合い言葉は『クルデリ』
ウルフについて行くと決意した。が、わずか一秒足らずで見失った。
んではなく。
俺自身がキラキラした花粉みたいな粉が舞い降りる花畑に、移動してた。この甘い香りに鼻がムズムズする。てか、酔って来た。
クスクス。
「誰?」
クスクス。クスクス。
周りから、笑い声が聞こえてくる。
「さぁて誰でしょう?」
「クスクス。あんまりイジメちゃ駄目よ。私が怒られるんだから。」
うわ。今の声、凛としてて…なんかもっと聞いていたい。とか、姿も見えない相手に思ってしまった。
「…妖精?」
ピタッとクスクス笑いがとまる。そして、誰の声も聞こえなくなった。そして、キラキラした粉も降らなくなった。
「あの…。誰かいますか?」
「合い言葉は?」
「クルデリ。」
って、反射的に答えてしまった。敵だったら、やっぱヤバいよな。サァっと血の気が退いた。
「オレだオレ!」
「オレオレ詐欺は受け付けません。」
ジリジリと近づいて来たのは、蔵刃だった。他の三人は見当たらない。もし、変装とかしてたら…。ってか、今気付いたけど、合い言葉ってお互い言わねぇと意味ないじゃん!
「おい、何後ずさりしてんだよ。」
「あーっと、オレからも質問!合い言葉はどうやってできたましたか?」
「…。」
眉を潜める蔵刃。さらに、顔を近づけて来た。
ゴン!
と、スゴい勢いで頭突きされた。頭割れそう。
「李里生意気すぎ。」
「あなた偽者ですね。蔵刃はもっと野性的な匂いがするハズだ!」
ズビシっと蔵刃に指差した。ちょっと名探偵気分な感じ。
「はぁ。まぁ本物の蔵刃でも答えられないわよ。あいつバカだから、いつも肝心な事は忘れてるのよ。」
フワッと回転したら、その偽蔵刃は、妖精に変わった。ワイン色した羽を持つ、一言で言えば女王様みたいな妖精。オレの妖精のふんわりしたイメージとはかけ離れていた。
「ねぇ。ウルフ、素敵でしょ?」
「どういう意味ですか。」
「もうこんな時間だわ。また会いましょう。」
「ちょっ」
次の瞬間、元の場所に戻された。ウルフが、川辺で何かを作っていた。
「この香りは、やはりレイリアに会ったか。」
「あの、ワイン色の人がレイリアさんですか?」
「気をつけろ。」
何かを投げられた。木彫りの…下手すぎて分からない。
「これは妖精避けだ。何かされそうになったらこれを見せつけろ。気を引ける。」
手のひらサイズだし、一様持つか。よく見ると、鳥の魔物のようだ。
「それは竜だ。」
ヤバい…。笑いそう。
「そんなにふるえて嬉しいか?」
「ぷっ。ちゃんとお守りにします。」
「今笑ったか?」
ウルフのオーラが黒い。
その後、川に突き飛ばされ溺れかけた。
結局、ウルフと行動する事になった。ウルフは食欲がないのか、オレにピンクの魚を全部くれた。時々、ボーっとして伏せ目がちに悲しそうな顔をする。最初はレイリアさんの事を考えてると思ったけど、違うと思った。オレが姉ちゃんを心配するのに似ていた。
「火を消すぞ。」
「はい。」
水をかけて、火を消した。しばらく、暗闇に目が慣れてくると、星が見えた。
「星までピンクですね。」
「あぁ。」
また悪い癖が出る。ボーっとしてる理由を聞けば良いのに。
「明日は、蔵刃たちを見つけるぞ。もう遅いから眠れ。」
ゴツゴツした石の上で、一枚の布をしいて横になった。眠れる訳ない。だから、星を数えた。
流れ星だ。
初めて見た。願い事を3回も言えるはずもない。ヤバい…。めっちゃテンション下がって来た。サトルとバカやって、普通に学校行って、平凡な日常に戻りたい。
そうだ。オレここにいるべき人じゃねぇじゃん。やっと思い出した。
つまんない日常が、当たり前な日常があんなに恵まれてたんだ。
目頭が熱くなって、熱い涙がこぼれる。
今さらホームシックとか、遅いだろ。
クラスメートの顔が次々と頭に浮かんだ。勉強のライバルとか、ゲームソフト貸しっぱななヤツとか、生意気な女子とか、ウザい先公とか。
ぐすっ。
明日、目を覚ましたら元通りの日々に帰れたらいいのに。姉ちゃんと大和先輩ともはぐれてんのに、無謀な願いを3回唱えた。