳ねた。それから動かない。
足がガクガクして膝をついた。
「こんなみっともねぇ姿奏に見せなくて良かったぜ。」
奏。李里。無事でいてくれ。自分の危険よりも、それだけを願った。