初めてのおつかい!?
おつかいを頼まれた。みんな私と違って!忙しいんだってさ。2枚の紙切れを渡された。買う物と、迷った時の為の地図。
紙をあけると…。暗号がかいていた。
しばらく歩くと、村があって、お店の看板にも暗号が。きっとこの世界の文字だ。
『何かあったらあのヘンテコリンな鼻歌を歌え。』
『蔵刃は聴覚が優れてますからね。』
『優れてても無理な話しなんちゃう?』
みんなの会話を思い出した。でも、おつかいもできないなんて…何も役に立てないヤツだって思われたくないし。
その後ろには…。
「奏立ち止まってるじゃねぇか!」
「蔵刃声でかいわアホ。」
「…結局私までついてきてしまいました。」
心配でたまらない三人が後をつけていた。
「あ!変な男に話しかけられとるわ!」
「蒼もうるさいですよ。」
「ったく。奏はあーゆーのに関して鈍感なんだよな。」
「それ。どういう事や?詳しく聞かせてみ。」
「私も気になりますね。」
そこに満面の笑みを浮かべた奏が立ちはだかった。
「みなさんお揃いで。」
「あれや。偶然やな!休憩しに来たらおうたねん。なー?」
「私は、魔法の石を買いに来ました。」
「だぁ!もういいだろ!心配でつけてたんだよ!」
下を向いたまま、何も言わない奏。
「奏?」
「良かったぁ。私この世界の字が読めなくて、男の人に聞いても焦っちゃって分かんなかったの。」
ほっとした奏に、一同唖然。
「私がエスコートしましょう。」
「オレがするわ!奏行くで!」
「お前ら何言ってんだよ!オレに決まってんだろ!」
キョトンとワケが分からない奏。強がりな女の子が、気が抜けた様に笑うと魅力的らしいです。
「ちょっと!みんな見てるから、もう誰でもいいよ!」
「恥ずかしいのですか?私に誘われたからしょうがないですね。」
「ははっ!おもろいわー。」
「待てって!オレを置いてくな!」
こんな逆ハーレム嫌だから!楓ちゃん助けて!
おつかいはほぼ、三人によって済まされた。オレがオレが!みたいな。どっかのお笑い芸人のようだった。
「結局みんな暇だったんじゃん。」
「るせーな。暇にしたんだよ!」
あ、今のセリフ胸キュンかも。
仲良くアジトにつくと、楓ちゃんが腕を組んでテーブルに座っていた。
「ヤバいな。楓怒っとるわ。」
「蒼!奏ちゃんについていくの蒼だけだったよね?」
ポーズは変えずに、楓ちゃんは大きな声を出した。
「楓。散歩にいくぞ。」
「…うん。」
楓ちゃんの手を引く蔵刃。二人は絵になってた。漫画の世界だから当たり前だよね。
「蔵刃しかなだめられないんです。」
「なんや、オレだけのせいになってたわ。」
「そうだね。」
蔵刃はどうやって怒りを冷ましてんだろう。またキスしてるのかな。やだな。あれ?何が嫌なんだろ。
「私は魔法を考えるために隣の部屋に行きます。」
パタンとドアが閉まる。
「やめとき。」
「え?」
「蔵刃は楓と結ばれるんやで。」
真剣なつり目気味の水色の瞳。目をそらせば、私が蔵刃を好きって言ってる気がして目が離せない。
「私異世界人だよ?変な事言わないでよ。蒼らしくないよ?」
「蔵刃はな、奏を戻そうと思えばできるんやで。何で戻さへんか知りたない?」
「私…戻れるの?」
蒼が目をそらす。
「口が滑りすぎたわ。これ以上は言えへん。」
「何よそれ!」
「じゃあ、奏が抱かせてくれたらええよ。」
「スタイル悪いって言っといて、よく言うよ。」
後ろから抱きしめられた。
「本気や。」
「もう!耳元でしゃべらないで。くすぐったいよ。」
そこで、扉が開いた。
「ただいまー!蒼と奏ちゃんそういう関係だったんだ。応援するよ。」
そのまま、楓ちゃんが屋根裏部屋に行った。気まずい雰囲気が流れる。
