青いオオカミ
ウルフ、それがオレのアダ名になってた。一匹狼って意味なのはすぐ分かった。まぁ、八重歯も出てるがな。
「オレと組まねぇ?損はせぇへんで?」
蒼は一番苦手なタイプだった。いつも愛想笑いしていて、表情を出さないオレからすれば嘘っぽかった。
「何が楽しくて笑うんだ?」
「ほら、オレの笑顔で幸せになるヤツもおんねん。世界のどこにおるか分からんけどな。」
またニヘッと笑った。自意識過剰で、理解不能。この時、蒼と組んだのはやはり間違っていたかも知れない。
「奏って女、そろそろ助けるか。」
いくら違反者でも死人は出せない。オレは奏のいる川に行った。
…。
目の前の信じられない光景に目を奪われた。自分の何十倍もある怪物の頭を撫でていたのだ。
「ウルフ、どうや。オレの惚れた女最高やろ?」
「気配を消して後ろに立つなと言ってるだろう。」
「まぁまぁ睨むなって、また血圧上がるで?てか、ウルフも後ろに立つやん。」
コレだから、完全に見放せない。細かい気配りも、人をさりげなく操る話術もオレには全くない。正反対の蒼だから、興味を持てた。
「オレはそろそろ戻る。この扉の鍵預けとくから、返しに来い。」
門番や特殊な力を持つ者にしか見えない鍵。蒼は驚いた顔のまま、オレが投げた鍵を受け止めた。
「分かってるな?」
「マジでいいんか?オレに渡したりしたらお前…。」
「気配りが良いのは長所でも有り短所でもあるな。オレはヘマはしない。」
最後の賭けをしよう。鍵をオレの元に届けたら、また組みたい。
【青いオオカミ】
と呼ばれたオレたちの時代に戻れたら、オレの心の氷はまた溶けるだろう。
蒼の緊迫した表情を見てから、オレは扉の空間に戻った。
きっと過去の栄光が戻るのは難しい。ただ、蒼と仕事がしたいだけかもな。誰かといたいなんて初めてだ。冷血とまで呼ばれたオレの心が変わりつつあった。
親父に呼ばれるまでは。
戻ってすぐ、親父の扉へ呼ばれた。親父は代々伝わる門番の後取り息子だ。オレからすればただの血筋があるお坊っちゃま。
相変わらずの悪趣味な黄金の門だ。
「入れ。」
「失礼します。」
ガチャ。
まるで魔王みたいな図体の親父が、王座にふんぞり返っている。
「ジン。今までどこにいた?」
ギョロっとした目がオレをとらえた。
「この水晶で見てたんじゃないですか?」
親父が、気配を消しているけど存在してる水晶を触れると現れた。悪趣味なデカい水晶。親父の全てが気に入らない。
「追放したはずのアヤツが何故いるんだ!」
「どれだけ蒼はこの世界で貢献したと思ってるんですか!少ししくじったらポイですか?蒼をこれ以上邪険にしたら、オレもここから出ます!」
「出ていけ!お前なんぞ息子じゃない!」
親父の人差し指の一振りでオレは思いきり飛ばされた。後ろの扉が開きその世界へ吸い込まれるように入って行った。