甘ったるい香り
桃色の扉は見るからに乙女チックで入るのに抵抗があった。
「李里くん早く。」
中がちらっと見えたけど拒絶反応がヤバい。ピンク一色のお花畑に、木の幹までショッキングピンクの木が並ぶ。さらに、吐き気がするほど甘い、花の蜜や果実の匂い。
に、動じず入る蔵刃と斬兎。楓さんはまだしも、何でこんな無理だろ!
「李里!しゃがめ!」
「は?」
ドスッ。
「ぐぉっ!」
オレの背中に誰かがぶつかり、そのピンクの世界に入ってしまった。まだ、倒れたオレの背中に乗る人物。
「どけよ!」
軽くなった背中に安堵し、やっと起き上がった。そしたら、三人が驚いた顔をしていた。何事かと後ろを向くと。
「この世界に閉じ込められた。」
とだけ無表情で狼みたいなカッコいい男が呟いた。
「ウルフ、鍵持ってんだろ!」
「いい加減な事言わないで下さい!なんだって今そんな冗談を言うんですか!?」
「二人とも、理由を聞こう?」
ピンクの空間は、楓のキレイな桃色の髪を引き立てていた。斬兎の取り乱した姿が貴重だと冷静に思っていた。
「全ては蒼の肩を持ったオレの責任だ。この世界の事は7割方覚えている。」
7割って、テストで言うと70点だろ?んな微妙で良いのか?
「って事は、ウルフの嫌いな世界って事ですね。」
「んじゃ、天女とかいちゃったりする!?あでっ!」
楓さんに耳をひっぱられる蔵刃。
「人魚?雪女?それとも元カノさん?」
そう言うとクスクスと笑いながら楓さんは、蔵刃の耳をはなした。前につんのめる蔵刃は前転して、斬兎はため息をついて頭を横に降った。
「そうだ。ここは妖精の国。」
オレとウルフ以外の三人の表情が固まった。
「しかも、レイリアもここにいる。」
三人が見るからに青くなった。
「辛いとは思わない。悲しい…くもない。」
「おら、楓あやまれ!」
「図星だったなんて、修羅場が見物できますね。」
「私もレイリアやだよ。帰りたい。」
また話に入れない。
「君が李里だな。二人で話そう。」
ウルフが初めて笑ってるように見えた。一番オレを見てたのはウルフだったんだ。
オレはウルフに薄いピンクの湖の近くの岩場に連れて来られた。
「初めて会ってなんだが、レイリアはオレの元カノだ。」
ソレはドドンっと効果音が聞こえそうな迫力だった。オレは呆然として、腑抜けに相づちをうつのが精一杯だった。
「しかも、この世界の妖精は誘惑して人を惑わす。そして」
その後は衝撃的な発言だらけで、頭がついていかなかった。
「お前は選ばれたんだから、共に頑張ろう。」
エラバレタ…?
まさか最初から、仕組まれてたのか?
ウルフは、今まで見た人の中で一番不器用な笑顔をしていた。そして、生まれて初めてこの人なら信じられるって思えた。そんな直感オレにもあったんだ。全身が…心がふるえた。
『フェアリーランドにようこそ』
赤く濡れる唇の妖精たちに歓迎されているのに、まだ気付かないでいた。
のは、オレだけだった。