「ふーん。蒼もやるじゃねーか。頑張れよ。」
「蔵刃!ええんか?ホンマは奏の事…。」
蒼に刀を寸止めした。
「うるせぇ。」
蔵刃に戻してもらいたいと思ったけど、今は話せる状況じゃない。
蒼は静かに蔵刃を睨みつけていた。
夜の散歩。オレと楓は湖に来た。
「怒ったら可愛い顔が台無しだぜ!」
湖に月が映って綺麗だ。楓はその月に石を投げた。水の中の月が揺れる。まるで、オレの心だ。
「私可愛いくないもん。それに、蔵刃が可愛いって思ってくれればそれだけでいいの。」
そうだ。オレの好きな女は楓だけ。
「楓が好きだ。」
心が痛むのは、気のせいだ。
コンコン。
「おう。入れよ。」
「遅いのにごめん。聞きたい事があって。」
初めて入る蔵刃の部屋は、魔物の角とかが飾ってあった。剣が何本か置いてある。
「そんなに変か?」
ポリポリと頬をかきながら蔵刃が呟いた。
「あ、ううん。すごいなって思っただけだよ。」
「ふーん。で、話あるんだろ?」
散歩から帰って来てから、蔵刃が冷静すぎる。
「何で私の世界に戻してくれないの?」
いつもより、座ってる距離が遠い。
「…から。」
「何?聞こえない。」
「聞こえなくていい。そろそろ部屋に戻れ。」
「ちょっと。納得いかないから。」
「今すぐ出ねぇと襲う。」
「えー!」
パタン。追い出された。抱くだの襲うだの、ひどいよね。そんな脅し効かないんだから。
喉が渇いたから、タンクから水をついだ。
【奏。聞こえるか?】
…コップの中から声が聞こえるわけないよね。
【おい。】
コップの中を覗き込むと、人が映っていた。最新型のテレビ電話かも。
「こんばんは。」
【私は、】
「何を一人でコップと話してるんですか?」
後ろから、斬兎が声をかけてきた。
「違うよ。最新型のテレビ電話だよ見て!」
「…普通の水ですが?」
今の冷たい軽蔑の目。目が紫なだけに、凍りついてたよ。
「あれ?おかしいな。寝ぼけてたかも。」
「だとしたらいつも寝ぼけてますね。」
「ひどっ!もうオヤスミ!」
ぼやぼやと水に映っていたあの顔をもう一度見る事になるなんて、その時は何も気にも止めなかった。
次の日、経験値を増やしに蔵刃と蒼と楓ちゃんが外に出た。私は、斬兎とお勉強中。
「いいですか?一度で覚えてください。」
「そんなに面倒臭そうに言わないでよ。」
私は斬兎に、こっちの世界の文字を教わってます。
「むう。何でくねくねしてんの?」
「奏の書いてる文字見覚えがあります。」
斬兎が本棚から、何かを探し出した。
「ありました。」
差し出された本は、絵本だった。
「これどうしたの!?」
「古本屋に置いてました。文字に興味があった時期がありまして、買いました。」
なぜか懐かしい感じがして、目が熱くなる。
「私には分からないので、読んでもらえますか?」
「うん。」
むかしむかし、あるところに…つよがりのおひめさまがいました。おひめさまは、もりのうさぎと、おともだちになりたいのに、『わたしのおしろに、はいらないで。』といいました。
「その話知ってます。私の嫌いな話です。」
「何で?」
「私と、おひめさまを重ねてしまうんですかね。」
おひめさまは、孤独になっていく。周りには誰もいなくなり、お城だけが残るんだ。
「斬兎には私たちがいるじゃん。」
「ははっ。奏がそんなこと言うなんて意外です。人は所詮一人。それが作者は言いたかったんでしょうね。」
「違うと思う。おひめさまはお城にいることが、一番の幸せなんだよ。」
「客観的すぎますね。奏は自分と置き換えてないから冷静に見れるんです。」
絵本は人の心理だ。絵本が二つの世界で繋がってるなんて不思議。どちらかがパクったのかも知れない。